2-32話
私が最後の話をした後、ファルト師は取調べをしている者に今までのことを話したそうだ。
ファルト師は司書局の仕事としてファデルの司書官のミューシェの父親に会いに来てるときにミューシェに出会ったのだそうだ。
そして先には婚姻を結ぶつもりだったとの事。
ファルト師がミューシェの死亡事故のことを聞いてもミューシェの父親は何も語らなかったそうだ。
巫女がかかわっている上に『神聖王国』での麻薬の密売ということから箝口令が敷かれたのだろう。
そして、正式には婚姻を結ぶ約束をしていなかったこともありミューシェの父親はこれ以上のガルドのファルト師のファデルへ介入を拒むために何も語ら無かったのだと推察される。
そこで、ファルト師はミューシェの死には何か隠蔽されているものがあるのではないかと思ったとの事。
その時はただの疑惑に過ぎなかったのだが、一度だけ、ミューシェと一緒にいた私を見ていたファルト師は研究棟でよく似た面影のある私を見てそのころの気持ちがよみがえった。
そんなときに接触してきた男が『ファデルの巫女』がガルドにいて彼女なら真相を知っているのではないかとそそのかされたこと。
最初はミューシェと一緒にいた子供に似ていた私が巫女ではないかとそそのかした男に言ったところ、私の屋敷が襲撃された。
私の屋敷を襲撃したときにエディンとヒューゴが出てきたのでワルドの血族だと指示犯が結論づけたらしい。
ヒューゴの祖父はガルドでは有名らしいので、人狼・人猫が出た時点で私が巫女ではないと思い計画を差し替えているときにユーディアナ嬢が『ミューシェ』を知っているとファルト師に言ったことが決定打となり、ユーディアナ嬢が神学院から戻ってきたばかりというのも災いして城にいる巫女と入れ替わっているのではという推測を立てられてしまったらしい。
ユーディアナ嬢を城にいた巫女だと思ってファルト師がネルシア村で内密の話があると呼び出したところユーディアナ嬢がその思惑に乗ってしまったという事だそうだ。
なぜ、ルダキア砦跡に連れて行ったのか。
そこに箱があるからだ。
最初にグァンディル王のいたところ。
アデルの箱が有名すぎて箱が1つだと思い込んでいたのだが、
クラウスの言うように『技術者の性』があるとするなら
『アデルの箱』の箱を製作した者は後先に幾つも作っている可能性があると思ったのだ。
そして創世記の歌にあるように
『契約の箱を委ねられる
鷹の王、獣の王たる
猛き者グァンディル』
というならばグァンディル王は少なくとも箱を持っていたのではないかと
推察してそれをディーに言ったのだ。
ミレイと共に馬で向かっているとき周囲を見たが石柱はなかった。
ということは精霊石無し未使用の箱がルダキア砦跡のどこかにある可能性が高い。
ただ、実行犯のファデル師はこのことは知らなかったらしい。
指示したものが意図的に教えなかったと思われる。
もっともファルト師の主目的はそれではなかったので問題はなかったのだろう。
指示犯が来る前に私達が到着してしまったので
その者たちを捕えることができなかった。
ただ、その指示者も巫女と箱の関係性を知らなかったのではないかと思う。
分かっていたのならこのような無駄なことはしない。
そして、塔などを破壊したのは私達を殺そうとする目的の他に箱のありかを隠そうとしたのではないかと思う。
むしろそちらが主目的だったのだろう。
崩落の影響を受けないところつまりは箱は地下にあるということだ。
私の予想としては『精霊堂』の地下ではないかと思うのだが。
ということで現在、ディーの部下が探しているそうだ。
それについて、私はちょっとした提案をした。
ディーが面白がり、発掘の名目を変えた。
見つかった時は私も行く手筈になっている。
それにしてもユーディアナ嬢が『ミューシェ』を知っていると虚偽の申し出をしたのは
ファルト師のことが好きだったのでそういえば会ってくれると思ってのことなのだとか。
なぜそんないらない嘘をつくのかは私には理解できないが
ミレイ曰く乙女心なのだそうだ。
そして私は自分自身にかけていた枷に気が付いた。
失うかもしれないという恐れの気持ちが心的外傷となり他人の顔を覚えられなくしていたのだ。
ファデル師にミューシェのことを話しているうちにミューシェの顔を思い出したいと強く思い始めたらその枷が外れたようで、今は他の人の顔も認識できるようになった。
ファルト師の処遇については私にはわからないが誘拐の実行犯なのは確かなので表舞台には出られないだろうとコーガが言っていた。
私は他国のことに口を出す立場ではないのでどうにも言えないが、
ミューシェの大事な人なのだからせめて生きていてほしいとは思う。
武局が休みということでヒューゴに誘われ街を散歩していたら、
子供が食堂の荷物置き場で膝を抱えていた。
いつもであればヒューゴは気さくに子供に声をかけるのだが
今日は何もなかったかのように通り過ぎようとしていた。
「ヒューゴにいちゃん」
私はいつものヒューゴと違うので声をかけようとしたとき、
子供が顔を上げてヒューゴに声をかけた。
「ラルゴ」
ヒューゴは子供の名前を呼びながら急に私の手を強く握った。
「おじさんが死んじゃったんだ」
ヒューゴが黙ってラルゴを見た。
「母ちゃんも泣いてて…俺もどうしていいかわかんねぇ」
ヒューゴが黙って頷いた。
「おじさん、事故でって…いうんだけど
そうぎも仕事中のことだから司書局でやるって言ってて」
ラルゴが膝を強く抱えたまま下を向いた。
「…ほんとにそうかな」
ヒューゴが顔を上に向けた。
「ラルゴ、ごめん。僕は武局以外の事はよくわからないんだ」
「そうだよな、ヒューゴにいちゃんだもんな。
でも、おじさんすっごい頭良くてさ母ちゃん自慢の弟でさ…俺も大好きだったのに…
子供だから大人はなにも教えてくれなくて何もわかんないんだぜ」
ヒューゴは黙ってラルゴを見ていた。
「ラルゴ、おじさんという人の名は何というのだ」
私がラルゴに聞くとつないだヒューゴの指先がピクリと動いた。
「ディックおじさん…ディックス・ファルトだよ。きんちゃん知ってるの?」
期待を込めた声で言われる。
ファルト師はラルゴの叔父であったか。
言われてみればラルゴも同じような茶色い髪と碧の目を持っていた。
ヒューゴの指先が私の指先を巻き込むように強く握られた。
「いや、聞いたことがない。すまない」
ヒューゴの指が緩んだ。
「ラルゴ、お母さんのとこへ行ってあげたら?」
ヒューゴが腰をかがめて優しく言う。
ラルゴが顔を上げてヒューゴを見るのと同時に握っていた私の手を離した。
「ん、そうする。またな!」
ラルゴが片手を上げてヒューゴに向ける。
親族にはそのように伝えられたのか。
ラルゴもファルト師に何が起きたのか知ろうとすることがあるのだろうか。
ただ真実は優しくないことの方が多いと私は思ったのだが
それでもやはり真実を知りたいと思うのだろうか。
ヒューゴはラルゴに手を振って背中を見送ってから私の方に振り向いた。
「きんちゃん、眠くなっちゃったから一緒にお昼寝しに帰ろ」
そういいながらまた私の手を取ると元来た道を戻るのに私は黙って頷いた。




