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余話2 王宮院 技巧局 技工課 二期生 クラウス・マドル 城付き

 俺はちょっと今、後悔していた。

砂の匂いと鉄の匂い。

見渡す限り、見事なまでにムッキムキの巣窟だ。

まぁ、技巧局うちでも構築課辺りにいるか。

技巧局の俺がこんなところにいるのも偏にきんちゃんに

誘われたからということに他ならない。

昨日、書庫で久しぶりにきんちゃんに会って、

明日ヒューゴの試合を見にいかないかと誘われた。

武局しろつきは好きではないが、

きんちゃん一人というのも不安なのでついてきたというのが真相。

武局は城に隣接している事と卒業後に城に所属する事が多いので

他の局から城付しろつきと呼ばれている。

武局の入り口に張られた表を見る限り、

一年から最上級生よねんせいまでの一組四人編成のようだ。

団体戦で点数をとってその後個人戦になり、

何か月後かの武局の競技会に選出されるという事らしい。

最上級生までいるせいか確かに自分たち以外にも結構見物人がいる。

家族や友人と見える人たち。

右の端の方にいるきらびやかな人たちは花街の人たちだろうか。

仕事前に見に来ているようだ。

武局しろつきはそういうのがお盛んだと聞いていたけど本当らしい。


「なんでクラウスなの」

ヒューゴが試合前の自由時間にきんちゃんに駆け寄ってきて、

口をとがらせてきんちゃんに言う。

「?ミレイもエディンも誘ったのだが、

今日は忙しいと言われてしまったのだ。

何か問題あったか?」

きんちゃん曰く家のエディンも誘ったのだが

『あんなムサイところにはいきません』

と、にべもなく断られたそうだ。

それについては俺も同意見だが。

「まぁいいか、虫よけになるし」

ヒューゴがボソッと俺にだけ聞こえるように言いやがる。

俺は忌避剤むしよけ扱いかよ。

きんちゃんの言葉にヒューゴが首を横に振る。

「うん、問題ないよ、来てくれてありがと、クラウス」

目の笑っていない笑顔を俺に向けた。

「きんちゃん」

そういいながらヒューゴがそっときんちゃんの頭巾フードをとる。

小首をかしげじっと見つめてから、

「きんちゃんが見てるからがんばるね!」

と言った。

ヒューゴの言葉にきんちゃんが首をひねって

「私が見ていなくても頑張らねばいけないのではないか?」

と、返した。

ヒューゴの肩ががっくりと下がった。

気の毒なヤツ。

「そうだね、がんばるよ!」

あ、立ち直った。

「私もきちんと見るぞ」

きんちゃんがまじめに返した。

「なんか飛んできたりしたら危ないから、

頭巾フード被っててね」

ヒューゴは優しい手つきでもう一度きんちゃんに頭巾フードを被らせた。

「クラウス、頭巾フード取れないように見ててね」

こっちを向いて言うヒューゴの言葉遣いと目つきがあってない。

ほんとこいつ、いい性格してる。

「自分でとれないように気を付けるので

クラウスは試合に集中していて構わないぞ」

ヒューゴの背中を見送ってからきんちゃんが俺を見て言った。

そういう風に気をつかうとこあるよね、きんちゃん。

なんだか『いいこいいこ』と頭を撫でたくなるところだが

今、それをするのは命をすてるのと同意語なので

「ありがと」

と、ほほ笑むだけにしておいた。


いくつかの試合が終わって、ヒューゴの試合になった。

相手は、筋骨隆々とした男で腕章は二期生の物だった。

向かい合わせに立つとまるで子供と大人。

ヒューゴが試合たたかうところを見たことのない俺はどきどきした。

二期生の持ている武器えもの両手剣バスターソードだ。

重量が重く、片手でも両手でも使える。

切るというより叩くという剣だ。

模擬戦ということで刃のない模擬剣のようだが切るより叩く剣なので意味がない。

対するヒューゴの剣は左右の二本で細身の剣だ。

こちらはいつも腰に下げている剣なのでカバーいが付いているが

少しずつ敵の力を奪うことを主眼にした武器であればカバーいは不利になる。

「ヒューゴ!やっちまえ!」

「がんばれよ!」

一期生から多数、声がかかる。

ヒューゴって思いのほか同級生に好かれているらしい。

「ヒューゴ!」

なんか、野太い声も混じってる。

「ヒューゴちゃんかわいい!」

あ、花街のおねぇさんにも人気があるらしい。

その声援で逆に二期生の顔が引きつっている。

これはよくない。


「はじめ!」

審判の声に二期生がヒューゴの前に剣を下す。

ヒューゴが下ろされた剣から間をとる。

と思った瞬間そのまま飛んで二期生の後ろをとると背中に刃を打ち付ける。

二期生がその刃を振り向きざまに止める。

その反動を利用してヒューゴが左に飛ぶ。

ヒューゴの身が本当に軽い。

しかも早い。

滑りながらヒューゴが着地する。

そこをめがけて二期生の剣が落ちるのを予測していたように

その剣の腹を蹴ってもう一度空中に飛んだ。

ヒューゴの蹴りで均衡バランスを崩した二期生の頭上から二本の剣を振り下ろす。

流石に二期生らしく剣を頭上に掲げヒューゴの剣を抑える。

はじかれた反動を使ってそのまま飛びヒューゴが間合いをとった。

刀身が日差しにあたりきらめく。

武器は確かに美しいんだけど俺はいまいち好きじゃない。

それが好きなヤツも職組もあるが、

なんだかもっと小さくとも人に喜んでもらえるものが作りたいと思う。

今のところ二期生の殺気は感じるがヒューゴは殺気を出していない。

多分出すと、場所の特定をされてしまうからだろう。

ヒューゴのように動きが早いものは場所がわからないようにした方がいいという判断。

というか技巧局なのに殺気が分かるようになる俺って…。

そんなことを考えながら試合を見ていた俺は自分の足元がおろそかになっていたようだ。

「あ」

俺がこけた。

きんちゃんが俺の腰を支えた。

「大丈夫か?!」

きんちゃんの声に慌ててヒューゴの方を見ると視線を感じた。

こっち見ちゃだめだろ!

