3-10
「『グァンディル王』について伝わっているのはこのぐらいかな」
「それは、文献で調べた物とほぼ一緒だな」
黒い髪、紫の瞳、城に合う服で私はディーの前に立っていた。
ガルドの城内にいるからなのだが。
『グァンディル王』はディーの先祖でもあるのだからディーにも話を聞きたかったのだがディーもいろいろ忙しいのでようやく聞く機会を持てた。
ディー曰く『グァンディル王』の絵姿などは当然だが城にあるということでついでに巫女姫がいるように見せかけるのもついでにしておこうということになりこの姿というわけだ。
ディーの説明を聞きながら二人で歴代の肖像画の並ぶ本館の二階の回廊を歩く。
グァンディル王からの大きな肖像画が広い間隔でゆったりと飾られている。
「なるほど、六代前がグァンディル王ということなのだな」
「そういうことになるな…公式的には」
ディーがやや皮肉めいた言い方をした。
「非公式なことがあるということか」
ディーが片側の口角を上げた。
「こっちへ」
回廊が左に曲がるところまできてディーが角に飾ってある台に乗った彫像の後ろにある二人分ほどへこんだ先の右側の壁に近づいた。
正面を見て人がいないことを確認すると使われていない明り取りの燭台を下に向かって力をかけると私の肩に手を置いて壁に向かいそのまま進んだ。
壁が中心から回転する扉のように動きくるりと一回転してそのまままた音もたてず閉まった。
「隠し部屋か」
ディーが黙って頷いた。
隠し部屋は小さく窓もなく明り取りの隙間からの光で何とか部屋の中が見えているところだった。
両脇に精霊の小ぶりの彫刻が台に乗せられ左右五つずつに分けて並んでいた。
その突き当りにいままでの王の肖像画よりかなり小ぶりな人らしき肖像画が壁にかかっていた。
人らしきというのは顔の部分だけが切り刻まれており切られていない下の部分でかろうじて人の肖像画だと分かる。
「グァンディル初代王のことを調べたからわかると思うが、二百年ほど前に五つの勢力が戦っていただろ」
私は頷いた。
「グァンディル初代王はその5つの勢力を力で平定した。どこにも所属せずにそのような事ができると思うか?」
「普通に考えたらどこかに所属してのし上がるという方が分かりやすいな」
「そうだ。この肖像画は5つの勢力の1つルダキア砦の最初の持ち主だといわれている」
「つまりロムリエを統べていた者か」
ディーが頷く。
私は首を傾げた。
「そうであるならその者が本来ならばガルドの初代王になるのではないか」
「本来ならな」
ディーの言い方に私は眉をひそめた。
「ロムリエの領主…彼は『精霊の怒りによって戦の塔で雷を落とされた』といわれているのだよ」
「どういうことだ」
ディーは顎の下に手を置いて軽く首を左に動かした。
「戦乱の途中に事故死か病死をしたのではないかと思われるのだが、彼についての記録がその一文以外一切残っていないのだ」
「その上この肖像画か」
事故死にせよ病死にせよこの肖像画には切り刻んだものの怨嗟しか感じられない。
「あの箱らしき物もこの感じに似ているな」
『ヴァルフの戦い』の前に何かがあってグァンディル王はロムリエの領主となり替わったのだろうか。
戦乱の世であれば臣下が王を倒すこともある。
逆臣であれどもそのまま力を持てばそれが正当化される事は乱世ならばよくある。
だが、肖像画、箱に見えるロムリエの領主に対する憎しみにも感じるこの感情は何なのだろう。
「我々でもグァンディル初代王について他にわかっていることは多分きんちゃんが調べた物ぐらいしかわからんということだ」
つまりグァンディル初代王は『ヴァルフの戦い』以前の記録を消し去ったということか。
なぜそこまで執拗に消さなければならなかったのだろうか。
そして、そのように消し去りながらもこのようなところにこの肖像画を残していたのか。
「思いを残したいのか残したくないのかわからぬな」
「そうだな」
そういいながらディーが回転壁の方に向かったので私もその後についていった。
ディーは慣れた様子で部屋の内側の仕掛の太陽と月の精霊の彫刻をずらし壁を回転させた。
私とディーは正面を確認して誰もいないことを確認してから壁から離れ回廊を左に曲がった。
「さてと、今度はきんちゃんの成果を聞かせてもらおうか」
ディーが口元を上げながら片目を閉じながら言った。




