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転生魔法物  作者: 駁目師走
第一章~異世界転生編~
2/14

001


 薄っすらと目を空けるとそこは木々の生茂おいしげる森の中。

 何かが爆発した気がして、死んだと思ったが生きているし、身体もどこも痛まない。

 周囲もなんら変わらず、陰気な森の中のまま。

 ただし、かなりの時間気を失っていたのか、すっかり朝日が昇っている。

 傍に倒れていた弟も目を覚ます。

「――に、兄さん? 僕達一体?」

「どうやら、何ともないみた――」

 それに気づいた俺は驚きに声が詰まらせた。

 気を失う前にあったはずの、巨大な人型の建造物が跡形もなく消えている。

 目をこすって確認するが、やはりないものはない。

「どこに行っちゃったんだろう?」

「さぁな。この風景からして、俺達がふっ飛ばされたわけでもなさそうだし、あの巨人が勝手に何処かへ行ったとしか思えないな。」

「あれって、動くの?」

「さぁな。俺が知るわけないだろう。それより、婆ちゃんがきっと心配してる、陽のある内になんとか辿り着こうぜ。」

 歩き出して、すぐに一つの疑問が浮かんだ。

 ばら撒いてきたスナック菓子が一欠ひとかけらもない。

 まさか本当に動物が食べたのか? と特にそれ以上は気に留めなかったが帰り道がわからなくなったのは少し不安だ。


 一時間程、当てもなく歩き続けた所で「兄さん、あれって。」と弟が何やら上の方を指差している。

 その方向へと視線を向けるとそこには周囲の木から頭一つも二つも抜け出た巨大な木がそびえ立っていた。

「クソ婆。本当にでけぇじゃねぇか。でもバス停からじゃさすがに見えねぇよ……」

 俺と弟は行く足を速めて、その巨大な木へと歩を進めた。

 大きさの所為か近くに見えた木が意外に遠い。

 しかし、人間って生き物はゴールが見えると頑張る事ができる現金な生物で、距離はあったが、不思議と辛さは感じない。

 巨大な木の下に着いた頃には一軒の小屋がすでに視界に入っていた。

 地図の絵とはかけ離れた雰囲気の小屋だったが、そこはあえて突っ込む事はせず、急ぎ駆け寄る。

 平屋の古い家と言うか、小屋。

 外には今時珍しく井戸があったが、苔塗こけまみれな所を見るとさすがに使っては無いのだろう。

 けれど、こんな森の奥まで水道ってのは通っているものなのか? と疑問に思ったが気にしない事にする。

 俺は古惚けたその小屋の扉を勢いよく開けて、声を張り上げた。


「遅くなってすいません! 孫の日向奔ひなたはしるかけるです。婆ちゃんいますか?」

 玄関向こうに広がる木製の床で出来た渡り廊下に向かって大声を出すが返事がない。

 それからも何度か「すいません。いらっしゃいませんか?」と繰り返す。

 やがて廊下の奥から「何度も言わなくたって聞こえているよ! 年寄り扱いするんじゃないよ、まったく。」と悪態を付く年配の女性の声が聞こえた。

「絶対聞こえてなかっただろうが……」

「何か文句でも言ったかい?」

 小声で呟いた声を見事に聞き取り、反応が遅かった割に地獄耳だった祖母の怒声が飛んできて、俺と翔は思わず口を手で塞いだ。

「まったく、誰だ――」

 祖母らしき年配の女性が目の前で驚きの表情を湛えて立ち止った。

 手に持っている蜜柑みかんが床に落ちて、ぐちゃりとなる。

 初めて会う孫に感動しているのか、まるで死人でも見るかの様な驚き表情。

「お婆ちゃん、初めまして。俺が奔で、こっちが翔です。」

 人見知りの激しい翔は声を発さず、軽く会釈した。

 祖母はまだ驚いているかの様な表情で右手を前に差しだし、ゆっくりと俺達に近づいて来た。

 差し出しされた手の指先が何やら小刻みに震えている。

(予想以上に耄碌もうろくしてんのかな?)と少し心配になる。

「そ、そんなに驚かなくても。確かに道に迷って一日遅れちゃったけど。」

「あんた達、死んだんじゃ……」

