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第1話 聖女物語 その8


 シランの予測に従い部屋の隅で隠れていた四人であったが、待てど暮らせど骸骨も男達も一向に戻ってくる気配がなかった。


「くわ~ぁ……ちっとも来ないな」限界まで口を開いてレドが欠伸をする。


「気を抜いちゃダ――ふわぁ……メよ」


「お前もな」


「あんたのがうつったのよ……ったく、欠伸って何でうつるんだろうね」


「一説によれば、欠伸によって相手に吸われた周囲の空気を奪い返す為って、昔どこかで聞いた事がありますが……まぁ、ネタですよね」


 部屋の隅に隠れてからそこそこの時間が経っている。そろそろレドとミーファとマナの集中力が限界のようで、三人がひっきりなしに話し始めた。


「皆さんも万が一の為の魔道具とか持ってるんですか?」


「あたしとシランは持ってるよ。でもレドは持ってないの。こいつ我慢できずに食べちゃうから」


「たしかにちょっとお腹空いてきましたよね……って、おやつじゃなくて魔道具の話ですよ?」


「うん。魔道具の話をしてるつもりよ」


「……えっ、ごめんなさい、ちょっと意味が分からないんですが……」


「レドは子供の頃から魔石を食べちゃう癖があるのよ。魔道具の魔石もね」


「食べる癖? 魔石を? そう言えば噛み砕くとか言ってたけど、そういう意味だったんですか――えっ、食べる?」


「だから何であんたはいつもその話題になるとドヤ顔をするの? 誰も褒めてないし、なんならみんな引いてるまであるよ」ドヤ顔のレドにミーファが突っ込む。


「だ、大丈夫ですよ。世の中いろんな人がいますから。ちょっと驚いただけで、引くなんて滅相もないです」


「ところでさっきシランがハンマー振り回してた時に風切り音してなかった? あれ魔道具の効果だよ。風系魔法でブーストして威力を上げてるの」


「そんな気軽に魔道具使っちゃうんですか? 切り札ですよね。勿体なくないですか?」


「俺の魔道具は複数回使えるやつだから大丈夫。ケチってたらいざと言う時もケチっちゃうしな。それにさっきは十分いざと言う時だったし」


 シランも話に交ざってきた。


「ああ、罪悪感にみぞおち辺りをグイグイ掴まれてる気がします……ホントにすいませんでした」


「それよりもシラン。いい加減腹が減ってきたんだが、いつまで隠れていればいいんだ?」


「おっかしぃなぁ、結構自信があったんだけど。何かあったのか?」


「まぁ、予想が外れる日もあるって。気にしない、気にしない」


 ミーファが肩をポンと叩くと、シランは大きくため息を吐いて立ち上がり「しゃーない、予想は外れたという事で、ぼちぼち行動しますか」とズボンを叩いて砂埃を落とし瓦礫の陰から出た。


「ほいきた」立ち上がったレドが首と腰を捻る。

 ミーファも腕を上げ背中を反らせて軽くストレッチをこなす。そのしなやかな動きに思わずマナが見とれてしまう。

「わー、キレイで羨ましいです」


「スタイルの良さも獣人の特権だからねー」ミーファがゆっくりと片足を上げていき、そのまま腕を使わずに真っすぐ上に突き上げる。


「可動域もバランスもすごい!」


「獣人の冒険者ならみんなこのくらい当たり前だよー。まぁそこら中傷だらけだけどね」と謙遜しつつもまんざらでもない顔で次々とポーズを変えていく。


「おい、行くぞ」無表情のの男性陣がせっつくと、マナが驚いた様子で


「男性のお二人はミーファさんのこの引き締まった健康的でしなやかな美しい肢体を前に何も感じないのですか?」と聞いてきた。


「……いや別に」


「ガキの頃から家族みたいなもんだしなぁ。逆にマナさんはお兄さんに美しさとかカッコ良さとか感じてた?」


「そう返されるとぐうの音も出ませんね……」


「ほら行くぞ」


 呆れ顔の男性陣とやるせない表情の女性陣がこの部屋を後にしたのは、昼を少し過ぎた頃だった。



 ◇◇◇◇



 薄暗くてジメジメとした通路をシランとミーファが先頭、マナを挟んでレドがしんがりの配置で進んでいた。行きに通ったルートよりも壁の損傷が少ないせいで、採光用の隙間以外からの光があまり無く通路が薄暗い。

