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忘却の迷子  作者: 藤村 託時


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6.戦闘

 建物の側面に穴を空けながら屋上まで上がる。

 屋上から周りを見渡し、地面が土になっている箇所を捜す。

 少し離れた所に土のエリアを見つけたので、そこへ移動することにした。

 土のエリアでは棒を持って立っている人間に向かって球を投げる謎の行動が行われていた。

 人が集まっている場所からは少し距離を取り、穴を掘ろうとした時視界に見覚えのある姿がいくつか現れた。


「ラーさん、あんた勝手に逃げようとしちゃダメだよ。コーコアさんがあんたみたいな不穏分子を放置するわけにはいかないって言っててさ、悪いけど捕らえさせてもらうよ」

「おとなしく私達とまた調査するっていうなら逃げたことは許してあげるよ」

「なぜお前らは俺がここに来ることが分かった?」

「コーコアさんがあんたは穴を掘りに土のある場所へ移動するって言ってたから近くで土のあるとこまで車で先回りしたってわけ」

「車だと?」

「もしかして車も知らないとか? もしかしてグランス星人って科学技術遅れまくってるっぽい?」

「ウケるw」


 さすがに俺もこいつらに馬鹿にされていることは分かる。

 とにかく、こんな奴らとは早く離れたい。

 四人の間のスペースへ向かい走りここから切り抜けようとした。

 しかし、男の一人が俺の腰に突進し、抱きついてきた。


「いくらあんたが足速くてもこの距離なら追いつけるっての。おいミーク、こいつ一旦人形にしちまえ!」

「オッケー」


 ミークが俺の元へと近づいてくる。

 こいつは触った人間を人形にする能力を持っている。

 触らせるわけにはいかない。

 ミークが伸ばしてきた腕を爪で切り落そうとする。

 爪は腕に当たったが、腕を切断することはできず弾くだけにとどまった。


「いったー。めちゃくちゃ反抗してくんだけどこいつ!」


 ユノウミ星人とは違い、ガーラス星人の身体は頑丈なようだ。


「グランス星人が強いって言ったって俺達四人に勝てるほどではないだろ」


 さてどうしたものか。

 俺の住むグランス星では、戦うということが普段起こらない。

 基本的に争いは好まない。

 稀に協調性のない自我の強い個体が暴れた時だけ、自己防衛のため力を使うことがある。

 しかし、その場合も凶暴な個体に対しては統治部隊が出向くため、集落はすぐに落ち着きを取り戻す。

 そのため、自分が強いか弱いかなど考えたことが無かった。

 ユノウミ星人は肉体が脆かったが、こいつらの肉体は頑丈なようだ。

 どうやって、ここから逃げればよいのだろうか。


「人形にできるようにまずこいつを弱らせようぜ」

「いいね。グランス星人ボコっちまおう!」


 男は拳を俺の顔面めがけてふるってくる。避けることもできたが、試しにそのまま受けてみることにする。


 ゴッ!


 鈍い音がした。

 拳を繰り出した男は手を抑えながら声を上げる。


「いってぇ! こいつの顔めちゃくちゃ固いぞ。打撃は効かねぇ!」


 当然だが、痛みは感じない。痛みなど子供が感じるものであって、身体が完成した大人が感じるものではないのだ。

 どうやら、ユノウミ星人よりは頑丈そうな肉体だったが、俺達の肉体と比べると未熟なもののようだ。


「じゃあどうすんよ。人形にするにしても触れさせてくれなそうだし」

「じゃあこれはどうだろ」


 ダンッ!


 大きな破裂音がした。

 俺の身体に小さい粒が当たったようだ。


「銃も効かないってわけか」

「思ったよりだいぶ化け物みたいだね、こいつ」

「これ無理ゲーじゃない?」


 どうやら小さい粒の出る玩具には自信があったようで、それが通じないことに動揺して動きが止まっている。

 このチャンスを逃すわけにはいかないので、再び空いたスペースからの逃亡を試みる。

 四人は顔を見合わせ、妨害を行うことはなかった。

 どうやら、自慢の暴力が通用しないとわかり、俺を捕まえることを諦めたようだ。

 万が一、人形にされそうになった場合は液状化しようと考えていたが、その手札は出さずに済んだ。

 あいつらに液状化できることがバレているかは不明である。

 なんとなくだが、ユノウミ星人もガーラス星人も液状化できないのではないかと思われる。

 ユノウミ星人は俺が液状化した際に驚いた様子を見せていたし、ガーラス星人は物理攻撃に頼りきっている時点で液状化するという考えが無いように思える。

 グランス星の統治部隊が動く際は、いかに相手の動きを封じるかという視点で作戦が練られるため、凶暴化した個体は最終的に隙間のない結界に封じ込められ、エリア移動させられることになる。

