2-18話
「初めまして、クラウス・マドルです。
この度は忙しいところお時間を割いていただきありがとうございます。
ご厚意に甘えこのような大人数で来てしまって申し訳ありません」
クラウスが頭を下げる。
「初めまして、アンシェリィ・レイドです。
兄からお話は伺っております」
銀髪を綺麗に肩口でそろえ背中に布にくるまれた
何かを背負った少女がクラウスに言う。
「こちらが妹のアルディリス・マルド、
友人のヴィ・ワルドとヒューゴ・アル・ワルドです。
よろしくお願いいたします」
クラウスは年長者らしくアンシェリィに挨拶をする。
ディリスはすでにアンシェリィに目を奪われて
固まったままだったがクラウスに言われ頭を下げた。
私たちも同時に頭を下げる。
「見学にいらしているのですから、
私のことは気兼ねなくシェリイとお呼びください」
シェリイが涼やかな声で首を軽く傾けて優雅にほほ笑む。
「では。こちらから」
シェリイが掌で指し示しながら待ち合わせの門のところから
歌舞局の敷地に私達をいざなった。
「こちらの棟は技研課であちらが舞踏課…」
広い敷地の中に、いくつかの建物が点在していた。
其の点ではミレイのいる研究棟に似ているが
建物自体に研究棟より装飾が多く華美な感じだ。
「ここが、私のいる『奏楽課』です」
シェリイが建物の1つに入った。
確かにあちらこちらから楽器の音がする。
「うるさくてすみません。
今は創記祭に向けての練習をしているものですから」
シェリイが申し訳なさなさそうに小首を傾げる。
「創記祭ってなんだっけ?」
「建国記念日の祭りの事だよ」
クラウスがヒューゴの頭に拳骨を落としながら答える。
「いたぃぃ、あの大きな祭りの名前ってそんなんなんだ」
涙目で片手で頭を押さえながらヒューゴが言う。
「みんな『大祭』っていってるじゃん」
「正式名称も覚えろ」
クラウスがヒューゴの頭を鷲掴みした。
そういえば、私は下の方の年齢なのでそこにはいったことがないが
上の姉上たちは公式の訪問として行ったと聞いたのを思い出した。
「シェリイ様は何を弾かれるのですか?!」
ディリスがシェリイに襲い掛かるかの勢いで聞いたのを
クラウスが後ろから腰に手を回し止めていた。
「私はまだ一期生なので皆と創世記を歌うだけなのですが…」
「聞かせていただくことはできますでしょうか?!」
「私の持分だけになりますが」
失礼いたしますといいながらシェリイが近くにあった椅子に座り
背中の布に入っていた四弦の楽器を取り出すと膝に乗せた。
しばらく、調弦をしてから顔を上げた。
『精霊に見初められし
清らかなる巫女の御子
精霊に愛されしもの
漆黒の髪を持つもの
空の瞳を持つもの
かの地に留まるよう
契約の箱を委ねられる
鷹の王、獣の王たる
猛き者グァンディル
ロムリエの地に舞い降り立つ』
シェリイの歌は透明で涼やかな突き抜けた空を思わせる声だった。
「まだここまでしか弾けなくてすいません」
シェリイが照れたように薄茶色の瞳を長いまつげで
伏せながら口に手を当てながら言う。
「素晴らしかったですわ!
大祭が楽しみです!」
ディリスが両手を胸の前で組んで上半身を
傾けながらシェリイの方に行くのをまたクラウスが腰に手を回して止めていた。
「もう少し聞かせていただくことはできますか?」
その状態など気にならないかのようにディリスが言葉をつづけた。
「簡単なのですいませんが」
シェリイがまた手を楽器に置いた。
『ねむれ、ねむれ、よい子よ
ねんねの国は
月の向こうにあるお国
木に架かる月の向こう
泣くのはおよし
月の道がかすむから
星屑の橋をかけましょう
ねむれ、ねむれ、よい子よ』
「ガルドに伝わる子守唄です」
私の頭の中でぷちりと何かが切れるような小さな音がした。
「懐かしいです!母がよく歌ってくれました!」
ディリスが両頬に手を当てて感激したように肩を竦めた。
「素晴らしい声ですね」
クラウスがディリスの腰を引きながらシェリイに言う。
「ありがとうございます」
シェリイが薄っすらと頬を染めた。
「きんちゃん、どっか痛いの?」
ヒューゴが私の目の下を人差し指の背ですくいながら顔を覗き込んだ。
「え?」
そういわれてヒューゴの指がある反対側の頬に手を当てると確かに涙で濡れていた。
「?」
私は首を傾げた。
「どうかなさいましたか?」
ディリスがヒューゴの声に振り向いた。
「いえ」
私の言葉にシェリイが楽器をまた布にくるみ背中に背負うと立ち上がり、
「よろしければ別の課もご案内いたします」
そういいながら私達にほほ笑んだ。




