6話
翌朝、宿を出て町を抜けて北に向かう街道にでた。
「ゲラルドに向かうぞ」
「そこに行ってどうするの?」
ヒューゴが小首を傾げた。
「人と会うんだ」
ディーがヒューゴの頭に拳を落としながら返事をした。
ゲラルドは今いる町から一番近い村の名前だ。
地図の上では一日もあればつく。
「ヴィは[アデル]というのを知っているか?」
ふと、思い付いたようにディーが私を振り向きながら聞いてきた。
「いや、文献上でしか知らない」
「文献上?どのように書いてあったか思いだせるか?」
ディーが急に興味を示した。
正解にいうと、伝承と文献上なのだが、文献上との事にして話す事にした。
「アデルはガルド国の北東、旧アデル国でよいのか?だとするとその国は今の世より文明が発達していて、さながら楽園のようだった。
が、あるとき精霊の怒りに触れて消滅した。
現在は誰も住んでいない荒地になっていると書いてあった。」
「滅びたではないのか」
伝承では消滅とされているが、なんとなく黙っていたほうがいい気がしたので、
「言い間違えたようだ。すまない」
と返した。
「首都の名前とも国の名ともなっているアデルとは国を治めるたとされる女王の名前から付けられたと言われている」
私達の始祖と言われているアデリール。
実は、文献によって消滅の原因とされる事由は伝承によってまちまちだ。
いわく、封印を解いたから。
いわく、精霊の怒りをかったから。
いわく、他国に攻め込まれたから。
かなり昔の事なので曖昧なのだ。
私達が聞かされたのは、精霊の力を使っていた王国は奢り精霊の怒りに触れ消滅したという伝承。
他の伝承には精霊の力を使いという文言はでてこない。
しかし、その伝承ですら、国の人間全員が使えたのか、王家だけなのか、アデルだけなのかは不明だ。
そもそも、伝承はある意味、ほんの少しの真実と為政者による虚構を伝えるものなのだ。
ファデルの民はアデルの消滅から逃げてきたものの末裔と言われている。
現在、アデルはガルド領となっており、ファデルはそこより南に国を構えている。
ファデルの民にとってアデルは聖地でありながら忌み地なのだ。
ただ、一部のアデルの民が残り、その荒れ地に今だ住んでいると文献にあった。
滅びた王国の跡地とはいえ荒地に好んで住むというのは理解しがたい。
「きんちゃん?」
自分の思いに沈んだ私を心配したのかヒューゴが顔を覗きこんできた。
「あぁ、すまない」
ディーは訝しげに目を細めた。
「アデルに何かあるのか」
ディーは軽く手を振った。
「いや、地理に詳しいようなので聞いてみただけだ」
ディーはまた、顎に手を当てた。