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11話

 「あとは街道を外れヒューゴに会うまであの森にいた」

ディーがため息をついた。

「誘拐などと思われたら大事になってしまうぞ」

「むろん、そうならないよう最後の日に寝台の掛布の中に書置きをおいてきた」

そう、いつも晩餐会後に聞かれることもきちんとまとめて書きつけてきたので職務放棄とはならないだろう。

「なんて書いたの?」

ミレイが聞いてきた。

「『神託に誘われたため出奔いたします』」

また、3人の口が笑いの形をとったまま固まった。

「きんちゃんが追われているのってお城の人なの?」

ヒューゴが小首を傾げながら聞いてきたので無言で頷いた。

「ヴィのお付きの者達は大変だな」

ディーがいうとコーガとミレイが頷き、

3人が同時にため息をつくとディーが疲れたように

「では、我々の話をしよう」

と話を仕切り直した。

「我々はアデルで起こっている事の調査に向かっているんだ」

「アデルで何が起こっている?」

ディーはまた軽く両手を広げて手の平を上に向けた。

「わからないから調査していると言うのがいまのところは正しい」

ディーは指を組んだままの手をテーブルに乗せ軽くうなだれた。

「問題がないのならば最初から話してはもらえないか」

私が話しを促すとディーはコーガとミレイの顔を見てからもう一度、私に視線を戻した。

「ことの発端はある噂話だった。

『精霊の箱』が見つかったという話だった」

「『精霊の箱』?」

「知っているだろう?」

『精霊の箱』というのは伝説だ。

「そのような眉唾な話を鵜呑みにする者がいたのか」

「眉唾ってヴィは巫女だろうに」

ディーがため息をつく。

巫女だからこそ言えるのだが、我が国でさえ伝承に過ぎない物でしかも千年近く昔の話だ。

ファデルにある文献には伝承の一つとして

[天を紡いだ精霊の力を封じ込めた箱]

