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 アキという少女が『天才』と呼ばれるようになったのは、八歳の時である。それまでは特に何か不自由を感じることなく成長していたが、ある秋の終わりに原因不明の病にかかる。高熱を発し、体温は下がることがなく、最後の三日間は意識を失い、医者も助からないとあきらめていた。

 だが、アキは奇跡的に生還した。だが、病から回復したアキは『普通の子』ではなくなった。

一度見たものは忘れず、だれも考えたこのない柔軟な発想をもち、計算能力はどの人間、機械よりも高速かつ正確に行えるようなった。

 いつしかアキの名前が世に広まりアキは様々な大学、研究機関に引っ張り凧となった。



 その結果が、眼球と鼻と耳と頭だけを透明な箱に入れられ、人の発展のためだけに生きながらえている生物である。



 なぜこうなってしまったのか。

 ミヤタが車内で読んだ雑誌にはこう書かれていた。

『天才少女 オオクラ アキちゃんは不慮の事故によって意識不明の重体となった。

 だが、アキちゃんはまだ死んでいない。脳みそをアキちゃん自身が開発に携わった『脳保存機』を使うことによって、我々とコミュニケーションをとることができる。』

 この発表は当時波紋を呼んだ。非道徳的なその行為は誰が見ても異常であったはずだった。だが、次第にその声は徐々に小さくなって行き、最近ではそのような声は全く聞こえない。


 オオクラ夫人は二人を箱の前へと連れて行き、箱に話しかけ始める。

「アキ。昨日言っていた雑誌の方々よ。こちらがタカクラさん。この若い方がミヤタさん。」

『どうも。はじめまして。オオクラ アキです。』

 箱の前にあるスピーカから音声が流れ、ミヤタとタカクラは虚を突かれた。その言葉は機械音でもなく、本当の肉声のような、子供の声に聞こえたためである。

「この声は、アキの声とそっくりなんですよ。」

 オオクラ夫人はニコニコしながらそう説明した。

「どうぞ、遠慮なさらず話しかけてみてください。」

 こういう時の年功序列というべきだろうか。オオクラ夫人はタカクラに向きなおりそう続けたが、当の本人のタカクラは血の気がほとんど失せており、今にも膝から崩れそうである。

「・・・すみません。トイレを貸していただけないでしょうか。」

 顔面蒼白、喉から絞り出すように発せられたその声はガタイがよく、いつも先輩面したタカクラからは想像ができないほど弱々しい。

「あらあら。それでは私がトイレまで案内しますよ。ミヤタさんはもし分からないことがあったら、周りの警備の人に聞いてくださいね。」

 なぜ、警備の人に案内をさせず、わざわざ自分が案内役に買って出たのか。それはオオクラ夫人がそういう人だからだろうとミヤタは考えた。そういう人というのは、倒れた人間に『同情し』、喜んで手を伸ばす人間ではなく、倒れた人間を『冷笑し』、喜んで手を伸ばす人間である。

「お前は、仕事をしておけ。」

 最後の最後、先輩の威厳というものをミヤタに見せ、タカクラはオオクラ夫人の後をついていく。

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