裏社会で幹部を務めている私は同級生の同業者に告白される
【作者より】
本作品は『 毒親に捨てられた私は聖夜の夜に復讐という名の円舞曲を踊る(https://ncode.syosetu.com/n4923ln/)』と『月下の殺戮者(https://ncode.syosetu.com/n6303la/)』のコラボ作品です。
私、神永 由佳は組織の会合の帰りに、とある路地裏に入ってすぐのところにバーらしき建物を見つけた。
「あら? こんなところにもバーがあるのね」
この辺りは残念ながら滅多に通らない。
はじめて見かけたということもあり、興味本位で吸い込まれるようにそこに入ってみる。
「いらっしゃいませ」
カランカランと扉のベルが鳴り、バーテンダーらしき女性が声をかけてくれた。
店内にはボックス席の他にカウンター席があり、その右端に高身長の男性客が一人いたくらい。
「ご注文は?」
「結構ですわ。電話したらすぐに出ますので」
今はお酒を嗜むより私の母親代わりだった首領に会合終了の報告の連絡がしたかった。
ただ、それを済ませたらここから速やかに出ようと思っていたの。
彼とは反対側に位置するカウンター席の左端に腰をかける私。
右隣の席に鞄と手袋を置き、コートをかける。
黒背広のポケットからスマートフォンを取り出し、彼女に電話をかけた。
「こちら、神永。今、お時間はよろしいでしょうか?」
『ええ。大丈夫よ』
「先ほど会合が終了いたしました」
『分かった。お疲れ様。道中気をつけて』
「はい。では、失礼いたします」
私は電話を切り、スマートフォンをポケットにしまう。
「まさか、君がね……」
カウンター席の右端にいる男性客が私の方を向き、白ワインが入ったグラスを優雅に回しながら声をかけてきた。
私はほんの一瞬だけ敵組織の人間が紛れているのではないかと思い、怪しまれると思うけれど、じっと彼のことを見る。
一見すると、なかなかのイケメンホストじゃない。
って……見とれている場合ではないわ。
ぼんやりと記憶の引き出しから探してみるけれど、自分で殺めた人間の最期の印象が強すぎて思い出したいのに、どうしても思い出せない。
「あの……どちら様でしょうか?」
「覚えてない?」
確認の意味で問いかけたのに、逆にイケメンホストから訊かれてしまったわ!
私は埋もれていた記憶の中で少しだけ引っかかったものがある。
今までずっと時が止まっていたせいで声変わりしていたからあまり気がつかなかったけれど、中学時代の面影があった。
少しだけ目つきが悪いけど、同級生の男子としては私が言うのもなんだけど、品があるところはそのまま残されている。
「く、来栖くん?」
「正解。一、二年の頃同じクラスだった神永さんだよね?」
イケメンホストの正体は来栖 直くんだった。
中学を卒業して十年は経過しているから流石に変化(?)があっても当然。
「ええ、こちらこそ正解よ。ごめんなさい。声だけだと全く気がつかなかったわ」
「いや、気にしなくていい。俺は君の声と口調、仕草だけで分かったのにな……」
彼は「あと電話していた時に名字だけ言っていたし。それでピンときた」とつけ加えられる。
はい、確かに私は名字だけ名乗っていたわよ。
私は幸いなことに未婚者だけど、下手したら違う神永さんかもしれないじゃない。
「そういう貴方こそ気にしているじゃない?」
「バレたか」
「表情でバレバレよ! 私が部外者や敵組織の人間ではなくてよかったわね!」
「そもそも何故、君がここに?」
「組織の会合終了の報告の電話のため、偶然このバーを見つけて入っただけよ! 私は用件が済んだから出るところ! 何か問題でも?」
「組織の会合? 何かの幹部会か?」
「そうよ。もしよかったら名刺を受け取って」
カウンター席の両端で会話をする私たち。
私は自分の名刺を来栖くんに向かって滑らせた。
「名刺、ありがとう。まさか君が俺と同業者だと思っていなかったから意外だった」
「そ、それは……」
彼はもちろん、同級生や恩師には私の本当の姿なんて分からなくて当然のこと。
今まで貴方たちが見てきたのは優等生を演じてきた仮初めの私の姿だったのだから――
「隠さなくていい」
「えっ!?」
「俺も似たようなものだから」
これは初耳だった。
私が気がついた時には来栖くんは左から三番目の席まで近づいていた。
距離が近い……
胸がドキドキする……
彼の話だとご両親は裏社会の人でこのバーを経営しているのはお姉様で情報屋だということを知った。
よって、華麗なる一族ならぬ、裏社会の一族じゃない!
「すみません。私にもワインをいただけませんか?」
「二種類ありますが、どちらに?」
「赤ワインで――」
本当ならば、速やかに帰る予定だったけれど、せっかく来栖くんと再会できたのだからもう少しだけここで過ごそう。
あれから私たちはワインを飲みながら過去の話をした。
時々、お姉様の和さんの突っ込みが入ったけれど……
ここまで来栖くんも私と同じような人生を歩んできたみたい。
でも、彼はいいところの執事でもあるから二重生活を送っているみたいだけれど。
表社会の自分と裏社会の自分といった感じね。
「――姉さん。そろそろ帰るよ」
「あ、気をつけてね! 由佳さんも!」
「はい」
私たちは帰り支度をし、バーを出た瞬間――
「目を閉じて」
「ん?」
手の甲に何かが触れた感覚。
目を開けると彼が跪いて私の左手の甲にキスをした。
「無難なところにしておいた」
「え?」
「本当は……」
「何?」
「ずっと……す……好きだったんだ」
ち、ちょっと、来栖くん?
突然の告白!?
なんだか調子が狂うじゃない!
「体勢はそのままにしていなさい?」
「何故?」
「私が貴方の身長に届くはずがないから。この高さが丁度いいのよ……」
私は彼の両肩に手を乗せ、髪にキスをした。
「わ、私も無難なところにキスをしたわよ!」
「さっき、頭にちょんと触れたのがそれ?」
「そう。私も同じような境遇の人ってなかなかいないし、分かってくれる人が顔見知りというだけでも嬉しかった」
「それって……つまり……」
「これで私が貴方のことが好きっていうことが分かったでしょう? 黒い口紅を使っているから髪の毛の方が無難でしょう? 日が跨がないうちに帰りましょう」
薄暗い夜道を途中まで手をつないで帰るけれど、会話をするのは少し恥ずかしくて私たちは無言だった。
来栖くんは私の何処に惹かれたのかしらね?
そこをきちんと教えてほしかったわ。
最後までご覧いただきありがとうございました。
2026/02/21 本投稿
2026/02/22 誤字修正




