2-3話
ミレイが研究棟に連れて行ってくれるという日、
ヒューゴが来ていたのでともに朝食をとっていると
扉がたたかれた。
ミレイが現れるとエディンが嬉しそうに迎え入れた。
エディンに関してはミレイの説得のおかげでほぼ干渉されなくなったのでだいぶ心地よくなった。
エディンは不満そうではあったが、ミレイの言うことは聞くようだ。
「ヒューゴ、武局は?」
ミレイの言葉にヒューゴは口の中のモノを飲み込んでから、
「外出届出したから大丈夫」
とにっこりと笑った。
「ここが私のいる研究棟よ」
ミレイが連れてきてくれたのは敷地の中に
いくつかの建物がある中の1つだった。
「あら、ミレイ、今日は休みじゃなくて?」
入り口にいた黒髪の女性がミレイに笑いかけた。
「今日は別件で来たの」
黒髪の女性が私の方を見た。
「あら随分、綺麗な子を連れてきたわね」
ミレイがくすりと小さく笑った。
「ガルド師からお預かりしている子なのよ」
あぁ、と言いながら黒髪の女性はヒューゴの方を見た。
私が頭を下げたのでヒューゴも同じように下げた。
「ミレイ!」
快活な声がミレイにかけられた。
声に振り向くと短い黒髪に青い瞳でミレイと同じくらいの年齢の男が軽く手を上げていた。
「久しぶりだな!」
「グルード」
ミレイが口元をきゅっと上げて笑った。
「すっごい可愛い娘つれてるねぇ。親戚?」
グルードが私の前に来て覗き込むように背を屈んだ。
「僕の親戚なんだから、グルードには関係ないでしょ」
ヒューゴがグルードと私の間に入った。
「名前くらい聞いたっていいだろ」
グルードが喉で笑いながら私を見た。
「ヴィ・ワルド…」
この相手にどのように話していいのかが不明だったので、
ミレイの方を見た。
ミレイが私の視線に気づきほほ笑んでから、
「いつもの話し方で大丈夫よ」
と小さい声で言った。
私が頷くとミレイはまたグルードの方を見た。
「ガルド師からお預かりしてる子だからちょっかいださないでね」
ミレイが人差し指を出して左右に振った。
「馬鹿だなミレイ。
可愛い娘を見たら声を掛けるってのが礼儀だよ」
グルードが私に向かって綺麗に片目を閉じた。
「これさえなければ優秀なのにね」
ミレイが額に手をつけながらため息をついた。
「うん。ほんと綺麗な子」
グルードが言いながら私の顎に手をかけようと伸ばした指をヒューゴの手がはじいた。
「グルード!
きんちゃんに触らないでよ!
武局でも有名なんだからね!
研究棟の『歩くせい…』」
後半は言いながら思い出したように慌ててヒューゴが私の耳をふさいだので聞こえなかった。
「この御仁にどんな呼称がついているのだ?」
耳から手が離れたのでヒューゴに向かって首だけ振り向いた。
「いいの!きんちゃんはそんな事、知っちゃダメ!」
ヒューゴが顔を赤らめながら言った。
「武局らしい言い方ね」
同じくミレイが顔を赤らめながら肩を震わして笑う。
「当たらずとも遠からずだからかまわねぇよ。
大体、ミレイだって武局で『ば…』」
またヒューゴに耳をふさがれた。
「きんちゃんの前で変なこと言うのはやめて!」
耳をふさがれてままだがヒューゴが怒鳴ったので聞こえた。
耳から手が離れるとグルードが口に拳を当てて笑いながら
「お詫びに、案内してやるよ」
と言うと、
「い・ら・な・い!!」
ヒューゴが一言一言区切りながらグルードを睨んだ。
「もう、ついてこなくていいから!」
ヒューゴは私の手を引きながら後ろを歩くグルードに言った。
「まぁまぁ、ヒューゴの大切なひめさまにはもう変なこと言わねぇからさ」
グルードの台詞の何かが私の頭の中で引っかかった。
「きんちゃん、どうしたの?」
私の顔を覗き込むようにヒューゴが言う。
「いや、なんでもないのだが」
自分でも何が引っ掛かるのかがわからなかった。
「研究棟はね、いろんな研究室があるところなのよ」
前を歩くミレイが説明してくれる。
「ちわーっす!」
グルードは会う人会う人とあいさつを交わす。
確かに、グルードは顔が広いようだった。
「ここが私のいる研究室」
ミレイが扉を開いた先にはいくつもの棚に様々な鉱物が置かれていた。
「これをどうするのだ」
ヒューゴと並んで一つ一つ鉱物を眺めながら聞いた。
「利用方法を考えたり、分布をまとめたりしているわね。
例えば…」
ミレイが私の見ていた鉱物を持ち上げて説明しようとしたとき研究室の扉が開いた。
「ヴァーハル君、今日は休みではなかったのか」
「ファルト師」
ミレイが鉱物を持ちながら顔を上げた。
「この子たちを案内しておりました」
扉のところには三十代とおぼしき茶色い短髪の男性が立っていた
ミレイが答えると、ファルト師と呼ばれた男がちらりと私たちの方を見た。
「ガルド師のお孫さんとお預かりしている子です」
そうかとつぶやきながら屈んで机の上の書類をとる。
「なにか御入り用でしょうか?」
「あぁ、書類取りに来ただけだから、気にせず案内してあげなさい」
ミレイの言葉に頭を上げることなく答える。
「はい」
ミレイの返事に顔を上げ私とヒューゴを見てほほ笑んだ瞬間、ファルト師の目が大きく見開かれた。
「ガルド師の…」
つぶやいてから一度目を閉じた。
次に目を開いたときは目線がミレイに向いていた。
「危ないから実験棟には連れて行かないようにね」
「承知いたしました」
そう言ってファルト師が扉から出ていくとグルードが首を傾げた。
「なんか、変じゃなかったか?
お前さんらファルト師の知り合い?」
ヒューゴと私は二人して黙って首を横に振った。
「きんちゃん、どこまで説明したかしら」
ミレイが眉をひそめてから気を取り直したように私に話しかけた。
それを聞いてグルードが片眉を跳ね上げた。
「お!そうだ俺もヴィの事、きんちゃんって呼んでいい?」
と言いながら私の背中から覗き込むようにしてみてきた。
「ぜぇっったいダメ!!!」
私が答えるより早くヒューゴが、
グルードの体に両手をついて私の背中から引きはがしながら言った。




