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忘却の迷子  作者: 藤村 託時


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3.反撃

 目を覚ますと、彼の目の前には白い天井が映っていた。


 何故なのかはわからない。

 実は寝る前のことが全て夢で、ようやく現実で目を覚ましたのだろうかと考える。

 しかし、その答えが出る前に近くから物音が聞こえた。


「ようやく目を覚ましたようだ」


 白い服を着たネチェルが彼に何か声をかけている。


「君には私が何を言っているのか理解できないのかもしれないね、宇宙人君。君とのコミュニケーションを取る手段については考えないといけないな」


 とにかくまた逃げなければ、そう思い身体を起こそうとしたが、手足は動かない。


「悪いが、拘束させてもらっている。君の身体はこれから研究させてもらわないといけないからね。私達より遥かに強い力を持っているようだから、かなり頑丈に動きを封じさせてもらっているよ」


 彼には白服が何をしたいのかが全く分からない。

 新たな白服のネチェルが部屋に入ってくる。

 入ってきた白服は謎の針が付いた道具を彼の腕に刺そうとする。

 しかし、彼の肉体には針が通ることはない。


「先生、こいつの身体に注射器は刺せないみたいです」

「なるほど、金属以上の硬さを持つ肉体か。危険だな、こんなのが街の中にいてよく大きな被害が出なかったな」

「警察によると、GPS反応を追ったところ、こいつは森の中で寝ていたそうです。そこで捕まえてから、額の目の検査のために私達のところへ渡してきたんですよ」

「うーん、この生命体がどれほどの知能を持っているのかが気になるね。知能の高さによっては話し合いが可能かもしれないしなぁ。まぁ、一旦いろいろ試してみて情報を集めようか」


 彼には白服たちが何を会話しているのかは分からないが、自分の身体の自由を奪い針で攻撃をしているので、周りの者のことは敵と認識している。

 命までは奪わないにせよ、少しは痛い目を見てもうか、と考える。


「室長! なんかこいつ溶けてきてませんか?」

「どういうことだ? 自身に危機を感じて自滅を選んだのか?」


 彼は液状化した。

 液体となり拘束から逃れる。

 そして再び身体を固めた。

 彼は思う、さて、こいつらをどうしてやろうか……と

 まず手足を奪って無力化させることに決めた。


「っああああああああああああああああああ!」

「うっ……」


 白服二体の手足を爪で切り落とす。

 真紅色の体液が大量に流れ出ているが、まぁ白服の仲間が来れば肉体の修復くらいは可能であろう、さすがにいくら肉体が貧弱とはいえこれくらいでは死なないはずだ、と彼は考える

 動けなくなった白服たちを残し部屋から抜け出す。

 部屋を出ると、白服のネチェルが次々と彼のもとへ集まって来る。

 彼ももう容赦する気はない。

 彼に向かって伸ばされた手は爪で切り落とされていき、彼はこのままこの建物からの脱出を目指す。

 寄って来る者の手を何本か切り落としてからはむやみに彼に近寄ることはなくなっていった。

 手を切り落とされた白服が大声を出して何か叫んでおり、彼はおそらく自分に手を出さないように呼びかけをしたのだろうと考える。

 しかし、彼は出口が分からなかった。

 仕方がないので、壁は蹴り破りひたすらにまっすぐと進み続ける。

 しばらくすると、彼は外界へと出ることができた。

 中々の高さではあったが、彼はそのまま地上へと落下していく。

 地上のネチェル達は彼を見て困惑しているようだった。

 この世界のネチェルではあの高さから落下すると、肉体が耐えきれないのだろう。

 彼にとって奴らはとてもか弱い生き物ではあったが、とにかく数が多い。

 彼は無用な殺しはしたくなかったが、こうまでされては仕方がないと思う。

 どうやら、彼のいた世界のネチェルとは違い、この世界のネチェルは悪意を強く持っているようだった。

 悪意に対してはそれ相応の手段を取らなければ最悪命を奪われかねないのだ。

 ここは彼のいた世界とは違った文明を築いているので、どんな武器を隠し持っているかわからないのが懸念点だった。。


 さて、どうするか、と。


 彼は今孤立無援の状態であり、世界中が敵で溢れているという状況だ。

 できるだけ、目立ちたくはない。

 ただ、もう山にいても襲われることが分かったため、下手に自然の中にいるよりも、街に混ざって情報を集めた方が良いと考える。

 彼は適度に栄えている街を捜し、そこを制圧することに決めた。


 そして、一ヵ月が経過した。


 この世界の飯は美味い。

 そこだけは良い所だ。

 だが、孤独により心は弱っていく。

 今は寝るときは他の者がたどり着けないほどまで地下深くへ潜り、起きている時間帯は地上へ出て食料を確保する生活をしている。

 最初は食料を渡すことに抵抗していた街の住人も手を切り落とされると分かってからは抵抗をしなくなっていった。

 彼の世界ではそもそも食べ物はネチェル達全員で共有していただくものであった。

 この世界のネチェルはどうも分かち合うという意識が無いようだった。

 会話ができればまだ歩み寄ることもできる可能性はあるが、それもできないため力を見せつけるしかなかった。

 食べ物は美味いが、ただそれだけであった。

 家族も友もいないこの世界で孤独に生き続けていくことに何の意味があるのだろうか、彼はもはやいつ死ぬかだけを考えるようになっていた。

 しかし、事態は突然変わることもある。


「お前、目立ちすぎだよ」


 言葉が聞き取れる。理解できる。

 それはこの世界で初めてのことだった……

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