22話
グレンの説明によるとあの後、軽いけがや倒れた者はいたにしろ崩れた城の中から全員出ることができたそうだ。
そして、グレンの村も一部崩落があったがおおむね問題はないらしい。
今までグレンの村は『箱』の存在を隠すため近隣から意図的に隠れるようにしていた。
ハルドの村の住人達は箱を探しに来たらしい自称商人が略奪行為をしたため逃げ込んだ山へ山狩りをしたときグレンたちの村を見つけてしまったので仕方なく男性は拘束し、婦女子は村で預かっていたとの事。
グレンの父親である現村長がアデル城の中の財貨を外に換金しに行っており不在だったため戻り次第対応を決めるはずだったとのことだった。
拘束していたといっても比較的人道的に対処していたのだそうだ。
そこは隠れていても王族の子孫という矜持があったらしい。
現在、グレンの父とハルドの代表者が話し合いをしているとのこと。
その話し合いにガルド王国の事務官を派遣しようとディーが提案し、グレンの父も了承したそうだ。
各部族をとりまとめているガルドの事務官がくるのであればさらに話がまとまりやすくなるだろう。
グレンの父はこのままでは村が立ち行かなくなると考え村の外への外交を主張していたが箱にこだわる者たちが反発していたところに今回の騒ぎが起こった。
箱があのようなものであったことと神官長であるメーヴィの進言もありグレンたちの考えに賛同するものが多くなったとグレンが言っていた。
「けどな、行きがかり上とはいえ捕まえていた人間と仲良くしてくれってのはなかなか難しいよな」
グレンが首を鳴らしながらそう言っていたのでふと自国の精霊祭を思い出し、
「きちんと対応していたのであればいずれは分かってもらえるとおもう。
そして二村で祭りなどできたら仲良くできるかもしれぬな」
と、私が言うとグレンは私の髪をかき混ぜて、
「ちび巫女はいいこと言うな!」
といった。
ふと疑問に思ったのだがグレンは私を幾つだと思っているのだろうか。
なぜだか聞かない方がいい気がしたので私はそこで口をつぐんだ。
私は月を見上げていた。
一通り、皆と話した後まだ疲労が残っていたのか眠りについてしまい目が覚めたら月が登るような時刻となっていた。
私は寝台から降り音がしないようにそっと外に出て月を見上げていた。
落ち着いて月を見上げるのは久しぶりだった。
ファデルにいたころは当然夜半に外に出るなどということはできず、月はいつも窓枠の中だった。
城を出てから初めて枠に入っていない月をみたのだ。
この後はたぶん、また枠に入った月しか見られなくなるのだろう。
二年程前、どうしても城から出たくなった。
最初は、漠然とした思い。
しかし日に日にその気持ちは強くなり、それを決行できる最良の日を考えていた。
自分でも本当にそのようなことをするとは思っていなかった。
城を出て、森の中の小屋を見つけ、ヒューゴに会い、ディーやコーガ、ミレイと出会い、伝説に近い『精霊の箱』を開け、グレンの村まで来た。
開けた『精霊の箱』という名の増幅器の中はアデリール(あるじ)を失った精霊石だった。
あの人形は精霊石の知る最後のアデリールの姿なのだろうか。
『箱』の中は精霊石だけ
そうだ、本体の無い精霊石だったのだ。
あれは。
本体が無いのに、いや、ないゆえか暴走した。
精霊石が。
私は城を出たいと思った。
最初は、漠然とした思い。
しかし日に日にその気持ちは強くなり…
ソレハ、本当ニ私ノ意志ダッタノカ?
急に全身が冷たくなった。
一部を除いては。
冷たくなった指先をそこだけ熱を帯びた精霊石の上に当てる。
そう考えたときにいろいろな欠片が1つに合わさるようにある答えを描き出す。
増幅器があったとはいえ、国一つ崩してしまう力。
意識がないとはいえ人を操り動かすことのできる力。
今後、増幅器のようなものが作られないと誰が断言できるのだろう。
ファデルという宝石箱に大事にしまわれていたのは
『精霊の巫女』
その箱から私は出てしまった。
体中の力が抜けて膝が崩れた。
それはこの精霊石の意志なのか。
私はしばらく何も考えられなくなり座り込んだまま、これからも見るであろう
枠のない月を見上げていた。




