2-11話
ヒューゴの進級試験も終わり、
いつも通り武局帰りのヒューゴが迎えに来た書庫の帰りに歩いていると、
足元に木の葉が丸まったようなものが落ちていた。
「きんちゃん、なにみてるの?」
私が立ち止まって見てるのでヒューゴも私に顔を寄せて聞いてきた。
「この葉がなんか妙な形をしていると思って見ていたのだが」
ヒューゴが、「ぁあ」と言ってから
「それは蝶か蛾のさなぎだよ」
と言った。
本で見たときは白黒で描いていたが実物は鮮やかな緑だった。
「蛹というのは木の枝などについている物ではないのか?」
「たぶん風とかで落ちちゃったじゃない」
「このまま置いておいていいものなのか?」
私はその場に座り蛹を見ながら聞いた。
「たぶんこのままだと死んじゃうと思う」
「どうすれば助かる?」
ヒューゴが私の背後から中腰で覆いかぶさるように蛹を見ながら答えた。
「ううん…と、手で触らないでなんか布でそっと拾えばいいかな」
ヒューゴが武局で使った薄手の手拭を私に渡した。
私は手拭の端を使ってそっと蛹を布に収めた。
「あとどうしたらいいのかわからないからザヴァーリんとこ行って聞いてみよ」
私は立ち上がり両手を皿のように広げた体制のままヒューゴに腰をさらわれるように小走りでヒューゴの言うザヴァーリのもとに向かった。
「ザヴァーリ!いるー?」
「開いてるよ」
中からの声にヒューゴが勢いよく扉を開くと扉の中は混沌だった。
まだ日が落ちていないのに室内が暗い原因は
窓にまで積みあがった物が窓をふさいでいるためで、
そしてそれ以上に部屋の中は物が散乱していた。
「なんだ、ヒューゴか」
物と物の間から麦の穂のような男が姿を現した。
男は床に落ちているものを気にもせず踏みながら扉まで来た。
「うん、ザヴァーリに聞きたいことあって」
ザヴァーリはヒューゴを見てから私にも目を向けた。
「ま、とりあえず入って」
入る場所のないところに招かれた。
ヒューゴは気にすることなくザヴァーリの後についていき
乱雑に積んである木材の上に腰を掛けた。
私も倣ってその隣に腰を落とした。
「んで、どうしたの」
「さなぎが落ちてたからどうしたらいいのかなぁ
と思ってザヴァーリに聞きに来た」
「あ、その娘が持ってるやつ」
「そう、きんちゃんの持ってるやつ」
言われて挨拶を忘れていたのを思い出し
慌てて立ち上がろうとするのをザヴァーリに手で制されて座り直しながら
「ヴィ・ワルドです」
と言った。
「きんちゃんが育てるの?」
ザヴァーリが私を中腰で見下ろしながら言ってきた。
「育てる?」
「もう蛹だから見守るだけみたいなもんだけどね」
私は両手の中の蛹を見た。
「できるのならそうしたい」
「ふぅん、ちょっと待ってて」
ザヴァーリは軽く口角を上げて部屋の中で何かをがさごそと音を鳴らしながら引き出した。
「急いでるから、げーじゅつてきなのでなくていいからね!」
ヒューゴがザヴァーリの背中に言うと
はいはいと何かを探しながらザヴァーリが答えた。
「んしょっと!」
物の間から長い棒のようなものを引き抜いてからその横に転がっていた鉢を持った。
ヒューゴにその鉢を持たせると
「外行ってそこに土入れてきて」
と言った。
私も手伝おうと立ち上がろうとするとザヴァーリが私を手で制しながら
「きんちゃんはそれをそのままそっと持ってて」
と言いながら片目を閉じた。
ヒューゴが外に行っている間、
ザヴァーリ薄い経木を器用に円錐状にして持っていた棒に括りつけた。
その後、その円錐状の物の上に短い横棒を付けた。
「うん、あとはヒューゴが戻ってくればよし」
そういった時にヒューゴが鉢を抱えて戻ってきた。
ザウァーリは持っていた木の棒を鉢に刺すと円錐状の物を指さしながら、
「この中に蛹を入れて」
と言った。
私が言われた通りにすると、ザヴァーリがふっと溜めていた息をついた。
「たぶんこれでで大丈夫。ちゃんと生きてたら10日位で羽化するよ」
「ありがと!」
ヒューゴが鉢を持ち上げお礼を言うと
ザヴァーリが笑いながらヒューゴの頭を撫でた。
「ありがとうございました」
「もう、日が落ちるから早くかえりなね」
「うん、わかったザヴァーリ、またね!」
ヒューゴが鉢を持ってない方の手を上げながら言うと、
「またきんちゃんと一緒においで」
ザヴァーリがまた混沌の中に潜り込みながら言った。




