2-10話
「お姉さま達は小さいころどのようなお話をよく聞かれましたの?」
クラウスに連れられてきたクラウスの妹のディリスを交えて
ヒューゴの勉強休憩のお茶を飲んでいるときにそんな話になった。
発端は、歌舞局の舞踏劇の話をディリスから聞いていたのだが、
そのディリスが思いついたかのように聞いてきた。
「私はやっぱり王子様とお姫様や騎士様が出てくるものが好きでしたが」
そういってから私の方を向いて
「ヴィお姉さまはどのようなお話がお好きでしたか?」
と聞かれた。
基本的に同じ話は何度も聞かないのでどの話もそれほど印象に無い。
「どきどきとかわくわくしたお話はなかったの?」
考え込んでしまった私をニコニコと見ながらミレイが言う。
わくわくしたと言われればそんな気持ちになった話があったな、と思い
「わくわくした話ならある」
「どんなお話?」
ミレイがほほ笑みながら私を見た。
「『ウサギの兄弟ときつね』の話だ」
「ヴィお姉さま、それはどのようなお話ですの?」
ディリスが聞いてきた。
「『ある森の中に、ウサギのお母さんと九匹のウサギの兄弟が暮らしていました。
ある日、ウサギのお母さんが出かけることになりました。
「この辺りにいは悪いキツネがいるから、
お母さんが戻て来るまで決して扉を開けてはいけませんよ」
ウサギのお母さんはそうウサギの兄弟にそう言い聞かせ出かけました。
お母さんが出かけてからしばらくすると、
コンコン
扉がたたかれました。
「どなたですか」
子供たちが扉の向こうから聞くと、
「頼まれていた薬草を持ってきたので開けてください」
という声がしました。
そういわれて一番目のウサギが扉を開けようとしたのを二番目のウサギが止めて
「お母さんが帰ってきたらいきます」
と扉の向こうに向かって言いました。
コンコン
またしばらくすると扉がたたかれました。
「どなたですか」
子供たちが扉の向こうから聞くと、
「あつあつの汁を持ってきたので開けてください」
そういわれて三番目のウサギが扉を開けようとしたのを四番目のウサギが止めて
「お母さんが帰ってきたらいきます」
と扉の向こうに向かって言いました。
コンコン
またまたしばらくすると扉がたたかれました。
「どなたですか」
子供たちが扉の向こうから聞くと、
「お母さんですよ」
そういわれて五番目のウサギが扉を開けようとしたのを
六番目のウサギが止めて、
「お母さんなら手を見せて」
と扉の向こうに向かって言いました。
「では、扉を少し開けておくれ」
扉の向こうで声がしました。
七番目のウサギが扉を少し開けると茶色い手が見えました。
八番目のウサギが
「お母さんの手は白いよ」
と言って扉を閉めようとすると扉の向こうの声が
「泥の中に手を入れてしまったのよ。
右手は白いから見せるので開けてちょうだい」
と言いました。
お母さんが帰ってくるととウサギの兄弟は
家の中にいませんでした。
お母さんが家の中を探していると窯の中から音がするので
開けてみたら九番目のウサギが灰だらけになって出てきました。
お母さんは九番目のウサギから話を聞くと
台所にあったナタを持ってキツネを探しに行きました。
キツネは池のほとりで大きなおなかを上にしてグーグー眠っていました。
ウサギのお母さんはナタでキツネのおなかを半分に切ると
ウサギの兄弟が出てきました。
ウサギの兄弟とお母さんは
キツネのおなかに石をつめて池の中に落としました。
それからはキツネもいなくなりみんな幸せに暮らしましたとさ』
という話だが」
「で、その話のどこにわくわくしたの?」
ミレイが首を傾げながら私に聞いてきた。
「罠をかけるならどこが最適かと考えてわくわくした」
「え?」
「んん?」
「どういうこと?」
首を一様に傾けたミレイとディリスとクラウスに聞かれた。
説明が足りなかったらしい。
「お母さんウサギは近所にキツネがいるとわかっているなら
出かける前に家の周囲に罠をかけるべきだと思ったので、
だとすれば、罠を仕掛けるならどこがいいか、
などと考えたら楽しくてわくわくした」
そう、この話を聞いた夜に寝台に横になってからも、
玄関回りを中心に罠をかければ母親が返ってきたとき、
確認を含め解除していけるので安全だろうかとか、
あと罠は何度か使えるものがいいだろうなとか、
侵入経路は扉の他に窓や屋根などもあるから経路を考えて、
他の地点にも罠をしかけるならばどこがいいだろうかとか、
周囲が森ということは木などを活用した罠が作れるな。
など考えていたらわくわくしてなかなか寝付けなかった。
「あの話でどうしてそうなるの?」
「わかっている危機ならば対策をすればいいのにと思ったので。
他には家の中にも緊急避難場所があるといいとか、
些細なことならば何の汁かも気になったが」
ミレイの質問にうなずいてから言葉をつづけた。
「というわけでこの話が子供のころ聞いて一番ドキドキした」
聞かれたから答えたのに、
何故かミレイが額に手を当ててうつむき、
ディリスの口が開いたままになっていた。
そしてエディンはため息をついた。
「そういえばここなら…」
思いついてふと顔を上げるとヒューゴと目が合った。
ヒューゴの目も楽しそうに踊っている。
私と同じことを思いついたらしい。
そしてヒューゴと私が同時にクラウスを見た。
私が話している間中、ずっとうつむき加減で肩を震わせていた
クラウスが私たちの視線に気が付いて、
「え、俺も?!」
とクラウス自身を指さしながら驚いたように目を大きくした。




