17話
「ここはお城なのかしら」
ミレイの言葉にみんななんとも言えない顔でうなずく。
引きずられたかいもあったのか掌大の穴は大人二人が通れるほどの大きさになり私たちは楽々と磨かれた石のある側に降り立っていた。
降り立ったところはいくつかの箱があり中には確かに昔の通貨が入っていた。
その部屋らしきところを出ると石畳の回廊だった。
「城かぁ…広いな」
コーガがぽつりとつぶやいた。
為政者の権威を示す建築物である城なのであるから当然広い。
「『箱』どこにあるのかねぇ」
「あることはある」
コーガのぼやきに思わず答えてしまった。
ヒューゴにつながれた手が強く握られる。
あの後、ほぼ強制的にヒューゴに手をつながれているのだ。
立ち上がった時に差し出した手をそのまま放すことなく今に至る。
「ヒューゴ、いいかげん機嫌直しなさいよ」
ミレイがヒューゴの後ろから声をかける。
ヒューゴは眉間に皺をよせたたまま一言も発しない。
「大体、最初お前が連れて行くって駄々こねたんだろう」
ディーがあきれたようにため息交じりに言うとヒューゴが口を尖らせた。
「私が決めて同行しているのだから何事があっても私の責任だ。
だからヒューゴが気にすることではない」
私がそう言うとヒューゴが口をもごもごさせてから、
「いろいろそうかもしれないけど…うん!いいや!僕が守ればいいんだから!うん、うん」
と言ってひとり頷いた。
崩れ落ちた柱やとうの昔に入り口の扉がなくなってしまったらしい部屋など五人であちらこちらを覗きながら探索していく。
足場も悪く、明かりは龕灯のみということではかどらない。
ディーは壁に印を書きながら私の方を見た。
口にはしないが眼差しが語っている。
ここに宝玉に関わるもの多分、『箱』があるのはさっき糸をつかまれたことと自分の宝玉がいつもより熱をおびていることからもわかる。
だが、もう一度歌えと言われたらそれに対しては躊躇してしまう。
先刻よりも『箱』に近いところで歌ったら先ほどの比でない力で持っていかれることが分かっているからだ。
私は見つめているディーに軽く頭を下げた。
ディーは軽く笑いを含めたため息で答えた。
回廊のいくつめかの行き止まりにあたった時、
「うーん」
と言いながらヒューゴは顎に手を当て下を向いてから今度は上を向いた。
と、急に先ほどの行き止まりに向かって走り出そうとした。
走り出せなかったのは私の手を握っていたせいだ。
ヒューゴはつんのめりそうになってあわてて私に振り向いた。
「ご、ごめん。手、痛くなかった?」
私がうなずくとヒューゴはつないでない方の手をディーたちに向かって軽く上げた。
「三人ともちょっとここでまってて」
ヒューゴはそう言うと三人があっけにとられてる間にディーから龕灯をさらうように取り今度は走らずに早歩きで先ほどの行き止まりに向かった。
行き止まりはどの場所も同じ模様で中指と親指で四角を作った時ほどの大きさの石が出っ張ていたり引っ込んでいたりと不規則に並んでいる。
行き止まりにつくとパタパタと今までさせてなかった足音をたてて行き止まりを行ったり来たりと数回繰り返した。
そして動きを止め、
「うん」
と、一人頷いてから私の方を見て
「三人のところにもどろ!」
と言った。
「どうしたヒューゴ」
ディーに龕灯を渡すとヒューゴは先ほどと同じように足音を立てながら行ったり来たりを数回繰り返した。
「うん、ここだけ音が違うよ」
「音が違う?」
コーガの問いにヒューゴが大きくうなずいた。
「この壁の向こう側が空っぽな音がする」
ヒューゴの言葉にディーが壁に耳を当てる。
「石が厚くててわからないな」
「体当たりしたらこわせるかな」
コーガが両の拳を交差させて二の腕を叩いた。
「石が刺さるだけよ」
ミレイに冷たく言われてコーガががっかりしたようにだらりと両の手を下した。
ディーがちらりと私を見た。
それを見ていたヒューゴがものすごい顔でディーを睨んだ。
そんな二人を見ながら私はここが城だとするとという仮定のもと違うことを考えていた。
「この先に通路か何かがあるとすれば隠し扉の可能性が高いのではないか」
ディーの顔を見上げながら言った。
「あぁ」
城のことをよく知っているであろうディーが頷きながら言った。
「んじゃぁこの壁のどこかに開く鍵があるのか?」
コーガがきょろきょろと正面の壁を見た。
私は自分が城を出た時のことを考えていた。
私が通ったのは衣装部屋の棚の奥の扉だが、その扉を開くためには衣裳部屋の扉を閉めてから衣装箪笥の蓋を開くと空気穴に見える下の格子が開くというものだった。