 今回は行きと違って道中に残された痕跡を確かめる必要があった。それが出口への道順になるからだ。


「この辺はまだ追いかけっこしてたみたいね。新しくて派手な跡がチラホラある」


 ミーファが床を覆う砂埃の上に残った新しめの跡を確かめている。ミーファとシランは獣族の血が混ざっている分、多少の暗がりでもレドよりはっきりと見ることができた。特に走る骸骨の痕跡は分かり易い。


「壁にも新しい傷があるな。こりゃ骸骨の持ってる武器でも当たったか」


 シランが壁に刻まれた真新しいキズの下に落ちているツタの切れ端を拾い上げた。それは通路の壁にある採光用の細長い隙間から侵入してきたツタで、壁のキズのところで丁度切れている。


「おっ、これたしか湿布になる葉っぱだ。何か白い斑点が付いてるけど、まぁいいか。少し採っていこう」


 そう言うとシランは採光用の穴から垂れているツタにもう片方の手を伸ばした。


「ちょっと待って。葉っぱをよく見せて」拾ったツタを握る腕をグイッと引っ張って、ミーファが食い入るように葉っぱを見つめた。


「これ……毒だわ。さっき言いそびれた悪役令嬢物の新刊。その中にこの葉っぱが出てくるのよ。あ、マナさんまだ読んでない? ごめん、ネタバレになっちゃうけどいい?」


 マナがコクコクと頷く。


「この湿布になる葉っぱ――オイズミの葉だったかな。極稀に毒を持つことがあるんだって。小説では薬効成分が度を越して濃くなるのが原因じゃないかって言ってたよ。目印は葉の白い斑点模様で、多分こんな感じだと思う」


「へー……って、待て待て。小説の話を真に受けんなよ。ほら、虫が食べた跡があるぞ。毒があるなら虫は食べないんじゃないか?」


「小説だからって全部が全部つくり話とは限らないじゃん。リアリティを出す為にちゃんと調べてる人だって多いし。ホントに毒があるかもしれないじゃん。お前、さっき話遮ったじゃん」


「うっ……根に持ってたのか。……わーったよ。注意するに越した事はないからな」


 食い気味に詰めるミーファに気圧されて、シランは拾ったツタを放り投げた。


「うむ。この選択によって救われる命もある……かもしれないぞよ」


「何だそりゃ?」


 マナの妙な言い回しに怪訝そうに反応したシランに倍速の速さでマナが説明を始めた。目が輝いている。


「今のはですね先ほど話にでた悪役令嬢物『こう何度もループしていると悪役令嬢も王道ヒロインも飽きてきたので今回は裏方に徹しますが油断してると寝首を掻きますわよ』のヒロインのキメ台詞なんですよそもそもこの作品のすごいところは――」


 立て板に水の如き怒涛の解説が一通り終わり、呆気にとられたシランが我に返って唾をゴクリと飲み込んだ。


「お、おう。よ、よく分かったよ、すごいんだな」


「分かって頂けたようで何よりです」


 満面の笑みのマナ。しかしレドがボソリと呟く。


「裏方に回ったらさ、悪役令嬢物じゃなくて裏方物なんじゃ……」


 ハッとしたマナが「そうですまさにそこがこの作品の――」と前のめりになった瞬間、シランはめいっぱい渋い顔でレドを睨みつけた。



 ◇◇◇◇



 再び歩き始めて間もなくレド達は分かれ道に差し掛かった。

 骸骨の足跡は右へ曲がっている。と言うことは男達もここを右折したことになるが、よく見ると正面の通路にもつい最近出来たような跡が僅かに残っていた。

 そっちの跡は多柱室へ向かっている時に男達が付けたんじゃないかとミーファが推測すると、じゃあ真っすぐ進んでみるかという話になり、四人は緩やかにカーブを始める通路を進んだ。


 だが少し進むとその推測が間違いだったと分かった。

 緩やかなカーブの先は崩落した天井や壁によって完全に塞がれていて、人の通れるような隙間が無かったからだ。

 

 おそらく男達も同じようにここでUターンしており、痕跡はその時のものだろうと結論づけられた。四人は再び分かれ道まで戻ってくると、今度は骸骨の足跡の方向に歩き出す。

 そのまま道なりに右折と左折を何度か繰り返し進むと左手に部屋の入口が現れた。扉は無かったが、蝶番らしき跡があるので昔は付いていたのだろう。そして部屋の入口の手前で足跡が二手に分れていた。部屋に入る足跡と通路を進む足跡だ。通路は少し先で左に折れている。


