13話
印のついていた村、ハルドというらしいところに着くと、
「どうやらこの村で、神隠しが起きてたらしい」
念の為にと町から馬を駆り先に周辺の村に聞き込みを行っていたコーガがディーに言った。
ディーが眉間に皺を寄せた。
驚いた様子がないと言う事は情報を収得済みなのだろう。
「周囲の村でもこの村のものがいなくなったといううわさが流れていた」
コーガがディーに言い含めるように補足した。
確かに、村は静かだ。
村に入っても人の気配を感じない。
砂や埃のつきかたからみるとつい最近まで人がいたであろう事は明白だった。
生活道具が放置してあるように見える。
「たしかに誰もいないね」
ヒューゴが左右をみながら言う。
ヒューゴの言う通り、人影はない。
「ここがその村なのか」
私はディーを見上げながら聞いた。
「わかっているかぎりはそうだ」
「ここの領主はこの事を認識しているのか」
ディーがニヤリと笑った。
「だから、ここにいる」
ミレイが周囲を見渡す。
「みんな逃げるようなことがあったのかしら」
逃げている事を希望しているような言い方だった。
「そう願いたいね」
ディーが強く息をはきながら言った。
木々の間を風が通っていく音がする。
その合間に静かな寝息がささやくように部屋に響く。
ミレイがやすらかに眠っているのだ。
昼間、村の民家を全員で調べたが村人が消えた理由は見つからなかった。
ミレイは誰か隠れているのではと家畜小屋の屋根まで上って調べていたが家畜すら見当たらなかった。
「きっと、なにかがあって逃げたんだわ」
ミレイは自分に言い聞かせるように言っていたが何もかもいない村を見れば答えは明白だった。
疲れ切った私たちは誰もいない民家を借り簡易食料を食べ眠りについた。
私は床に横たわったまま目を開き、天井に浮かぶ文様のような木の年輪を見つめていた。
もやもやとしたなにかが私を捉えている。
疲れているはずなのに瞼を閉じることができない。
人と一緒に同じ部屋にいるせいだろうか。
私は胸にある精霊石に手を当てた。
冷たい石の手触りが指の端にのりすべる。
ここではないのだ。
なぜかそう感じた。
沈む深淵の中にたゆとうものよ
深き闇に沈みしあまたの世界よ
精霊が投げしまばゆい糸に紡がれ世界は始まる
なぜか始めの歌が頭の中に浮かんだ。
私はミレイを起こさぬように極力静かにかかっている薄い毛布を体からはずし足音のせぬように素足を床に下ろした。
音に反応したのだろうかミレイの動きを感じてそのままの姿勢のまましばらくじっとしてるとまた静かな寝息が聞こえた。
私はゆっくりと足をきしむ床につけかかとがつかないよう注意しながら扉に向かい少しずつ少しずつ時間をかけて扉を開き狭い廊下に身を躍らせた。
このようなことは初めてではないのでうまくいったようだ。
部屋からは何も物音がしない。
王宮と違いこの家の床は木材が主であ
るため気を抜くと音が鳴る。
皆疲れているせいか起き上る気配はない。
私は建物から外に出て深呼吸をした。
空には静かに星が瞬いている。
そっと胸に手を当てる。
今、精霊石は呼応しない。まるで、ただの石だ。
あの時はざわめく空気、ねじれるようななにかを感じていたのに今は何も感じない。
王宮のように。
それが逆に気持ち悪かった。
何故なのか…。
「んぉうん」
戸惑うような声が後ろから聞こえた。
驚いて振り向くと漆黒の狼が私の背後にいた。
「ヒューゴか」
問うと狼はたてに首をふった。
「月の光に誘われたのか。ヒューゴ」
私の問いにヒューゴは答えず私の足元に丸くなった。
私も倣いヒューゴの横に腰を下ろした。
ヒューゴは顔を上げると私のひざの上に頭を落とした。




