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忘却の迷子  作者: 藤村 託時


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4.状況変化

 言葉が理解できる。

 当たり前のことが当たり前じゃなくなっていた状況だ。

 何を言っているのかを理解できるということに嬉しさを覚える。


「お前は俺の言葉が分かるのか?」


 話しかけていた者に尋ねる。相手の姿を見ると、額には目が付いていなかった。金色の髪を持つ女の人間ネチェルだ。


「ああ。お前にも私の言葉が理解できるはずだ。《グランス星人》の言語に変換をかけているからな」

「俺の星の名前を知っているのか?」

「知っているさ。お前は大分この星で有名人になっているようだから、視線が集まってしまっている。ちょっと私に付いてきてくれないか」

「わかった」


 得体のしれない奴だが、俺はこいつに縋るしかないのだ。いくらでも付いていこう。

 この街で俺の姿を見た者は距離を取るようになっている。

 俺が歩くと目の前には自動的に道が開けるのだ。

 先導する女に連れられ建物の中へと入る。

 建物の中を進むと銀色の扉が一枚立てられていた。

 女はその扉を開け、中へ入る。俺も続いて入ると、広い部屋の中には触覚が二本頭から生えている生物がたくさん存在していた。


「ようこそ、私達の星《ガーラス星》へ。私の名前はコーコア、この拠点のまとめ役だ」

「ようこそ、と言われてもな。一からすべて説明してもらわないと全く分からないぞ」

「そうだろうな。暴れん坊のお前には説明しなければいけないことが多そうだ。さて、何から話そうか」

「まず、俺はなぜおまえと会話ができているんだ?」

「ああ。私は翻訳グミを食べてお前の故郷であるグランス星の言語をインプットしたんだ。そのおかげでお前とも会話ができる。お前もこのグミを食べておけ」


 女から小さく柔らかい謎のものを二つ渡される。

 なんだかわからないが、言われるがままにそれを食べる。


「これでこの星と私たちの言語をお前は習得した」

「そうなのか、それはありがたい。だが、そもそもお前は何の目的で俺に話しかけてきたんだ?」

「そうだな、そのことを説明する前にお前について確認しなければいけないことがある。お前の方こそ、そもそも何のためにあの星に来たんだ?」

「さっきから星がどうのとか言っているが、そこから分からないんだが」

「私がお前に話しかけた場所が《ユノウミ星》で、そこから空間移動して今私達の暮らすガーラス星にいる。私達はお前の目的が知りたい」

「分からない。記憶が無いんだ。気づいたらあの星にいた。最初は死んだのかと思ったくらいだ。……ユノウミ星か、なんとなく名前は聞いたことがあるような気がする。でも、良かった。お前達から俺の星へ連絡を取ってくれないか? とにかく早く帰りたいんだ」

「なるほど、記憶喪失か。悪いが、私達の星とユノウミ星はそこまで交流を取っているわけではない。連絡をすぐに取るというのは難しいだろう。ただ、お前を私達の下で預かることはできる。お前はもうユノウミ星では凶暴な宇宙人として少しずつ存在が広まっている。やがてお前を捕獲、または討伐するために国が動き出してもおかしくないのだ」


