2-13話
ガサッ!
いつものように、夕食後に検証のために中庭に出て時間と天候を言っている時に
後ろの茂みから聞き覚えのない音がして
「グッゥ!!」
痛みをこらえる知らない声が複数後ろ側からした。
すると同時に屋敷の周囲の犬が騒ぎ始めた。
何者かがアレを踏んだようだ。
気配が近い。
思ったよりもここにたどり着くのが早いようだ。
もう少しあれの威力を上げたほうがいいか。
そう思いながら私は腰を下げた。
後ろから血の匂いと息遣いが聞こえた
男が腕を私の腰に伸ばすのを見計らって思いっきり右ひじを男の腹に入れる。
「グッ!こ、の、ガキが、ぁ!!」
反撃されるとは思っていなかったらしく
腹に手を当てたまま片腕を伸ばしてきたので急ぎ走って間合いをとった。
「そっちだ!」
男が叫ぶと前からも男が来た。
あちらにはまだ仕掛けていなかったと思うと同時に
ヒューゴが来るまで持たせなければ
と思い次の打つ手を考える。
「ヴィ様!」
ドンッ!
声と音と風圧と共に目の前の男が黒い何かによって宙に飛んだ。
私のすぐ後ろにいた男が劈くような悲鳴を上げて走って逃げた。
その後ろからも何人かの恐怖による悲鳴と痛みによる悲鳴が聞こえた。
「遅くなりまして申し訳ございません」
鋭い爪が植え込みに突っ込んでいる先ほどの宙に飛んだ男を器用に引き出しながら言う。
上からの声に顔を上げると、大きな黒い猫が月明かりに照らされていた。
「エディンです」
青い瞳を月の光で光らせながら言う。
『エディンは強いわよ』
なるほどミレイの言った意味はこういう事か。
猫 打というものを聞いたことがあるが
威力はやはり大きさに比例するのだなと感心した。
「ヴィ様、申し訳ございませんが、
縄と布をとってきていただけませんでしょうか」
エディンの目が右足爪で押さえてる男に落ちる。
「承知した…話せるのだな…べん」
「便利とか言わないでください」
なぜわかった。
そしてエディンに大きなため息をつかれた。
「た、た、すけて」
男は紐をかけている間エディンの爪の間からずっと何かを言ってくる。
「私にそのようにいわれても、決める裁量が私にはないのだが」
男の両親指を強く結ぶ。
こうすると拘束が解けにくいと本に書いてあった。
その縄をさらに手首に巻いて外れないように固結びにする。
足を結ぼうとしたらばたつかせたので
エディンを見ると爪を男の目の前に立てた。
男の抵抗が止まる。
「助かる。この方が早くて良い」
またエディンにため息をつかれた。
「ヒューゴ!」
エディンが男を作業小屋の入り口から中へまさしく跳ね飛ばして入れたとき
狼姿形のヒューゴが息を切らせながら走りこんできた。
「今頃ですか。いつもここで惰眠をむさぼっているくせに」
エディンの言葉にヒューゴの目が私とエディンと男の間で動いた。
「ミレイ様に知らせてきますので。ヴィ様のことは任せます」
そう言うと、エディンはそのままの姿で走り去った。
ヒューゴはエディンの後ろ姿を見送ってから私に振り向いて首を傾げて
「ワフゥ?」
と言った。
ミレイとともにコーガとディーも来た。
そのころにはヒューゴもこの小屋に置いてある作業服に着替えていた。
小屋に転がされている男は私から話を聞いたヒューゴによってさらに傷がついていた。
「ううん…素直にはいてくれるかなぁ」
コーガの言葉に男には口にも布をかまされたまま頷いた。
「でも、これ外して自死なんてされたらなにもわからないしな」
コーガがその布を指さしながら言うと
「え、そうしたいならその前に僕がかみ殺してあげるのに」
ヒューゴがにこにこと笑いながら男を見る。
「冗談でもそのようなことを言ってはいけない」
私の言葉にヒューゴは男の方を見ながら、
「本気だけど」
と言った。
男の口が布をかまされたままなのに必死で動いていた。
「話してくれそうだな」
ディーの言葉に男の首が何度も縦に振られた。
男から話を聞いたのち泥棒として夜警の者に引き渡した。
引き渡した時、男がこちらを見ながら「化け猫とでかい犬が…」と
つぶやいてるのを聞いて夜警の人から見えないところで
ヒューゴが後ろから蹴りを入れていた。
「そういえばヒューゴ、なんで先にきんちゃんちにいたの?」
ミレイが私の手を引き先を歩くヒューゴに聞いた。
ヒューゴは歩きながら首だけ後ろに向けた。
「踏むと僕に聞こえる音が鳴るようになってて
それが鳴ってるから慌てて行ったんだ」
言いながらまた前を向きなおす。
そう、最近クラウスを巻き込んでしている遊びとは、
屋敷全体に罠を仕掛けることだった。
あのおとぎ話をしたときにヒューゴと私は
同時に屋敷なら実践可能と思いついた。
安全のために通常道で来る限り罠にかからないように作るため、
自分達が賊になったと想定して侵入経路を考えて
そこに罠を作るという遊びに私とヒューゴ、クラウスはすっかり嵌まってしまった。
正に、趣味と実益を兼ね備えた遊びだ。
ヒューゴがミレイに言っていた罠は古典的な
撒菱なのだが、踏むと犬笛が鳴るようになっているもので
クラウス作の優れモノだ。
本当にかかる者がいるとは思っていなかったが。
襲ってきた男とその後ろにいたらしい男たちも
逃げるときにいい感じに他の罠を発動させていたようだ。
クラウスに言ったら喜びそうだ。
もともと、ヒューゴの祖父の屋敷という上に、
孫も積極的に関わっているということで
問題はないということでクラウスは新しい仕掛を
試し放題ということで今では私たち以上に楽しんでいる。
ただ、この事実をミレイたちにどのように説明したらいいのか私は考えあぐねていた。