「は? そんな大袈裟な、一日遅れたくらいで。」

「家族四人、事故で死んだって……」

「父と母は亡くなりましたが、俺達は生きていますよ。御厄介ごやっかいになると連絡を入れたはずなんですが?」

「あんた達、モンスターだね? 私を騙そうたってそうはいかないよ!」

「いや、ちょっと、婆ちゃん――ぐっ!」

 祖母が手に持っていた杖を俺に向かってかざした瞬間、柄の部分に付いていた見覚えのある様な紫の球が光を放ち、放たれた光が俺の身体を貫く様にはしったかと思うと同時に腹部に激痛を感じた。

「ちょっと、待ってくれよ。ってか一体今何したんだよ?」

「問答無用じゃ! この変身モンスター!」

 俺が両手を上げて降参のポーズを取った瞬間。

 祖母は振り上げた杖をそのままに動きを止めた。

「お前、その腕のMagicマジック realityリアリティ deviceデバイスをどこで手に入れた?」

 腕を見てみると見覚えのないブレスレットがめられている。

 そのブレスレットにも祖母の杖と同じ様な紫の球が嵌められているのに気が付いた。

 祖母はブレスレットをとても気にかけている様だが、俺にはいつ嵌められたのか、これが何なのかも皆目見当かいもくけんとうがつかない。

「は? 何だって?」

「その腕につけているMRDエム・アール・ディーの事を聞いているんじゃ。」

「マジックなんとかだか、エムなんとかだか知らねぇけど、俺にはわけがわからねぇよ!」

「まぁモンスターがMRDを付けているわけがない、話だけでも聞いてやろう。」

 そう言って、祖母は杖を下したが、警戒した様子はそのままに、俺と翔を中へと招いてくれた。

 古惚けた外見通りの古惚けた廊下を後に付いて進むと、祖母の寝室らしき部屋へと招かれた。

 寝室には大きなパソコンが置いてあって、無数の配線が壁や床に張り巡らされていた。

 その光景はまるで『電子の森』だった。

 椅子に座るよう促された俺達は、きしみの激しい木製の椅子に腰かけ、バス停に着いてからここに来るまでの事や、自分達の事を思いつく限り祖母に話して聞かせた。

 しばらく訝しげな表情で考え込んでいた祖母は、自分の頭の中身を整理するかの様に淡々と語り始めた。


「父親と母親を事故で亡くして、貴様らは祖母である儂を頼ってここまで来た。しかし、ここに向かう道中、不思議な人型の建造物を見つけ、それに触れて気を失った――と。お前達の言っている事が本当なら、お前達はもう一つの世界から来たのかもしれん。」

「は? それはどういう――」

多元世界パラレルワールドって事ですか?」

「は? パラ……なんだよそれ?」

「考えられん事だが、どうもそうらしい。お前達がMRDの存在を知らない事もうなずける。」

「こっちの世界では、それは当り前の物なのでしょうか? それはお婆ちゃんが先程使った不思議な力と関係が?」

「おい、待て話を進めるな! パラなんとかのくだりからもう一回――」

「お前達の世界には魔法も存在せんのか?」

 今の質問の意味はわかる。

 俺も翔もさすがに言葉を失った。

 魔法なんてものはRPGロールプレイングゲーム御伽話おとぎばなしだけの存在で現実にあるわけがないと言うのが俺達がいた世界の常識。

 しかし、どうもこっちでは違うらしかった。

「魔法があるってのかよ?」

「あぁ、そこから説明が必要なのかい。少し長くなるぞ?」

 祖母は億劫おっくうそうに眉間にしわを濃くして、俺と翔の顔を見渡してから確認する様に言った。


「結論から言えば、こちらの世界には魔法が存在する。しかし、それもほんの20年ほど前に生まれたものだ。事の初めはVirtualバーチャル realityリアリティ gameゲームだった。そっちの世界にもゲームはあったじゃろ? 元は視覚や聴覚のみで楽しむ遊びだったそれに他の感覚機能への刺激を追加したのじゃ。痛覚や、触覚、味覚や嗅覚。そこまで来るとその世界は一種の仮想現実となる。ここまではわかるな?」

