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第1話 聖女物語 その7


 らせん階段を上って広い部屋に出たミーファとレドは、シランと一緒にいるマナの姿を見てようやく安堵した。二人の足元に転がる首無しの骸骨が、危機は既に去ったと告げている。


「やっと追いついた――マナさん無事? 何か叫んでたみたいだけど……」


「あ、いえ、大丈夫です。危ないところをシランさんに助けてもらいました」


 ミーファの心配にマナは笑顔で答える。しかし横のシランはマナとは逆に、何とも言えず複雑な表情をしていた。


「ん? どうしたシラン」


「いや、危ないところへギリギリ間に合って骸骨の頭をぶん殴ったまでは良かったんだけどさ。……どうやらこの骸骨がマナさんのお兄さんだったみたいで」


「うっそ、マジか! ……で、頭はどこ行った?」レドはキョロキョロと周りを見まわしたが、どこにも頭蓋骨は転がっていない。


 シランは申し訳なさそうに外を指さしながら「外の森の中」とボソっと呟いた。


「あちゃー、もしかしてブーストして飛ばしちゃったの?」


 ミーファは床に転がる瓦礫をピョンピョン飛び越えながら一直線にバルコニーへ出ると、風化して今にも崩れ落ちそうな手すり越しに森を眺めた。


「こりゃ探すとしたらひと苦労だわ……」


 頭蓋骨は飛んでいってしまったが、首から下とはいえ手元には遺骨が残っている。当初の目的から見れば十分に納得のいく結果であるはずだ。後はマナを次の街まで無事に送り届ければクエスト完了である。

 帰り道はこのバルコニーから下に降りられないかと考えたミーファが手すりから顔を覗かせて下を見てみた。

 

 ――うーん、ここからは高くて無理か。素直に来た道を戻った方がいいかも。


 そう思い諦めて中に戻ると、マナが何度も頭を下げて謝っていた。


「むしろ謝らなきゃいけないのは私のほうです。勝手な行動で迷惑を掛けてホントにごめんなさい。それにほら――」


 マナは床に転がっている骸骨の手を持ち上げると、装備しているのか、引っかかっていたのかよく分からないブレスレットを抜き出した。


「これ冒険者だった父の形見なんです。今となっては父と兄の両方の形見になっちゃいましたけど。まさかこれが手元に戻って来るなんて思ってもいませんでした。これも皆さんのおかげです。だから兄の頭の事は全然気にしないで下さい」


 シランは大きく息を吐くと「分かったよ」と観念し、じゃあこの遺骨はどうする? とマナに尋ねた。 


「指の先くらい拾っていってお墓に入れようかなと思います。ある程度の塊だと、なんか動き出しそうで怖いですし」


 そう言ってマナは骸骨の指の骨を強めに引っ張ってみる。指の骨は拍子抜けするほど簡単に外れた。こんなに脆い関節であんなに強く剣を投げられるのかと不思議に思ったが、そもそも目や耳が無いのに見たり聞いたりできるのだから、そういうものだと納得するしかない。

 マナは指の骨とブレスレットを上着のポケットにしまうと、先程レドから受け取った旅行カバンの中の小さな造花の花束を取り出して、骸骨の胸の上に置いて両手を添えさせた。


「兄さん。造花でごめんね。私の事は心配しないで安らかに眠ってください。もしまた動き出しても冒険者の人達に迷惑掛けないでくださいね」とマナは目を閉じて兄の冥福を祈った。


「もしまた動きだしたとしても、今度持ってるの花束だから大丈夫じゃない? もしかしたら有名になるかもよ」ミーファがくすりと笑う。


「それはそれで複雑な気持ちになりそうですね」マナも微笑んだ。



「それじゃあ用も済んだ事だし帰るとしますかね。うーっ」


 レドは大きく伸びをしてから首と腰、それから指の骨をボキボキ鳴らした。


「骸骨見てたら鳴らしたくなっちゃってさ」とレドは気持ちよく音が鳴って満足そうな顔をしている。



「そうそう、骸骨と言えばですね、皆さんが来る前に――」マナが部屋の奥の方の出入口を指差す。


「あっちの入口から私達を追いかけてきた男達が入って来たんですよ。その時丁度、そこの柱の陰から日向ぼっこしてる骸骨達を観察してたんですけど」



「「「えーっ!」」」三人が一斉に驚く。



「骸骨って日光浴するのかよ!」


「いや、驚くのそこじゃないだろ。そんなヤバい状況でよく無事だったな。てか、追手はどこ行った? こっちには来なかったぞ」


「そーいや、骸骨って集団だったよね。他の骸骨はどこに?」



 驚いたポイントは三者三様だった。


「まぁまぁ」と落ち着くよう促したマナは少し得意げに、そして多少盛りながら自分の武勇伝を三人に聞かせる。 


「へー、すごいな。あの短時間でそんな事があったのか」


「もしマナさんが骸骨を追ってなければ、あの追手と鉢合わせしてたかもしれないってことだよね。マナさん大活躍じゃん」


「結局男達って何が目的なんだろうな。まぁ、やり過ごせればそれがいちばん――やり過ごせればか……」シランが口髭をいじりながら急に何かを考え始めた。


 彼が口髭をいじっている時は何か考えているサインなので、シランの考えが纏まるまで二人は待機という名の休憩に入る。


「ねぇねぇ、マナさん。形見のブレスレットって見せてもらえる?」


「いいですよ……はい、どうぞ」


 ブレスレットを受け取ったミーファは、ひっくり返したり陽に透かしてみたりと丹念にブレスレットを観察した。 

 銀色のブレスレットは平べったい形状で、小指の先程の魔石が埋めこまれている以外は特に装飾も無くシンプルなデザインであった。裏側に国の刻印が刻まれているので市販の魔道具で間違いない。


