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16話

「うーん!」

目の前のコーガが声を上げながら大きく伸びをした。

眼前には山がある。

山があるということは確かにガルドの伝承が正しいということに他ならない。

アデルの城は山城でない限り滅びとともに山に沈んだのだ。

城はこの山の土の下もしくは中にあるということなのだろう。

石碑を地図に記入し範囲を狭めていくとやはりハルドの村の北側の山の1つに行き当たった。

石碑をたどっていったので正確には城というより城の正面にあった石柱の場所である。

土の中なので正面から入れるとは思わないが石柱の痕跡のほうが土の中の城よりは見つけやすいのではないかと思う。

ここまでくればウォンデルでの実験の成果も生かせる可能性も高い。

「行くか」

ディーが庭園に散歩にでも行くような軽い口調で言ったのを合図に山の方へ歩き始めた。


そろそろ山道につくというところでヒューゴの足が止まった。

それを見て、ディーとコーガ、ミレイが足を止める。

「!」

後ろから金属が当たる音がした。

ヒューゴの左右に持った剣が後ろから襲ってきた男の剣をはじいていた。

ディーが私を手で後ろに下がらせた。

「申し訳ございません。ここで行方不明になっていただきます」

襲ってきた男の言葉に、すでに抜刀していたディーがため息をついた。

「この忙しいときにウェンデルトは何考えているのだか」

ディーの言葉に返答せず10人程の男たちが一斉に剣を抜いた。

「どこにいるのだ」

私はディーに小声で聞いた。

ディーは視線を右端に向けた。

「少し試したい。合図をしたら後ろに下がってほしい」

ディーがうなずいた。

向こうは10人程とはいえ前に立つコーガとヒューゴのすきを狙えず膠着状態になっている。

私は地面に手を付け神聖歌を古代語で歌った。

急な歌声に襲撃してきた者たちも戸惑い動揺している。

ヒューゴが振り向いて何かを思い出したかのように目を大きくしてから、

「あーっ!」

と叫んだ。

緊迫した場面でのヒューゴの大声にディー以外の全員がヒューゴを見た。

好都合だ。

地は私に呼応し、糸が絡みつく。

「下がって!」

私の声にヒューゴ達が後ろに飛び私は同調させた糸を引いた。


ボガコッ!!