 辛うじて、納得はできないが理解はできる説明に曖昧あいまいに首を縦に振ると、祖母は湯飲みの茶を一口飲み、続けた。

「大勢の人間がそれに没頭したよ。その内に今度はアダルトな目的に使用され始め、仮想現実で男は絶世の美女を抱き、女は絶世の美男子に抱かれたわけだ。そこまで来るとVR《仮想現実》技術が進歩し、普及するのはあっという間じゃったさ。ひっひっひっ――」と下卑た笑いを浮かべる祖母。

 アダルトな、のくだり辺りから慌てて翔の耳を抑える俺。


「兄さん。今、お婆ちゃんなんて?」

「世の中には知らない方がいい事もあるんだ。さぁ婆ちゃん続けてくれ。」

「人間は完全にVRにのめり込んだ。すべての欲望を満たしてくれるわけじゃから当たり前じゃな。しかし、人間とは愚かな生き物で遂にはそれだけでは飽き足らず、VRの外、つまり現実の世界に仮想を持ち出そうとしたんじゃ。それが魔法の始まりじゃ。儂の杖や、奔のブレスレットの様なMRDが開発された。MRDをかいせば、仮想を現実に変えられる様になったわけじゃ。」

「――そりゃあ一体どういう仕組みなんだよ?」と俺は腕のブレスレットを睨み付けた。

 嵌めこまれた紫の玉が鈍く光った気がした。


「研究の結果、MRDを介して仮想を現実に変えられる量には個人差がある事が分かった。その力を魔力と呼んだ。魔力の多い者ほど大きな仮想を現実へと変える事ができるし、魔力の小さい者は小さな仮想しか現実にできん。まぁそんな魔法に関しての研究を魔科学と呼び、日夜研究され始めたのが最近の事じゃ。MRDを悪用してモンスターを生み出す輩が現れだしたのも最近の事じゃが……」

「モ、モンスターがいるのかよ?」

「召喚魔法と呼ばれる技術じゃな。かなりの魔力がないと出来ない事じゃが、MRDを持ってすれば可能じゃ。勿論もちろん、魔科学に関しては魔力の大小や召喚魔法以外にも色々あるが、それは追々《おいおい》でいいじゃろう。大体この世界の事はわかったか?」


 正直いまだに理解はできても、納得はできない。

 信じる事ができないと言った方が正しいか、祖母の話は俺達の世界では漫画や小説なんかで描かれる空想の話と何ら変わらない。

 けれど祖母が不思議な力を使うのを目の当たりにした俺達は信じるしかなかった。

 そんな世界に飛ばされたのなら、俺達が時空を飛び越えたのもあながちあり得ない話でもない。

「それじゃあ僕達はそのMRDの力でこの世界に呼ばれたって事になるのかな?」

 一瞬、困惑した表情を浮かべた祖母だったが、自信なさげにゆっくりと答えた。

「正直、それは考えられん。時空転移や時間転移は理論上は可能だが、あまりにも膨大な魔力が必要で、そんな魔力を持った者は絶対に存在するわけがない。もしそんな化け物じみた魔力を持つ者がいたとしても、現存するMRDでは、そこまで強大な魔力に耐える事は絶対にできん。」


 この世界の事は大体把握した。

 俺達の世界とは別の選択をしたもう一つの世界。

 並行世界、多元世界とかって呼ばれるものらしいけれど、正直そんな事はどうでもいい。

 何故俺達がこの世界に来る事になったのか? そしてどうすれば、元の世界に戻る事ができるか? そっちが知りたい。

 けれど、俺達にとって最重要のその問題に関しては、解決の糸口すらも掴めず、祖母には皆目見当かいもくけんとうがつかない様子だった。

 もちろん、俺達にも分かるはずもない。

 そして、あの大きな人型の建造物は一体何だったのか?

 大きな疑問を無数に残したまま、俺達兄弟はこっちの世界で暮らす事を余儀なくされた。




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