と書いてあった。

もちろん、書いた者が見た訳ではない。


他の文献に書されている伝承としての精霊の箱はもっと華やかだ。

いわく、精霊の力を閉じ込めることができ、

その力を使い世界を制することができる。

いわく、選ばれし者だけが手に入れる事ができる。

手に入れるには巫女の力が必要。

等など。

ファデルの巫女の始祖たるアデリールの治めしアデルで精霊の箱が使われ、

その力により周囲の国を圧倒し為政を行ったとされている。

つまり、精霊の箱を手に入れるということはその力によって他国を圧倒する強大な国になることができると考える者もいるであろう。

だが、今更なにゆえ捜そうとするのか疑問だ。

現在、各国の軍事的には安定し、少なくとも表面上は平和だ。

好き好んで戦を起こす必要性はないと思われる。

「元々、探して見つけた訳ではないらしい」

ディーの言葉に思考な縁から立ち上がる。

「らしい、とは」

ディーが声を潜めた。

「鉱山の試掘中にそれらしいモノを見つけたらしい」

『らしい』という事は誰かからの伝聞だという事だ。

「場所を確かめる事はしなかったのか」

ディーが両手を芝居がかった仕種で広げた。

「確かめようにも連絡が途絶えた」

「それはいつの事だ」

「三ヶ月程前だ」

成る程、春精祭の前だ。

「その試掘に携わっていた他の人間に聞くことはできないのか」

「あぁ、それは無理だな」

ディーではなくコーガが答えた。

「なぜだ」

「山師といわれているものたちは領主とかにその情報を売ることで生計を立てているからな。

一人で見つけた鉱山…お宝の場所は誰にも教えず、確証がとれたところでその場所を売りに行くんだ」

「なるほど、秘密の場所のはずなのにそのうわさはどうやって流れたのだ」

「その男が落とした硬貨を拾った者が好事家の商人に売った。商人はそれを買った後にそれがアデルで使われた物だと気がついて売りに来た男を探しだし問いただしたそうだ」

ディーが話をつなげる。

「で、その山師とやらにたどり着いたのか」

「いや、山師は行方不明になっていた。

同業の者がその男から『箱』を見つけたからこの情報を売れば大金持ちだと吹聴していたのを聞いたという」

「ではその『箱』が『精霊の箱』かどうかはわからないではないか」

私の言葉にディーは軽く首をかしげた。

「だが、『アデル』『箱』と言葉が並んでそう思わない人間はいないよ」

特に商人であればな。

ディーは言葉を続けた。

「そのようなものなのか。ではその商人がディー達に知らせたのか」

「ま、そのようなものだな。商人は調査の為に、何人も出したが帰って来なかった」

ディーは淡々と言っているが眉間にシワがよっている。

帰えらない人間に思いを馳せているようだ。

「で、我々が調査に出る事にした」

ディーの話では商人に依頼されて調査に出向いたような話になっている。

そして私に関することといえばその調査隊の中にできれば欲しい者。

伝承にある一節。

『いわく、手に入れるには巫女の力が必要。』

ただし、そのような眉唾な話にまさか巫女を貸して欲しいなどファデルには言えないところに城出をした巫女がいるという情報が入った。

あわよくば、巫女を拾いアデルの調査に使えれば‥。

そんなところだろう。巷に流れる伝承を踏まえたなら駒は多いにこした事はない。

「で、私を見つけた。と言う訳だ」

「俺が見つけたわけじゃないがな」

ディーが私の後ろに立つヒューゴを見た。

つられて私もヒューゴを見るとヒューゴは珍しく眉を寄せてディーを睨むように不機嫌な顔をしていた。

「そんな危ないかもしれない事、きんちゃんにはさせない」

ヒューゴがディーに低い声で唸るように言った。

怒っているようだ。

「決めのはヴィだ」

ディーは私をひたりと見た。

「手伝う事に私の利益がない。

私はとりあえずあそこから出たかっただけで、今のところ成功している。

が、手伝う事で所在がわかってしまったらもともこも無くなっていまう」

ディーが苦笑いをした。

「なんで、きんちゃんは何で出たんだ?」

ディーの言葉に思考が立ち止まる。

私はなんであそこから出ようとしたのだろう。

いつも見えている未来。

答えのわかっている問い掛け。

その中にある私の立場。

逃げたかったのか知りたかったのか。

大義名分は何一つもなくただ、何かを見たかった。

それが何かはわからないが。

「ディー、止めてよ」

ヒューゴが私の両肩に手をおきながらディーに声をかけた。

「ヒューゴ」

私はヒューゴを見上げた。肩に置かれた手に力が入った。

「私に利があるなら、手伝おう」

ヒューゴの手がびくっと動いた。

「お前が守るんだろう、どうせ」

ディーの言葉に、

「当たり前でしょ!」

ヒューゴが返した。

「危険かどうかはともかくとして、ガルドではアデルや箱がどのように伝わっているのか教えて欲しい」

私の言葉に4人の驚いたような視線が何故か私に注がれた。


 翌朝、食事をとりながら昨晩聞いたガルドの伝承について考えていた。

「きんちゃんってば、ごはん冷めちゃうよ」

隣に座るヒューゴからの声に止まっていた手を動かす。


 現在のガルドは東西に長く都は西にある。

距離と国の成り立ち考えるに、

東端にあたるアデルがあったであろう場所の異変に対しては

報告を聞くというまた聞きのような状態であろうと思われる。


ガルドにも[精霊の箱・アデル]についての伝承があった。

現ガルドの北東部、今は険しい山々の連なる場所に[宝玉の都]と人々に呼ばれるアデルがあったという。

これはわが国での伝承や文献と重なる。

ガルドでは現在アデルの跡地と言われている一帯にそびえ立つ山々はアデルが滅びた時に一夜にして現れたのだ言われている。

かつて[宝玉の都]の周囲は荒涼とした地だったという伝承もあるそうだ。

ファデルには、在りし日のアデルの伝承が中心でその周囲の話はなかったので傾聴に値するものだった。


ディーがいうには、ガルドではアデルに対して3つの有名な話があるとの事だった。

一つはガルドの創世王グァンディルがアデルの申し子といういわゆる貴種譚。


『精霊に愛されしもの

漆黒の髪を持つもの

空の瞳を持つもの

かの地に留まるよう

契約の箱を委ねられる』


一つは楽園譚

旅人が荒涼とした平原で迷いアデルにたどり着くという楽園もの。

楽園譚では荒野をさ迷い、アデルにたどり着いた旅人がアデルの都の眩さにその理由を人に聞いた答えの中に


「精霊に愛されし姫。その美しさを止めておく箱を得る。

箱は姫の美しさを留め、姫の美しさは箱より漏れいだし

国中に広がり豊穣をもたらせ世界を統べる」


という一節があるのだそうだ。

旅人の話は続く、都の美しさ、人々が巫姫であるアデリールを敬う様。

そして楽園譚らしく故郷に戻った旅人は二度とアデルを見つける事はできなかったというものだ。

一つは復活譚

最後の復活譚は巫女が現れアデルを復活させるというもの。


『嘆きの巫女が

災厄の箱を開け

黄金の都は地に沈む

再び巫女とまみえるまで』


英雄譚ではガルドの王はアデルの子孫だという。

確かに、ガルドが連合国になったのは最近ではあるがファデル国と親密にしている。

ガルドの始祖王はアデルまたはアデリールから[箱]を受けとる事によって混沌としていた世を平定したという。

但し、この時のガルドは今より国地は小さく現在の首都のあたりだけであった。

しかし、ファデルではアデリールは偉大なる始祖であると共に、[滅びの巫女]として畏怖されている。

理由ははっきりと記されていない。

もちろんファデルにも精霊の箱に対する歌詞はある。


聖唱歌第203にある


[空を紡ぐ精霊

巫女に箱を与え

地を紡がせた]