思いのほか大きな音がして襲撃者達が私の作った対獣用落とし穴に悲鳴を上げる間もなく落ちていった。

「想定より深い穴になってしまったようだ」

私がつぶやいてからディーを見上げるとなぜかため息をついた後、指笛を鳴らして右上の斜面に控えていた者たちを呼んだ。

「なんだ~、森に出る幽霊ってきんちゃんのことだったんだぁ」

ヒューゴが納得したように頷きながら手を合わせてポンと音を鳴らした。


 「ねぇねぇ、あそこなんか崩れてない?」

しばらく山道を歩いていると急に止まったヒューゴが言うなり狼の姿になって岩場を軽やかに飛ぶように登っていきしばらくすると滑るように降りてきた。

「あそこの穴、なんか風がくるよ」

手早く服を着たヒューゴが見てきたところを指さした。

穴と言われたところを見ると明らかに人の手が加えられ多分自然に見せようと蓋をしていたのが先ほどの振動で崩れたようだった。

ただ、入り口は人がかがんで通るのが精一杯でコーガだけ苦労して入っていった。

しかし、中に入ると狭いとはいえ立ち上がって歩けるようになっている。

またここに来るつもりで掘っていたようだ。

「ヒューゴ。どっちから風が来るかわかるか?」

「うん。こっち」

風を追っているせいか龕灯カンテラを持って先頭を行くヒューゴは軽やかに歩いていく。

「なぁ、きんちゃん」

私の後ろからコーガが声をかけてきた。

いつのまにかコーガもなし崩し的にそう呼ぶようになっていた。

私が振り向くと、

「さっきのは何が起こったんだ?」

狭いからなのかそれ以外の理由なのかコーガが首をすくめながら聞いてきた。

「何のことだ」

私は意味が分からず聞き返すと、

「さっきのでかい穴の開いたやつ」

「どういうことなんだヴィ」

ディーはわかっていながら聞いてるらしく片方の口角が上がっている。

「このままでは身が危ないと思い精霊に祈ったら奇跡が起きた」

あながち嘘ではない。

「そっか、きんちゃんは巫女様だもんな」

納得するコーガ。素直に信じたらしい。

ディーは半目で私を見る。

「祈ると糸でるの?」

前の方からヒューゴが急に振り向いて言った。

「いと?」

「風がつよくなってないか?」

私はディーがヒューゴに聞くのを遮った。

ヒューゴには糸が見えるようだ。

こんなに動揺したのは初めててで私は本当の宝玉に手を当てた。

「うん、ほんとだ」

ヒューゴは前を向きまた歩き出した。


 「あ、行き止まりだ」

「そうだな」

「あら」

「ほんとだ」

ヒューゴが風を追ってきたはずなのだがそこにあるのは土壁だった。

「でも、風来てんだよね」

ヒューゴが龕灯カンテラを上下左右に動かしながら自分もぐるぐると頭を動かす。

「うーん」

ヒューゴが上を向いて大きく息を吸う、

「見つけた!ここだ!」

ヒューゴが龕灯カンテラを差し出したのは腕をおろした時の掌の辺りでたしかに穴が開いている。

大人の腕が入るか入らないかの大きさのものだ。

龕灯カンテラをその穴に近づけると土壁の横に磨かれた石のようなものが見える。

「巫女姫様の奇跡なんて起こったらすごいよね」

ディーが小声で私に言った。

ディーの中では私は自動掘削機という扱いになったらしい。

ディーの言葉に答えず私は土壁に手をあてて神聖歌を小さな声で詠唱した。

たかが土壁ならこのぐらいで大丈夫だろうと思い歌いだした瞬間糸がナニかに引きずられた。

歌いながら私は混乱していた。あまりにも向こうの引く力が大きくて私の糸ごと引きずりからめとる感覚。

歌を止めるのは逆に糸を持っていかれてしまい危険だ。

「きんちゃん!」

私の後ろからヒューゴが抱きつき引かれる力に抗うように体ごと私を後ろに引いた。

「切って!切って!きんちゃん!早く切ってよ!」

泣きそうなヒューゴの声に我に返った。

私は切れる、糸をつむぐことができるなら外すこともできる。

…はずだ。

落ち着いて糸に集中する糸を少しずつ手元に戻すあの大きな力に気づかれないように少しずつ。

少しずつ。

最後の糸が私の手元に戻る。

はじかれるように体が後ろに持っていかれた。

私の体はヒューゴを下敷きにするように倒れこんだ。

「きんちゃん大丈夫!?」

ヒューゴが私の下敷きになりながら顔をのぞきながら聞いてきた。

無言でうなずくとヒューゴが私を抱えたまま体勢を立て直し座った。

「こんなことさせて!きんちゃんになにかあったらディーでも許さないからな」

ヒューゴはディーの方を見ながら聞いたことのない声色で獣が唸るように言った。

「私は大丈夫だ。想定外のことが起きたのだけで考えが至らなかった私が悪いのだ」

実験したときに大丈夫だったからできるというのは甘い考えだったのだ。

「幸い、穴も広がったようだし行こう」

私は立ち上がりヒューゴに手を伸ばした。

「きんちゃん、もう一緒に帰ろうよ」

ヒューゴが泣きそうな顔でいうので

「ヒューゴが守ってくれるのだろ。私はそう聞いたが」

と返すと

「そうだよ」

と、ヒューゴが私を見据えて言うので

「では。進もう」

ヒューゴは私の手を取って立ち上がった。

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