3-8
「おばーちゃん!大丈夫?!」
ウィーガの祖母の家に入るなりヒューゴが祖母に抱き着いた。
「ヒューゴかい。久しぶりだね」
ウィーガの祖母は床の中から上半身を起こしてヒューゴを抱きしめた。
どれだけなじんでいるのだろう。
「ちょっと喉の調子が良くないだけなんだよ」
ウィーガの祖母がそういった後も小さくせき込む。
「ちょっと手伝え」
ウィーガに手で呼ばれて鍋の側に呼ばれる。
「僕も手伝う」
ウィーガの祖母から手を離してヒューゴが立ち上がった。
「お前はいらん」
「えー、手伝う、手伝う」
ウィーガの言葉にヒューゴが抗議する。
「お前はすぐ壊すからいらん。おとなしくしてろ」
「う」
ヒューゴがしょんぼりとして下を向く。
そのようなやり取りを見ながらウィーガの祖母が微笑む。
私はウィーガに言われるまますり鉢で薬草をすりつぶしてウィーガに渡すとウィーガが鍋でそれを煮詰めた。
ウィーガが布で濾したものを祖母に渡した。
「助かるよ」
「おばーちゃん良くなった?」
ヒューゴが心配そうにウィーガの祖母に聞く。
「これが一番効くねぇ」
ウィーガに向かって笑いかけるとウィーガがよそを向いた。
「それにしても、あの岩のとこで泣いてたヒューゴが女の子を連れてくるなんて…」
思い出すように目を閉じながらしみじみとウィーガの祖母が言う。
「おばーちゃんまで!」
繰り返し言われるところを見るとよほど衝撃ある出来事だったらしい。
「ご挨拶が遅れ申し訳ございません。ヴィ・ワルドと申します」
年長者ということで言葉使いを丁寧にした。
「うんうん、私はこのウィーガの祖母のメリッダだよ」
軽く会釈をしながら私が言うとメリッダは目を細めてほほ笑んだ。
メリッダという名前は『議事録』にあった。
つまりこの人が現在のバルドの部族長なのだろう。
「そういえば…」
私は採取した薬草を思い出して背嚢から出した。
「ウィーガに渡そうと思ってとってきたのだが」
「それは」
ウィーガに薬草を渡そうとするとメリッダが目を大きくした。
「それは『朔の香』だね」
「こちらではそういうのですか?」
私が読んだ本では『竜人香』と書かれていた。
「何事もなかったようでよかった」
メリッダがヒューゴを見上げてほっと溜息をついた。
「?どういうことですか」
「それは竜人の領域でしか採れないものなのだよ」
なるほど、泉は竜人の領域だったというわけだ。
「バルドと竜人は古きにわたっての因縁があるから…とにかく何もなくてよかった」
メリッダがヒューゴを愛しそうに見た。
「因縁とはどのようなことか教えて頂けるものでしたらお教えいただきたい」
「古い、話でね、バルドも昔は夜も目が見えていたのだけど月を盗まれたので見えなくなってしまったという話なのだよ」
メリッダが両手をもむようにしながら話始めた。
「『かつては地にあった月と陽は
羽根を重ねてむつみあう
寄り添い重なる姿はさしずめ暁と宵闇が交わりのように
東の月と西の日が手を指し伸ばすかのように
夕刻の赤と立ち上る静かなる黒がまじりあうよう
金色の陽だまりはやがて黒き影の獣に引き裂かれ
銀の月は影に覆われ
彼方に持ち去られた
月は陽を恋しく思い夜の中に帰ろうと
柩を竜に作らせた
竜は柩の対価を求めると月は星を与えるという
竜はその対価に満足し柩を設えた
宵闇の獣が竜に柩に月が入れないように施すように黄金を眼前に置く
竜は星に負けぬ眩い黄金に心とらわれ
漆黒の獣に言われるままに柩を月が入れぬように施した
月は夜に返ることも陽に照らされることもかなわぬことを知り
星のかけらに導かれ
竜の裏切りに悲しみのまま星を胸に深き深淵に沈む』
という歌があってね。
竜人はバルドから月を盗んだものの手助けをしたとして忌み嫌われているのだ。
向こうもそれを知っているので境界を超えると問題がおこることがあるのさ」
メリッダはそこまで言うとせき込んだ。
「大丈夫か?!申し訳ない」
私は慌ててメリッダのもとに行った。
「おばーちゃん平気?」
ヒューゴがメリッダの背中を撫でた。
「そうすると楽になるのか?」
私はヒューゴに聞きながらヒューゴがやっているようにメリッダの背中をさすった。
「いい娘連れてきたねぇ」
メリッダがヒューゴを見てまた目を細めた。
「でしょ!」
ヒューゴがメリッダに笑いかけた。




