3-1
「こっちだ」
先日の崩落で屋根がほぼなくなった歩廊を歩きながらディーが私達に言った。
ルダキア砦跡で箱が見つかったということで、私も同行することにした。
予想通り『精霊堂』にあったということで、ディーを先頭に私達は斜路を上がり屋根がなくなった歩廊を歩いていた。
精霊堂は主館の並びにあり中庭をめぐる歩廊を進んだ先にあった。
先日の崩落のせいなのかもともとの風化なのか精霊堂の入り口付近の天井は崩れ、円柱だけが残っている。
入り口付近が崩落しているのでわからないがおそらく二十人位の人間が入れるだけの広間だったと思われる。
中に進むと両脇の壁には掘られた窪みが五つずつありに各精霊をかたどった金属の置物が置いてあった。
「土の中に埋もれていたのを見つけて、掘り出して在りし日を再現してみたんだ。
結構、大変だったんだぞ。
ま、埋もれていたおかげで盗掘を免れたようでよかったけどな」
ディーが自慢げに両脇の壁を指す。
鳥・獣・木・人・太陽と月・波・光・種・魚・虫をかたどった置物が置いてある。
『昔々、世界は鳥の世界も獣の世界も人の世界も木の世界も空の世界、海の世界、
精霊の世界も地の世界、魚の世界、虫の世界、幾つもの世界が交わる事なく
ただ何もない闇の中をゆらゆらとたゆとうていました』
という始めの歌に対応しているようだ。
その先に祭壇があり。正面には
「精霊は、星を紡ぐ乙女とともに綻びを結びつけたので世界は混じりあい」という
やはり初めの歌に対応した左右に精霊と乙女の浮彫がありその中央に『グァンディル王』の金属の装飾で飾られた剣を両足の間に構えた姿の彫像が立っていた。
剣と盾は浮彫ではなく前面に立体化されており印象を強く押し出すようになっている。
右腕は上から剣を抑え左手は盾を地につけているという構図だった。
岩壁に固定しているせいかあまり破損はして無いようだった。
「これだけ状態が良く残ってれば使えるな」
私は浮彫と彫像を見上げながらディーに言った。
「この調査が終わったら本格的にやってみよう」
ディーも見上げながら言う。
「で、どこに箱があるんだ?」
私の問いに、ディーがコーガを手で呼んだ。
ディーとコーガが祭壇の前にある石でできた明り取りと共に祈りをささげるための蝋燭を置く石でできた卓子を二人がかりで押した。
卓子がずれるとその下から一人幅の階段が現れた。
その扉の横には巨大な石柱が両端に立っていた。
標準装備はできていたという事か。
先ほど開けたところから階段を下りた先は人が五、六人立てる空間になっていた。
そしてその正面にある閉じた扉の前で全員で立ちすくむ。
その金属の扉はコーガよりも高く、幅は、五人程の幅だった。
扉は中央から二つに分かれ両開き戸になっているようだった。
右側には盛り土の後ろに立つ盾を持つグァンディル王らしき男の浮彫が施され、左側には様々な精霊を現しているらしい浮彫になっていた。
「ディー、一つ聞いてよいか」
私は扉に目を置いたままディーに聞いた。
「なんだ」
「この扉は開いておらぬのだよな」
「そのようだ」
ディーも扉に目を向けたまま答える。
「では中に本当に『箱』があるかどうかはわからないということだな」
「そうだな」
私は扉を見上げていたので首が痛くなりディーの方を向いた。
「つまり、見知もせずに襲撃や誘拐をしたという事か」
「そうなるな」
ディーが扉が気になるのか私と目を合わせたくないのか扉を見上げたまま答えた。
巫女さえ連れてくれば開くとでも思ったのだろうか。
主犯は。
巫女は万能 工具か。
何やら見知らぬ主犯に対して腹が立ってきた。
「なんかおこってる?」
コーガの言葉に
「巫女をなんだと思ってるのだ」
思わず言葉が漏れた。
ディーが私のいら立ちが分かったようで肩を竦めた。
「そういう安直な考え方は好かない」
考える力があるならそのようなもの頼らずに考えてほしい。
「前みたいに祈って穴開けるってのはできないのか」
私はコーガの言葉に苛立ちを覚えながらコーガを見た。
「祈っただけで何かが起こるなどという都合の良いことは起きない」
しかも扉は金属でできている。
金属に対して糸を出したことはないので何が起こるか未知数だ。
「巫女様なのにそんなこと言うって」
コーガが言い募る。
「巫女だからこそ言うのだ」
祈ることで心の安寧がはかれるというならそれはそれでいいのだが。
それを便利 道具のように思うのは違うと思う。
それにあれは祈っているわけではない。
「大体、扉を見る限り巫女がいることが前提で作っていないように見える。
ならば、解錠方法を考えて開けるべきだ。
そうでなければ作った人に失礼だと思うぞ」
「作った人って…」
精霊石を持たない王が必要とあれば開けるという前提であれば精霊石なしで開けるように設定しておくだろうし。
「とにかく、思考を惜しむな!」
私はコーガとその主犯に向けた気持ちを言った。