 なんにせよ、四人を振り切ることができたので、ガーラス星人が追ってこれない位置まで移動することにしよう。

 コーコアが何を考えていたのかは結局分からなかったが、ろくでもない奴らであることは分かったので、関係を持たないに越したことはないだろう。


 それから俺はガーラス星人から離れるために走り続けた。

 体力が続く限り走り続けた。

 そして、体力が尽き、草むらの上で仰向きに寝転がった。

 空を見ていると、翼の生えた巨大生物が飛んでいた。

 明らかに鳥のサイズではない。

 ガーラス星人が巨大生物のことを“くるま”と呼んでいたことを思い出した。

 あの空に飛んでいる個体も車の仲間なのかと考えた。

 アレに乗ることができれば海を越えていけそうだと。

 そのためには情報が必要だ。

 ガーラス星人から渡された翻訳グミとやらを食べたおかげでユノウミ星人との意思疎通も可能なので、情報収集を行うことに決める。

 体力が回復した後、辺りをうろついているとユノウミ星人を見つける。


「ちょっといいか」

「どうしたの?」

「空を飛ぶ化物について教えてくれないか?」

「ん? 何の話かな? アニメとかの話?」

「アニメってなんだ? とにかく海を渡りたいんだ」

「うーん、お父さんやお母さんに相談した方がいいんじゃないかな。ちょっと今忙しいから、またね」


 女は会話を切り上げ、ゆっくり走り去っていった。

 言葉は通じるようになったが、コミュニケーションはまだ上手く取ることは難しいようだ。

 俺の持っているこの星についての知識が圧倒的に不足しているため、自分の考えを伝えることもできない。

 また、相手が言っていることについての理解もできていない。

 文字を読むことも勿論できないため、本から情報を得ることも不可能だ。

 今はひたすら会話から情報を得ていくしかないため、引き続き声をかけ続けるしかない。

 無作為に見かけた人間に話しかける。

 しかし、俺の伝えたいことは伝わらない。

 時間は経過し続け、日が沈んでいく。俺の星より日が沈むのが早い。

 だが、いくつもの光が至る所から発され暗闇は照らされている。

 俺の近くに見覚えのある紺色の服装の人間達が近寄って来る。


「君、ここの近くで通報のあった迷子かな? 自分の家がどこか分かる?」


 この星で俺は身長の低さから子供の扱いをされるみたいだ。


「海の向こうにある。海を越えさせてくれ」

「外国の子なんですかね? でも日本語喋れてますよ」

「とりあえず、署まで連れて行こう」

「わかりました。君、一旦私達に付いて来てもらえるかな」

「わかった」


 彼らに従い、大人しく付いていくことにした。彼らは黒の化物の中に入っていく。

 俺も同様に中へ入った。


「これがくるまで合ってますか?」

「これはパトカーだよ。車ではあるけど、どういう質問?」

「えっと……」


 やはり、この世界ではくるまというものに乗って移動するのが一般的になっているようだ。

 言葉に詰まっていると、男達は首を傾げながらも二人で会話を始めた。

 しばらくすると、目的地に到着した。建物に入ると二人から様々な質問を受けた。


「家はどこにあるの?」「どこへ行こうとしてたの?」「親に連絡してもらっていい?」「どこの学校に通ってるの?」


 どの質問に対しても、こちらから相手を納得させられる答えを出すことはできないためうやむやな返事を続ける。

 二人も中々話が進まないことに困っている様子だ。

 事態が硬直していると、二人の元へ何か連絡があったようだ。


「君ちょっと帽子を取ってくれないか」

「嫌だけど」

「君、もしかして街で暴れたりしてた?」


 どうやら、ここにも俺の情報が回ってきてたみたいだ。

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