 確かに俺はあの星で明らかに敵対している存在として認知されているだろう。

 いずれ本格的に戦う時が来るだろうとは考えていた。


「預かるというのは具体的にどういうことだ?」

「私達の元でしばらく生活させてやるということだ。まぁ、その代わりに私達の活動を手伝ってもらうことにはなるが」

「活動? 何をすればいいんだ?」

「そうだな、ある人物の調査をしてもらいたい」

「調査?」

「ああ。私達の仲間の数人が特定の人物の近辺調査を行っている。そこにお前も加わってもらいたい」


 どうにも怪しい。言葉が通じることで少し気を許してしまってはいるが、こいつらに対しての情報を俺は全く持っていない。信用など全くできるわけがないのだ。

 だが、コミュニケーションが取れる存在との関係をすぐに切ってしまうと俺が故郷に帰るすべが無くなってしまう。

 仕方がないが、ここは話を合わせておくしかないだろう。


「……分かった。俺も今は頼るあてがない身だ。お世話になるからには少しは手伝おう」

「そうか、それでは今日はここでゆっくりしてくれ。明日から調査に加わってもらうことにしよう」


 話はまとまり、俺はこいつらガーラス星人の拠点でしばらく暮らすことが決まった。

 余っている部屋に案内され、自由に使っていいと伝えられた。

 ここ一ヵ月、地下の自分で作った雑なベッドに寝ていたので、しっかりとしたベッドで寝ることができるのはありがたかった。

 睡眠時は一番無防備になるため、不安がなくなることはないが一応は約束をした以上襲ってくることはないだろう。

 食事をいただいた後、久しぶりに少し気を落ち着かせた状態で眠りにつくことができた。


 翌朝、コーコアとやらから一緒に調査をする者達を紹介された。

 正直、いちいち名前を憶えていられない。

 四人チームの中に俺が加わって行動をすることになるらしい。

 調査対象はユノウミ星の大国オチーヤの要人とのことだ。

 直接、接触することがまだできていないらしく、接点を作ることが最初の目標らしい。

 男女二人ずつで大きな声で話しながら、再び銀色の扉を抜けユノウミ星へと移動する。


「そういやグランス星人さんは名前なんっていうの?」

「俺の名前はラーだ」


 名前を聞かれたので答えた。

 その後、四人がそれぞれ自己紹介をしていたが、興味があまり持てず、名前を覚える気にはならなかった。

 話しながら移動を続けていると、人が多くいる街に辿り着いた。

 俺は出発する前に頭にはヘアバンドを付けられ、顔に絵を描かれた。

 俺の顔は既に出回っているとのことなので変装する必要があるらしい。

 四人のうちの一人が謎に突っ立っている男に話しかけた。

 謎の男と会話をした後、何かを手で渡していた。

 しばらくすると、謎の男は袋に入った食べ物を茶髪の女に渡していた。


「フランクフルト買ったからみんなで食べよう」

「おい、なんで食べ物を向こうから渡してきたんだ? あと、その前にお前は何を渡したんだよ」

「ユノウミ星ってお金無いの? どの星もお金はあると思ってた」

「お金ってのはなんだ?」

「お金はね、いろんなモノと交換するための道具だよ。生きるためにはお金が絶対必要なんだよ」


 説明されてもあまり意味がよく分からなかった。

 なぜ、モノと交換するために道具を使う必要があるのだろうか。

 モノはみんなで分け合えばいいのに、わざわざお金という道具を必要とするのはなぜなのだろう。


「お金を使わずにモノを取ったらどうなるんだ?」

「親しい人ならくれるかもしれないけど、知らない人のモノを取ったら泥棒になっちゃうよ。このユノウミ星でもそうだし、うちらのガーラス星でもそうだよ。まぁ、最近はユノウミ星でもお金が物質からデータに移行し始めてるけどね。ガーラス星ではお金はデータでしかなくて、一人一人に紐づいてるけど」


 何を言っているのかどんどんわからなくなっていく。

 お金が人間に紐づくというのはどういうことなのだろうか。

 ただ、お金という概念があるのだとしたら、俺がユノウミ星人に敵意を向けられていたのはお金を持っていなかったからなのかもしれない。

 そういえば、奴らが敵意を向けてくるタイミングは俺がモノを取った時だった気がする。


「じゃあ、これ食べたら調査を始めようか」


 まとめ役と思われる筋肉質の男が話を切り出したが、俺は未だに調査と言われても何をするのかが分かっていない。

 フランクフルトとやらを食べ終わった後、四人は椅子から立ち上がり動き始めた。

 黒い服に首に赤い前に長く余らせた布を巻いた男が縦に長く伸びた建物が出てくる。

 二人が男に話しかけに行く。

 男は二人に対して警戒した様子を見せたが、しばらくすると男は二人と一緒に移動を始めた。


「あの二人に付いていくよ」


 そう声をかけられたので、とりあえず周りに合わせて付いていくことに。

 男は人気の少ない路地裏に連れられて行った。

 俺と残りのメンバーも後ろから合流する。

 最後尾だったメンバーの一人が入口の方で立ち止まっている。


「あんた達、私の家族に結局なにしたんですか!」

「おいミーク、眠らせろ」

「はーい」


 ミークと呼ばれた女は袖から取り出したスプレーをユノウミ星人に吹きかける。

 その行動に驚きはあったが、それとは別に本当にユノウミ星人の言語を聞き取れることに感動を覚えた。

 まとめ役の男が倒れるユノウミ星人を抱える。

 ミークの方を見ると頭には触覚が生えていた。

 ミークが眠らされたユノウミ星人の頭に手を触れると男の身体は小さくなっていき、人形の形になっていった。


「それじゃあ、あと二人くらい捕まえよっか」

「もっと捕まえなきゃいつまでたっても終わらないぞ」

「調査って人を人形にすることなのか?」

「まぁ人形にするのは最初の段階で、これからいろいろとやることがあるんだよ」


 そもそも人形にしているのが謎だが、どうやらこの後にもやることがあるようだ。


 その後、しばらくユノウミ星人を人形にする作業が続いた。

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