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「うぅ…おなかすいたよ」
ヒューゴがウィーガの後ろでぶつぶつという。
「うっせーな!さっきめし食ったろーが」
確かに何刻か前に昼食をとった。
「そんなんもうないよぉ」
ガルドを発ち前回同様麓に馬を預けヒューゴがウィーガを呼んだ場所まで来た。
「こっちだ」
ウィーガが前回の羽根を広げた場所から茂みの方に分け入った。
「前に向かった道と違うようだが」
「こっちの方が近道なんだ」
私の問いに振り向きながら“こいつうるせえから”とウィーガが言う。
「飛ばないの?」
ヒューゴが私の後ろからウィーガに聞く。
「飛んだらおまえが俺を見失うのが目に見えてるだろうよ」
「あ、そうっかも」
ウィーガの言葉にヒューゴが頷く。
「納得してんじゃねぇ!だいたい今回はきんちゃんという引き紐があるからなこういうとこでもいけるけどな」
ウィーガが“おまえと俺でこの道だったら絶対迷子になるだろおまえ”となおもぶつぶつ言いながら前を歩く。
「それにな、ランドガゼルに向かう時この辺りで人間の気配がしたから村の場所が分かるようにしたくねぇんだ」
前を向き歩きながらウィーガが言う。
「下の西方兵舎じゃないの?」
ヒューゴが私の後ろからウィーガに聞く。
「あいつらの気配はなれてるからすぐわかんだけどな。なんか違うやつがうろうろしてやがる気がする」
「ウィーガがそう言うなら、そのようにしよう」
ウィーガが頷いた。
「おい、ちゃんとついてきてるか?」
しばらく歩いてから振り向いたウィーガの声に、
「きんちゃんに手つないでもらってるから大丈夫だもん」
ヒューゴが私とつないでる手をあげてウィーガに見せるとウィーガが“ケッ”っと言いながら前を向きまた足を進めた。
「前になんかいるよ」
半時ほど歩いたところで一番後ろにいるヒューゴがウィーガに声をかける。
「ん?」
ヒューゴの言葉に前の方に目を向けたウィーガの視線をたどると草深い木の根元で子どもらしきものが体を丸め泣いていた。
「なんだ迷子か?…ヒューゴみたいなやつだな」
「ちょっとぉ、僕をたとえに使うのはやめてよ」
ヒューゴがつないだ手をそのままに私の前に出て頬を膨らませる。
「うん、そこのガキ、どうした」
ウィーガはヒューゴの抗議を聞き流し体を丸めてる子どもの方に近づいた。
「え…え、え」
急に声を掛けられたせいかビクリと体を震わせながらウィーガを見てなおすすり泣く。
「顔上げろ」
ウィーガに強く言われてビクリと体を震わせてから子どもが顔を上げた。
顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。
「顔拭け」
ウィーガに言われて子どもが顔を小刻みに震わせながら袖で顔を拭う。
「おまえ、男か?」
ウィーガの問いに子どもが小さく頷く。
「男だったら泣くな」
「不安であれば男女問わず泣くものであろう?」
「そうだけどよ…泣いてたらなんだかわかんねぇだろ」
私の言葉に“チッ”と舌打ちをしてからウィーガが言う。
「なんでこんなとこにいるの?」
ヒューゴが私から手を離し子どものそばに行き膝をまげて聞く。
「とーちゃんと、…とーちゃんが、いない」
「ほら、やっぱ迷子じゃねぇか」
「んじゃ、下の兵舎に連れて行く?」
「そうだな」
ウィーガが踵を返した時ヒューゴが私の前に立った。
「ガーちゃん」
「ん」
ヒューゴが抜刀し、ウィーガが両手を軽く振ると長い鉤爪が現れた。
私の服のすそを掴んだ子どもが目を大きくし体を強張らせた。
「ひとんちの近所で迷惑な奴らだ」
ウィーガが呟くとばらばらと男たちが木々の間から現れた。
「ガキしかいねぇ」
「楽勝だな」
「実入りがすくねぇ」
「違いねぇ」
私達を見て、そう言いながら男たちはにやにやと笑いこちらに近寄ってくる。
ヒューゴとウィーガが目を合わせて頷くと男たちが各々の武器を振りかぶって向かってきた。
ヒューゴが戦っているのは見たことがあったが、ウィーガもヒューゴと同じように身が軽く男たちの一撃を軽くかわし短くしたり長くしたりと調整した鉤爪で男たちを翻弄している。
私は私の服のすそを掴んでいる子供とヒューゴ達の邪魔にならないようややはなれた木の側に身を寄せた。
男たちは少しづつ体力をけずられヒューゴ達が手加減しているということに気が付き始めていた。
「このガキどもが!」
男の一人が私と子どもの方に走りこんで私達を捕えようと手を伸ばしてきた。
そうと知って襲ってきたものにそのように言われても返答のしようがないのだが。
私は身を寄せていた木の細い枝をこちらに向かってきた男の目の辺りを狙って枝を振り下ろした。
木に身を寄せたときに念のため折ったものを手に持っていた。
男は目の辺りを押さえて怯んだがすぐにこちらに向かおうと体勢を立て直した。
「きんちゃんにさわったら殺るけど」
男がこちらに歩を進めようとしたときそういいながらヒューゴが蹴りを入れ男が横に吹っ飛んだ。
ヒューゴが吹っ飛んだ男の顔の横に剣を刺して、
「どうする?」
と聞いた。
男たちは目を合わせ無言で木々の中に音を立てながら走り去っていった。
「んな奴ら殺っちまえばよかっただろーに」
「きんちゃんに死体みせたくないもん」
剣を鞘に戻しながらヒューゴが口を尖らせた。
「ガーちゃんだって、死体道に落ちてたらいやでしょ…いてっ」
毎度の様にウィーガがヒューゴを殴ってから
「森の栄養になってもらえばいいんだよ、あんな奴ら」
男たちが逃げて行った方を見ながら言う。
ヒューゴも、ウィーガの目の先を見るようにしてから片眉をあげて何度か瞬きをした。
「あいつらのせいで、兵舎に行って戻ったら日が暮れちまう」
不本意そうに、ウィーガが言い子どもの方に目を落とす。
「一晩泊めてやる。明日、兵舎に行けばおまえのおやじとも会えんだろ」
「ねぇねぇ、ガーちゃん」
ヒューゴがあごに指を当てて軽く上を向きながらウィーガに声をかける。
「いたっ!人も増えたから、行きながらおばちゃんにたくさんお土産とっていこーよ」
ウィーガに殴られた頭をさすりながらそれを気に留めない様子でヒューゴが言った。
「迷子になるなよ」
「きんちゃんいるからだいじょーぶだもん」
“ねー”と私の方を見てにっこりと笑った。




