2-28話
次に、街に来た時にフィルが見当たらなかった。
ライとエルスに聞いてもフィルの居場所はわからなかった。
『ひみつ基地』についてはフィルに当分行くなと言われたので行ってないとの事だった。
やはり、あの葉は禁制の物だったのだろう。
フィルにどうなったのかを詳しく聞きたかった。
あと、あの時に見聞きした事を書きつけて衣囊にいれていたので
それも渡したかった。
フィルを探しながら道を進んでいくとマーリアが一人で石段に座って
足を上下に揺らしていたので、フィルがどこにいるか聞いて見た。
「フィル?あ、そうだ先に『ひみつ基地』に行ってるから
ヴィがきたら連れてきてっていってわ」
そこは、フィルがいかないように言っていたとこではないのか?
「そこにはいかないようにと言われたのではないのか」
マーリアがややいらだったような顔をしてから石段から降りてきて私の手を握った。
「急ぎの用事なんだって」
マーリアの体がすでに『ひみつ基地』の方を向いていた。
「そうなのか?ならばミューシェに行くことを伝えないと」
「急ぎって言ったでしょ!!」
マーリアに急に怒鳴られて驚いた。
「私が後でお姉さんに言っとくってば!」
私は強引にマーリアに手を引かれ『ひみつ基地』に向かった。
『ひみつ基地』着くとマーリアは私の手を取り、
部屋いっぱいになった鉢に植わった草をかきわけるように進むと
縦に細長い宝箱の入っていた箱を指さして
「その中で待っているようにいってたわよ」
と言った。
「?どういうことだ」
マーリアはイライラしたように私の腕をつかんでから突き飛ばすように
私の体を強引に箱の中にいれた。
「あんたがわるいんだからね!」
「え?」
扉が勢い良く締まり、私は箱の中に閉じ込められた。
外から鍵を閉めた音がする。
音を立てて去る足音とともに、
「あんたのせいでみんなここに来れなくなったんだからね!
せきにん取りなさいよね!」
という言葉が聞こえた。
ここにこれなくなったのは私が原因ではないのだが。
フィルはいったいマーリアにどのような説明をしたのだ。
鍵を掛けられた箱に入るということが『せきにんをとる』ということなのだろうか。
最初の話と最後の話の結論が合っていないことで私は混乱した。
結局、フィルは来るのだろうか?
閉じ込められてしばらくすると大人の声がした。
何かをが割る音がする。
ここから出してもらおうと声を上げようとして私はその声がこの前、
フィルと聞いていた声だということに気が付いて口を開くのをやめた。
「せめてここの分くらいとっていかないとわりにあわねぇぜ」
鉢を割る音とがさがさという布となにかがこすれる音がする。
「割る必要ねぇだろ」
「この方がこの草の全部が取れるんだよ」
「あいつらにここは壊してこいっていわれてるんだから」
「割らなくてもここを壊してしまぇばどーせ混じってわからねぇだろ」
「んじゃ、俺らの取り分がなくなっちまうだろ」
「しょうがねぇな」
鉢を割る音が増えた。
「よっしゃ!これで最後だ」
「ここ壊せるかぁ?」
「こんなぼろいの横から大槌で叩きゃ壊れんだろ」
「そうだな」
鉢を割る音が止まって、
男たちの足音が遠くなり、しばらくすると外から
ドォン!
何かを叩く大きな音がして私のいる箱が揺れた。
何かが崩落した音がした。
いい事なのか悪い事なのか上から降ってくるがれきで閉じ込められた箱が砕けた。
砕けた箱から這い出して立ち上がろうとして目の端に、フィルたちの宝箱が見えたので
這ったままそれを持ちだそうとそちらに向かった。
パシッ!
音が鳴って瓦礫の破片が手にあたった。
「ひめさま!」
声がしてミューシェの手が宝箱に届く前の私の手をつかんだ。
「え?」
なぜとも思ったが目の前にはミューシェがいた。
「フィル君が…」
言いながら私の手を強く引いた。
割れた鉢が足元に散乱し、その上に崩れてきた瓦礫が落ちてきて足場が悪かった。
ガラッツ!
ガラッ!