そう思った瞬間ヒューゴの右に二期生の剣が地面にめり込むほどの力で打ち付けられた。

本当にギリギリのところでヒューゴがかわし左に飛んだ。

「ありがとう」

きんちゃんに助けてもらったお礼を言う。

いまたぶん、二期生あいつよりも俺の命の方が危ない。

地面にめり込んだ剣を持ち上げているすきにヒューゴは二期生位の背後をとり上空へ飛ぶと二本の剣を首の両側に打ち据えて叩き入れた。

二期生が膝から砕けて倒れた。

「勝者、二組」

審判の声がした。


試合が終わって礼交わしたをした直後、

俺を見たヒューゴから肌が切れるような何かが飛んできた。

なんで、対戦相手てきには出さない殺気を俺に当ててくるんだ。

きんちゃんの性格だったらカメが転んでも助けるだろうによ。


「カドフィル!これ。出しといて!」

ヒューゴの声を聞きながら、

試合がすべて終わり、ずっと立っていた上に殺気を当てられた俺も疲れていた。

『解散!』

という言葉の後にすぐヒューゴは同級生に外出届であろう物を渡した。

「おう!いいぞ」

同級生がそれを掲げてひらひらとさせながら答える。

「ありがと!助かる!」

にこやかに同級生にお礼を言ったヒューゴがこっちを向いた。

「きんちゃんずっと見てて疲れちゃったでしょ。

今日はもうおしまいだからご飯食べに行こ」

満面の笑みでヒューゴがきんちゃんに言う。

「そうだな。行こうか、クラウス」

ヒューゴがきんちゃんに見えないように睨むので

『虫よけになってやったろう。おごれ』

と目で言うとヒューゴが小さく舌打ちをした。

その音にきんちゃんが反応してヒューゴを見るとまた満面の笑みで

「うん、みんなで食べたらおいしいよね」

と、きんちゃんに言った。

おまえってそういうやつだよな。

「ねぇねぇ、試合どうだった?」

ヒューゴがきんちゃんの右腕を両手で軽くつかんで

軽く屈みながら下から上目遣いに見ながら言う。

見えないしっぽがほめてほめてと揺れているのが俺には見える。

ホント、あざとい。

「いろんな武器と戦い方が見れて楽しかったぞ」

きんちゃんがほほ笑むと、

「違うよ、僕の試合だよ」

ヒューゴがすねた口調で口を尖らす。

「それなら…」

きんちゃんがヒューゴの試合について言おうとすると、

「いぬっころ風情が女連れとはおそれいるな」

さっきヒューゴに負けた二期生がヒューゴに絡んできた。

「おい、女。そんなガキより俺の方がいい事してやるぜ」

と言ってきた。

下品だな。

だから武局ちからばかは嫌いなんだよなぁ。

きんちゃんの頭巾フードを外した時を見られたようだ。

ヒューゴが無視してきんちゃんの手をとって出口に向かおうとした。

俺もそれについていこうとすると、

二期生の手がきんちゃんの頭巾フードに手を伸ばした。

「きんちゃんに触らないで!」

ヒューゴがその手をはじいた。

隣にいる俺の皮膚さえも泡立てるようなものすごい殺気がヒューゴから出た。

『喰い殺される』

生き物としての本能的な恐怖。

二期生とその取り巻きとも思える奴らが立ちすくんだ。

「いい事とはなんだ?」

そんな緊迫した中、本当に不思議そうな声できんちゃんが二期生に聞いた。

「え?」

そこにいる全員が口を開けた。

「クラウス、『いぬっころ』とはなんだ?」

きんちゃんが俺の方を振り向いて聞いてきた。

「ち、小さい犬の総称かな」

いまだある、ヒューゴの殺気の中、俺はびくつきながら答えた。

「それがヒューゴを指しているのであれば

ヒューゴは犬ではないのでおかしくないか?」

小さくもないし。

とつぶやきながら二期生をまっすぐ見る。

「あと、貴公の言う『いい事』とはなんなのだ?」

まっすぐな瞳で教えてほしい素振りで二期生に言う。

「あ、まあそれは気持ちいいことかな」

取り巻きの一人がおずおずと答える。

ヒューゴの殺気が膨らんだ。

「なぜ、貴公は私にそのようなことをいうのか?」

「ヒューゴに負けたからだろ」

俺が小声で言うと、きんちゃんが首を傾けた。

「?あぁ、ヒューゴと試合した御仁であったか。

確かに、今回は負けてはいたが

あれは貴公の戦術の誤りであろう?」

また、二期生達がぱかーんと口を開けた。