「足跡が……どっちも骸骨のっぽいけど、何で二手に分かれたんだろう……」しゃがんで足跡を確認してるミーファが考えを巡らせる。


「二手に分かれたんじゃなくて、一旦部屋の中を確認してから向こうに行ったとか?」


「それだと骸骨はこの時点でもう既に男達を見失ってることになるけど?」



 二人の会話を聞きながら邪魔をしては悪いと思い、マナはレドに小声で話しかけた。


「ここまでほぼ一本道でしたから、途中で骸骨を撒くとかできないと思うんですよ。撒くとすればこの部屋。この部屋に入った男達が何らかのトリックで姿をくらましたから骸骨が見失って部屋を出ていったという可能性もあるんじゃないでしょうか。そうなるとまだこの部屋の中に男達がいる可能性も……」


「お、おう。俺も全く同じ事を考えてたところよ」


「ほほぅ……さすがですね」



「――もあるし、もしかしたらこの部屋の出入口はひとつじゃないのかも。だとしたら骸骨はこの部屋に隠れた男達を挟み撃ちする為に二手に分かれたとか?」


「骸骨ってそんな戦術的な事できるのか?」


「うーん……だよね……」


「それに敵の戦力が目の前で半減したら、面倒でも出てきて倒しちゃおうって思わないか? でも出入口がひとつじゃないってのは――」




 先頭の二人の会話を聞きながらレドはマナに小声で話しかけた。


「あの二人は肝心な事を見落としてるな」


「何をですか?」


「もう既に骸骨にやられちゃった可能性だ」


「でもそれらしき遺体はありませんでしたよ?」


「そりゃ骸骨が担いで運んでるのさ」


「何の為に?」


「仲間にする為さ。絶対バルコニーに運んで天日干しにするんだよ。この辺に放置するより早く白骨化しそうじゃん」


「ほほぅ……さすがですね」でも戦った形跡ってありませんでしたよねという質問をマナはグッとこらえた。




「――つぅわけだけどって、話聞いてるか?」シランがレドを見た。


「えっ――お、おぅ、聞いてた聞いてた。他の出口があるかもって話だろ?」


「その後の話だよ。やっぱり聞いてないじゃん」


「き、聞いてたけど、そこは敢えて言わないところが大人の美学のあれやこれで」


「「ねーよ」」二人が同時に突っ込んだ。


「大人の美学。ちょっと気になります」


「いいよ、マナさん話に乗らなくて。レドのアホはいつも適当だから」


「そうそう。レドの話は――」



「あっ」

 

 マナが小さく声を漏らしてレドをつついて、通路の先を指さした。


 それを見たレドが声を出して指をさす。「あっ、うしろ、うしろ」


「――話半分くらいに……うおっ!」


 シランが振り向くと、すぐ先の突き当りの通路から二匹の骸骨がこちらを見ていた。


「こりゃヤバいな。予定変更。みんな部屋に飛び込むぞ。ミーファは部屋の中に別の出入口がないか確認してくれ」


「了解っ」素早くミーファが部屋に飛び込んだ。


 シランの見立てでは部屋には別の出入口があって、男達はそこから逃げて骸骨を振り切ったと考えていた。出入口があれば良いが、最悪戦闘もやむをえないかとハンマーを握りしめる。

 骸骨がこちらへ向かって動き出した。


「とりあえずマナさんも中に入って、どっか端の方に」


 マナは頷くと部屋の中に入り、その後をレドとシランが骸骨から目を離さないように後ずさりで続く。

 部屋の中は通路と同じく薄暗かった。一応部屋の壁にも採光用の隙間があって、部屋の所々に日差しがを細長く伸びている。

 対骸骨に関してはシランもレドも打撃武器なので相性は良いい。それに骸骨は癖のある魔物というだけで、決して討伐の難しい部類の敵ではなかった。

 

 ふと気になってシランがマナに確認をした。


「マナさん、骸骨って何匹だったっけ?」


「えっと――兄を抜いて四匹だったと思います」


 いま目の前にいる骸骨は二匹だ。数が合わない。

 シランは部屋の中をぐるりと見回した。ぱっと見て骸骨や男達の姿は見当たらない。

 その代わり、通路よりも高くなった天井に、いくつかの白い塊がぶら下がっているのが視界に入る。



「何だあれ――」




「きゃあ!」


 

 部屋の奥からミーファの叫び声が聞えた。

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