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2-2話

 家から出ると、自然に大きく息が漏れた。

出かけると言ったらエディンが髪をとかしたり服を着せようとするので全て断った。

それだけでも時間をかなり使った。

本当に時間の無駄だ。

ミレイに一度相談しようと思う。

そういえば、

「ヒューゴも私のために来てくれていたのか?」

私の問いにヒューゴが肩を竦めた。

「それもあるけど、僕のはまた違うから気にしないで」

ヒューゴは私の手を取り握り、

「いこ!」

とにっこりと笑いながら手を引くように歩き始めた。


 さすがに住んでいる町らしくヒューゴにしては迷いなく歩いている。

「ヒューゴ兄ちゃん!」

ヒューゴの姿を見かけたようで子供たちが露地から何人も出てくる。

王宮で小さな侍女は見たことがあるがこんなに多くの子供、ましてや男の子供は初めてだ。

子供たちは口々に声を上げながらヒューゴの周りに纏わりつく。

「にいちゃん、この人だれ?」

「にーちゃんのかのじょ?」

「なまえなんていうの?」

「おにんぎょうさんみたい」

ヒューゴのみならず私にも纏わりついて、

ヒューゴと私どちらにでもない問いをバラバラに聞いてくる。

子供たちはいっせいに話してくるので、鳥の巣の中に入ったらこのようなものではないかと思う。

「今日はきんちゃんと一緒だから遊べないよ」

ヒューゴ言うと、

「きんちゃんっていうの?」

男の子の一人が碧の目を大きく開いて私をじっと見る。

「そうらしいな」

私が答えるとその子供の興味が私に移ったようで服の袖を引かれた。

小さな侍女にしたように腰を落とし子供の顔の高さに目を合わせると、ほかの子供たちも私の周りに集まってきた。

「何が聞きたいのだ」

目の前の子供に聞くと、

「えっと…きんちゃんってなんさい?」

「16だが」

「にいちゃんとおなじくらい?」

横から別の子供が聞いてくる。

「そうだ」

「にーちゃんのかのじょ?」

一人の子供が聞いてくる。

「『かのじょ』とはなんだ?」

私は腰を下げたままヒューゴを見上げながら聞く。

「な、なんでもないよ。きんちゃんは親戚なの!」

慌てたようにパタパタと手を振りながらヒューゴが言う。

「あ、雨」

甲高い女の子の声がして上を向くと雨がぱらぱらと降ってきた。

「きんちゃん、こっち!こっち!俺んここだから!」

目の前の男の子に手を引かれ不自然な体制のまますぐ横にある民家に入った。

「ラルゴどうしたんだい」

入った扉の奥から細身の女性が腰に手を当てながら出てきた。

ラルゴと呼ばれた男の子と同じく茶色い髪に碧の瞳をしている。

「雨ふってきたから、きんちゃんとヒューゴ連れてきちゃった」

ラルゴと私の後ろからバタバタとヒューゴと他の子供たちが部屋に入ってきた。

「雨が降ってきたならしかたないねぇ。お客さんの邪魔になるんじゃないよ」

『お客さん』と言われて周囲を見るといくつか並んだ食卓テーブルがあり奥の食卓テーブルに男性が三人座っていた。

「お前たち、おれん食堂めしやなんだからしずかにしろよ」

ラルゴがほかの子供たちに命令するように言った。

「うん」「はーい」「ん」

ぱらぱらといくつかの返事が返ってくる。

「きんちゃん、きんちゃん、なんか面白い話しってる?」

ラルゴが期待を込めた目で私を見る。

「話か?」

私がヒューゴの方を見るとラルゴの方を眉根を寄せて見ている。

「ヒューゴ、どうかしたのか?」

ヒューゴは私の声に気が付いたように顔を上げるとにっこりと笑った。

「だって、雨降ってきてつまんないじゃん。

ヒューゴにいちゃんは面白い話とか何にも知らないんだぜ」

ラルゴがちらりとヒューゴを見ながら言う。

「きんちゃん、もう行こうよ」

ヒューゴがラルゴに取られていた手を外して私の手首をつかんだ。

「だが、外は雨が降っているのだろう?」

「そうだよ、いま出たらきんちゃんぬれちゃうじゃん」

ラルゴが勝ち誇ったようにヒューゴに言った。

「どんな話がいいんだ?」

私はラルゴたちに聞いた。

「おもしろい話」

「えー、かっこいいゆうしゃとかの話がいいよ」

「こわいはなしー」

「おひめさまのでるの」

あちらこちらから声が上がる。

「怖い話とはどういうものだ?」

私は横を向いてラルゴに聞いた。

「え~、お化けとかゆうれいとか、かいぶつが出てくるはなしだよ。

きんちゃんそんなことも知らないの?」

ラルゴは威張るように胸をそらしながら言う。

「幽霊とかが出てくると怖い話なのか?」

「そうだよ」

「そういう話なら聞いたことがある」

侍女たちが話しているのを聞いたことがあるのでそう答えると、

「きんちゃん、知ってるのおしえて!おしえて!」

ラルゴが碧の目を輝かせて私の手を引いて椅子に座らせた。

他の子供たちも各々椅子に座り私の方を期待を込めた目で見つめる。

ヒューゴは渋い顔で私の隣に腰を下ろした。

「私が聞いたのは…」


 話し終わると急にヒューゴが私の腕をつかむので、

驚いて見ると青ざめた顔をしていた。

「に、にいちゃん、こ、こわくなったんだろ」

目の前のラルゴも青ざめた顔をしていた。

食堂の中はしんと静まり返り雨音だけが聞こえる。


ガタン


客と言われた男の一人が立ち上がり椅子が鳴った。

「キャーーー!」

「うわぁー!」

「あー!!」

子供たちの声が上がる。

「みな、どうしたのだ?」

私はなぜ皆が強張った顔で叫び声をあげたのかわからず、

腕をつかんでいるヒューゴに聞いた。

「きんちゃん、話うますぎ」

ヒューゴががっくりと首を垂れた。

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