というものだ。

ガルドの貴種譚と同じく箱を与えられることによってそこを治めるという点では似ている。

アデル国が滅びたこととアデリール姫と精霊の箱は何か関連があるのだろうか。


これらの伝承・文献の困ったところはどの様な箱なのかはどの伝承においても伝えられていない事だ。

しかし今、その箱が現れたとディーはいう。

多分、そうであろう。

私の中の[精霊石]が呼応しているのだから。

それが、箱なのかどうかはわからないが、関連する何かだと思われる。

感覚を信じるのか資料データ)を信じるのか。

それらをすり合わせるのか。

「どれもがあまりにも曖昧だ」

私は口の中の物を咀嚼してから呟いた。

「くくっ!」

圧し殺したような声をミレイが出した。

「?」

私は思考から離れてミレイを見るとミレイが肩をすくめた。

「何が曖昧なんだ?」

ディーの声かけにまた私は思考の海に沈んだ。


ガルド始祖王の箱

地を平定させる箱

アデルの美しさを留める箱

箱によって豊穣がもたらされる

災厄の箱


「誰も箱がどの様なものかを伝えていない」

私は口の中の物を飲み込んでから疑問を口にした。

「きんちゃん、あーんして」

ヒューゴの声に瞼をしばたかせた。

ヒューゴが笑いながら匙を私の口元に当てていた。

私は驚いてヒューゴを見るとヒューゴは大きく口角をあげ笑みを形作った。

「さっきからこうしてたよ」

私の手が止まっていたのでヒューゴが食べさせてくれたいたようだ。

「手間をかけて申し訳なかった」

あやまるとヒューゴは肩をすくめてながら笑顔を返した。

「きんちゃん、ごはん、美味しかった?」

そう問われて考えるに何を食べたかさえ覚えていない。

「申し訳ないのだが、余り覚えていない。

作って下さった方にも礼を失し申し訳ないことをしてしまった」

「ぶはぁ!」

コーガが盛大な音を出して吹き出すとミレイとディーがつられたように大声で笑いだした。

私は何がおきたのが解らずに目をしばたかせた。

唯一、大笑いをしていないヒューゴに小声で

何か笑うような事があったのかととうとヒューゴは静かに首を降った。

「きんちゃんが可愛いから笑ってんだよ」

可愛いというのは笑うものでもあるらしい。

何か府に落ちない気はしたのだが外ではよくあることなのだろう。

「た、確かに、箱の形状については何もわからんな」

ディーが咳き込みながら水を飲み言葉を続けた。

「ん、む、形状もわからない物を山師は何故、それ)だと認識できたのか…」

そして、その箱を以ってどのように統治していたのかすら何も伝えられていない。

いつの間にか口に入っていた肉を咀嚼しながら私は思考をまとめようと呟くように口にした。

「きんちゃんは考え事するといろんな事を忘れるのね」

ミレイが私を見て微笑んだ。

「普段、困らなかった?」

ミレイの問の意味が判らず目をしばたかせた。

「いや、時間になると侍女が支度をしていたのでついていけばよかったので問題は多分おきてはいないと思われる」

私の返答にミレイは軽く口を押さえ声を漏らした。

「巫女様って普段なにをしてんだ?」

コーガが大雑把ざっくり)に聞いてきた。

「他のひと)はわからぬが、朝起きて、祈り、朝食を食べ、祈り、人とあい、学び、昼食をとり、祈り、学び、夕食をとり、祈り、湯あみをし、学び、就寝した」

「祈ってばっかだな」

話の途中でコーガは飽きたようだった。

職務しごと)であれば仕方あるまい」

その職務すら放棄した私が言うべきではないのかもしれないが私の日常はそのようなものであった。

そして、困る事もなかったが、私が何故ここに至るかは私ですら答えが見つかってはいない。

「もう、きんちゃんに聞くのやめて!

きんちゃんごはん、ちゃんと食べれないでしょ!」

ヒューゴがコーガとミレイを順々に睨み付けた。

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