ミューシェに手を引かれても足がついていかず躓いたとき
上から音がして何かが落ちてきた。
「ひめさまぁ!!」
手をつかんでいた、ミューシェが私の上に梁が落ちてきたのを庇い
悲鳴のような声を上げながら私をくるむように抱きしめた。
ドウッ
「うっ!」
ミューシェが苦しそうな声を上げた。
梁がミューシャの背中にあたりその振動が私にも伝わる。
「ミューシェやめ…」
離してくれないと!!
「は、はなし…」
私はミューシェの腕の中でもがいたがミューシェの腕の方が強くて出ることができない。
ガラガラ…
ガツッ
さらに何か重たいものが崩れる音と鈍い嫌な音がしてミューシェの体が大きく傾いだ。
「あっぅっ!」
ミューシェの声が漏れて何か暖かいぬめりとしたものが私の頬に滴りかかる。
「め…さま…だぃ…じょ…ぶ…で…か」
ミューシェが途切れた息で言う。
私を離して…。
逃げて…。
…ミューシェ…お願いだから。
「は…な…」
唇がふるえ喉が詰まったように声が途切れる。
どかッツ
「……さ…ま」
ミューシェの声が途切れた。
ミューシェの体にあたっているだろう鈍い振動を
ミューシェの胸の間で感じながら、
声を出そうとしてもきつく抱きしめられて顔も上げられない。
どうして…なにが?!
ミューシェからはさっきまでしていた声も聞こえない。
ガッロッ!
ガッ!
どコッ!
何かが崩れる音だけが私の耳に響く。
音が…。
やめて、やめて、やめてぇぇ!!
もう、もう何も…。
…………………………………………。
ガラッ!
時間すらわからなくなったころ、瓦礫が動く音がした。
「ヌーヴィエム様がいらっしゃいました!」
声と共に視界が明るくなる。
遠くから声が聞こえているようだ。
瓦礫を踏む音がして何人かの者が私とミューシェのもとに来た。
黒髪の男がミューシェの肩に手をかけて首を横に振る。
ミューシェの肩に手を当てたことで私の体は持ち上がり私は顔を上げた。
「ヌーヴィエム様が…」
その声と別の紅い髪の男が私を見て言った。
男の横から近侍の姿をした黒髪の蒼い瞳の女が現れて私を見下ろした。
その女性は一度目を伏せてから、腰を落として屈むと
ミューシェの服をかたく握り硬直している
私の指を一本ずつ丁寧にミューシェの服からはずす。
私を抱えていたのでいつものように優しい顔は傷一つない。
紫の瞳は閉じられた長いまつげの奥に隠れている。
赤く染まった金の髪が私の頬に張り付いている。
息、してない。
でもまだ暖かい。
暖かい胸。
「…ぁ…」
ミューシェを呼びたいのに声が出ない。
寒くもないのに震えが止まらない。
こんなことで…そんなことに?
私は巫女なのに…巫女だというのに…。
このようなことがあるわけがない。
「ぁ…ぁ」
叫びたいのになにも声が出ない。
「このままでは壊れてしまいますね」
副神官長が静かに言って、
深い青い目で私を見つめてから私の額に手を置いて歌を歌う。
…ぃやぁ…
本能的に私の心が抵抗した。
副神官長の歌は私の思いをねじ伏せた。
後ろから「あまりお近づきになると星が…」という声が聞こえた。
私とミューシェが載っている絵冊子が
副神官長の歌で糸でくるまれてやがてそれは乾き硬い殻になった。
二度と開かれることのないようにされた絵冊子
私は白くなった記憶の中に沈んだ。
「ュ…シェ…」
自分の声で目が覚めた。
「きんちゃん、目が覚めたの?」
優しく暖かい声がした。
体を起こしその声の主の方を見た。
目の前にいるはずなのに幕が張ったように
全部の輪郭がぼんやりとしてよく見えない。
「止まらない」
涙が自分の思考とは別にただ流れている。
困惑したまま前にいるはずの人を見るがその姿はゆらゆらと霞む。
「止めなくていいのよ」
ミレイがそっと暖かい胸の中に私を入れた。