「やっぱり魔道具かぁ。魔石がくすんじゃってるからもう使用済みだね。補充師に……は無理か」


 魔道具は誰でも簡単に魔法を利用できるとても便利な道具である。

 効果や威力は価格に応じてピンキリだが、国が販売している商品なので低価格帯でも粗悪品はほぼ無いし、高額な品も相応の物でぼったくりという事はない。マナの形見のブレスレットはそれほど高い物ではなかった。

 大抵は一回、物によっては数回使用すると魔石内部の魔素が空になって使えなくなるので、いざという時の為の切り札として所持している冒険者がほとんどだ。

 使用済みの魔道具は何の役にも立たないのでよほど思い入れが無ければ処分されるが、補充師によって魔素が充填されれば魔道具は復活する。ただし補充師自体がとても希少な存在なので利用料金は目が飛び出る程高い。一点物の特別品でないかぎりは買い直したが圧倒的に安い。実際に利用するのは特別な魔道具を持つ貴族くらいだった。


「はい、返すね。見せてくれてありがとう」

 

 マナは返してもらったブレスレットに手を通すとサイズは大きかったが、その緩さを懐かしそうに眺めながら思い出を語り始めた。


「正直もっとしんみりすると思ってました。お花を添えて涙ぐんで――みたいな。でも蓋を開けてみればへんな集団に襲われるは、カタカタとアゴを鳴らしてる骸骨が兄だはで、もうそれどころじゃないっていうか……。父も冒険者でしたが兄と私が子供の頃に亡くなってしまい、生き残ったパーティの人がこれを届けてくれたんです。兄がすぐにこれは俺が使うって、四六時中身に付けてて。ずっと羨ましかったんですよ」


 腕を上げると肘の辺りで、腕を下げると手首でブレスレットが引っかかるのが楽しいのか、何度も腕の上げ下げを繰り返している。


「ギルドに護衛の依頼を申請しに行く前に、よく兄と遊んでいた広場に寄ったんです。当時はまだ兄にもブレスレットがちょっと大きくて、こんな感じで揺れてました。そんな当時の思い出に耽っていたら、綺麗なご令嬢がお付きの人をぞろぞろ引き連れて広場にやって来たんですよ。とにかくその人数に圧倒されちゃって、私はすぐにそこを切り上げてギルドに向かったんです。で、ギルドに到着して依頼書を書いていると、そのご令嬢がいつの間にか私の横に立っていたんですよ。そして特に頼んでいないのに私にアドバイスをくれたんです」


「何だその謎しかないご令嬢。俺もちょっと見てみたいわ」レドが興味津々である。  


「私もびっくりしちゃって、名前も知らないの人なのに思わず雰囲気に飲まれて従っちゃいました。でもそのアドバイスが無ければ聖女って書かなかったし、そしたら皆さんにも出会えなかったし、このブレスレットも戻ってこなかったので、今思えば感謝しかないですね」


「マナさんマナさん、令嬢って言えばさ、最近出た新刊でこう何度もル――」



「よし、お待たせ」


 三人が話に夢中になっている間にバルコニーまで様子を見に行っていたシランが戻ってきて声をかけた。休憩時間の終了である。




「じゃあどっちかが戻ってくるまでこのまま待機で!」



「……へ?」


 三人がポカンとした顔でシランを見た。


「せんせー、意味分かりません。どっちとは?」レドが手を挙げる。


「骸骨の集団か追手の男達の事だ。いいか、多分向こうは――おいミーファ、やめろ、石を投げるな」


 結局待機のままなら話を遮る必要ないじゃんと文句を言うミーファにごめんごめんと謝って、


「こ、細かい事を言い出したらキリがないけど、おそらく撒かれた骸骨がここへ戻ってくるか、骸骨を撒いた男達が先にここへ戻ってくるかのどちらかだと思う。何にしてもこの部屋にどちらかが戻ってくるはずだ」


 シランは部屋をぐるりと見回してから部屋の隅を指さした。


「もし骸骨が戻ってきた場合はバルコニーで日光浴の続きを始めるまであの隅に隠れて、そのあと気づかれないようにそっと奥の出入口から出よう。逆に男達が戻ってきたら隠れてやり過ごす。それからバレないようにその後を追う。追われるより追う方が気が楽だろ?」


「何で戻ってきた骸骨が日向ぼっこするって分かるんだよ」


「今、バルコニー見てきたら同じ場所に擦れた後がいっぱいあったんだよ。おそらく常習的にここで日光浴してるんだろう。マナさんの話では日光浴を中断したようだし、まだ陽が高いから戻ってきたら続きをするんじゃないかと」


 なぜ骸骨が日光浴をするのかという根本的な疑問は、考えてもキリがないのでやめよういう事となった。いま大切なのはマナのおかげで得た情報をどう活用すべきかである。


「男達がここへ戻って来た場合、こっそり後を付けている間はイニシアチブはこちらにある。隙を見て逃げればいい。逆に戻ってこなかった場合は、追跡を諦めたか、違うルートで俺達を探しているかだ。さすがに骸骨にやられたとは考えづらい。ならば足跡を逆にたどれば男達に出くわす事なく外に出られるだろう」



 とりあえず部屋の隅に移動した四人は柱に身を隠し、骸骨と男達がいつ戻って来てもいいように部屋の奥の出入口を静かに見張り始めた。


なぜ骸骨は日光浴するんでしょうね……

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