「ヒューゴの剣の軽く速度は早い、

貴公は重い剣を持っていたのだから武器同士のの相性が悪い。

であれば、貴公は本来一撃で倒せるように考えるべきだったと思う」

二期生達がきんちゃんの方に体を傾けた。

きんちゃんが座って地面に簡単な絵を描きながら説明を始めた。

「初めの一撃目は間合いを取るということではあっていたが、

その後の一振りは無駄かと思う。体力を消耗してしまうのでもったいない」

「あぁ」

つられるように二期生達も地面に座る。

「頭上で剣を防御したがあの後、

着地するところを想定して下からさらに足をすくった方が

良かったのではないかと思った…それからこの後」

きんちゃんの微に入り細に入りの解説に

二期生達の気持ちがなえていくのを目の当たりにした。

そういえば、きんちゃんって顔以外は一度見たものを忘れないんだよね。

そのまま、きんちゃんの解説が続く。

ヒューゴの殺気が薄れていったので俺は大きく息を吐いた。

「きんちゃん、お腹すいたよ~」

地面にきんちゃんを中心に車座に座り込んだ人の中、

きんちゃんに後ろから飛びついて抱きつき聞こえよがしにヒューゴが言った。

背中の重みに気づいたきんちゃんが背中にいるヒューゴの方を見る。

「ヒューゴ、クラウスすまない。

皆も疲れてるのに話こんでしまい申し訳なかった」

きんちゃんが立ち上がると二期生達もばらばらと立ち上がった。

「お前、また来るのか?」

二期生の問いにきんちゃんが頭巾フードの中の口元を上げた。

「私はヴィという。貴公の名は?」

「ガルブス」

「では、次はガルブス殿が勝つところを見に来よう」

きんちゃんは、そういってから楽しみにしてるぞ。と付け加えた。

「ぁあ」

全ての気力を吸い取られたようなガルブスにヒューゴが音もたてず近づいた。

「僕の大事なきんちゃんだから、忘れないでね」

ガルブスと俺に聞こえる声で小首をかしげ可愛い顔でにっこりと

しながらヒューゴが言った。

お前、こぇぇえ。


「お腹すいたよ~」

ヒューゴの声に、

「話し込んでしまってすまない」

と、きんちゃんがヒューゴと俺に頭を下げた。

「別に、きんちゃんのせいじゃないよ。

沢山、話したからきんちゃんもお腹すいたでしょ?」

ヒューゴが満面の笑みをきんちゃんに向ける。

「教えてほしいのだが、先ほどの者が言っていた

『いい事』と『気持ちいいこと』とは何の符牒なのだ?」

きんちゃんが小声で俺に聞いてきた。

「ヒューゴに聞けばいいんじゃない?」

俺はきんちゃんの気づいていないヒューゴの視線に怯えながら答えた。

「クラウスはいろいろ知っているので聞いたのだが」

「きんちゃんって同級生とかいないの?」

男子おれらの場合、ああいうことは同級生か便所の落書きに教えてもらえる。

「同級生?」

本当にわからないようで首をかしげてる。

そういえば、きんちゃんって技巧局とかも知らなかったみたいだし。

もしかして、集団生活したことないのだろうか。

「きんちゃん。聞きたいことがあったら僕に聞いてよ」

ヒューゴがきんちゃんの肩をさらうように俺から離した。

「必要があればそうする」

きんちゃんの答えにヒューゴが肩を落とした。

「ねぇ、僕の試合どうだった?」

ヒューゴが顔を上げてきんちゃんを覗き込むように言う。

「うん?勝ってよかったな。

あそこでよそ見しなければもっとよかったが」

「う、そういうときは『かっこよかった』

って言ってくれればいいんだよぉ」

ヒューゴが潤んだ目できんちゃんを見る。

ホントあざといヤツ。

「なるほど、そういえばいいのか」

「ね、僕に聞いてもいいでしょ」

「うん。さっきの試合、恰好よかったぞ」

にっこりと笑ったきんちゃんの発言に

ヒューゴが顔を真っ赤にしてそれを隠すように右手で顔を覆った。

可哀想なヤツでもある。

隣で二人の会話を聞きながら、俺は頭を掻いた。

ヒューゴ、今日は忌避剤むしよけ分おごってもらうつもりだが、

酒が飲めるようになったら最初はじめては俺がおごってやるよ。

そう思い空を仰ぎながら三人で食堂に向かった。

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