逃走用の通路なので追っ手を遮るために衣装箪笥の蓋が空気穴を隠すようになっており蓋を閉じればまた格子が閉まる仕組みになっていた。
「何か仕掛けはあると思うがその仕掛けは通路につながるところには作らないと思う」
私はディーに話しかけた。
「だからと言ってあまり離れたところでは通る時に時間差が出る」
私の言葉にディーは顎に手を当てながら頷く。
「取り敢えず、両側の壁を調べてみるか」
龕灯で壁を照らしながらそう言った。
「んじゃ、僕こっちの壁見る」
ヒューゴが反対側の壁に向かいながらそう言うと、コーガが目を見開いた。
「明かりは?」
ディーの問いにヒューゴが小首をかしげた。
「別に見えるし」
ヒューゴは変なことを聞かれたかのように不思議そうな顔をしながら返した。
「さっきまで使ってたろーよ」
コーガが両手を上にあげて疑問を示す仕草をした。
「だって入るときは先頭だったし、さっきはきんちゃんと一緒だったから」
何事もないようにヒューゴが言うと、
「んじゃ、そっちたのむわ」
コーガがため息をつきながらそう言った。
「ねぇねぇ、この石とこの石なんかピカピカしてない?」
しばらく、皆で壁を調べているとヒューゴが私の服の袖を引きながら言った。
ヒューゴの言葉にぼんやりと見える石を見てから指示された石の表面を触る。
「確かにほかの石より表面が滑らかだな」
ディーに声をかけて龕灯を石のそばに持ってきてもらい皆で見てもらった。
「確かに違うな…ヒューゴこういうのはこの石だけか?」
ディーが聞くとヒューゴは首をふるふると横に振った。
「んとね、あっちとこっちとそことそこ」
石をいくつか指さしていく。
「ディーすまないがこの石に光をあててもらえないか」
私はディーを見上げながら一番そばにあった石に明かりをあててもらった。
「ん」
私は髪を一本引き抜くと石の四辺に差し入れてみると隙間に塵も入っていないようでするりと中に入った。
「やはりこの石、動かすことができそうだ」
ディーを見上げながら言うとディーも頷いた。
「言ってくれれば僕の髪抜いたのに!」
ヒューゴが私が髪を抜いた辺りを撫でながら言った。
ヒューゴが見つけた石のほかにもそのような石がないか皆で見てみたがヒューゴが初めに見つけた四つの石の他は見当たらなかった。
四つの石は二つは出っ張っており二つは引っ込んでいる。
石は人の手の届く範囲に集中していた。
位置としては、ディーが腕を上に伸ばした時の掌の辺りと顔の辺り、肩口の辺り、腹の辺り。
「どれを押すのだと思う?」
ディーの問いに皆一斉に首を傾げた。
石は伸ばした手の辺り、顔の辺り、肩口、腹…。
どこかで見たような順番。
私は何で見たのか思い出そうと記憶を探った。
ゲラルドの村についたとき
コーガがディーに向かって片手を上げ肩に手の平をあて頭を下げた。
略式だが正式な礼をした。
武器を持っていないことを示すためにまず利き手を上げその手を反対側の肩に置いたまま頭を下げる。
顔は腹の辺りを見る。
「礼を模倣しているのではないか」
「どういうこと?」
私の言葉にミレイが聞いてきた。
「もし、順番があるのなら忘れにくいものにすると思う」
「それで」
ディーが言葉を続けるよう私を促す。
「礼であればこの辺りの国の共通様式であるし、石の位置は成人男性の手が届きやすい高さにある」
私の言葉にディーが片側だけ口角を上げた。
「試してみる価値はありそうだな」
ディーはまず伸ばした手の辺りの石を押すと肩の辺りの石がせり出てきた次に顔の辺りの石を押すと腹の辺りの石が出てた。
腹の辺りの石をディーが押すと正面の壁の右端が引きずるような音を立て横にずれた。
「ぉお!」
コーガがポンっと手を鳴らした。
「きんちゃんよくわかったわね」
ミレイが開いた扉をくぐりながら言った。
「ディーの身長に対応した高さならば男性の作った設定ではないかと思った」
「それで?」
くぐり終わったミレイがうれしそうに微笑みながら私を見る。
「挨拶を忘れる男性はいないと思ったので」
「きんちゃん、賢い!」
ミレイが手を差し出して私の頭を撫でた。
私は急に触れられたので驚いて立ち止まり首をすくめた。
「あ、驚かせてしまったみたいね、ごめんなさい。ヒューゴが撫でていたので大丈夫かと思って」
ミレイが申し訳なさそうに手を引っ込めるので私の方が恐縮してしまった。
そういえば、ヒューゴに触られてもあまり緊張しない。
何度か狼の姿形のときに何度も触れていたからだろうか。
私はそのようなことを考えながらヒューゴに手を引かれるまま歩いて行った。




