表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/19

第1話 聖女物語 その6

 

 マナは両手を広げ、目の前の柱を境に両方に瓦礫を放り投げた。

 一方は日向ぼっこをしている骸骨の方へ。

 もう一方はマナに近づいてくる三人の男達の方に放物線を描きながら飛んでいき、ほぼ同時にコツンコツンと床に落下した。

 先に反応をしたのは男達の方で、音のした方に素早く武器を身構えた。先頭の男のハンドサインで後ろの二人が左右に展開する。

 三人の視線はバルコニーでカタカタと音を立てて蠢く存在に向けられていた。

 

 バルコニーで甲羅干しをしていた骸骨達も、マナが投げた石に反応して動き始めていた。起き上がるとすぐさま部屋の中の三人の男達を認識し、武器を構えて無造作に躊躇なく部屋に入ってくる。どんな方法で統率を取っているのか不明だが、五体の骸骨は男達を包囲するかのような動きで距離を詰める。

 まさにこの状況はマナが思い描いた通りの展開だった。後は戦いが始まったらそのどさくさに紛れて、元の道へと逃げる算段だ。マナは柱の陰で息を殺してそのタイミングをじっと窺った。


 しかし五体と三人の戦闘はなかなか始まらない。男達が上手に動き、骸骨達との間合いを保っているからだ。なぜさっさと戦わないのだろうと思ったマナは、少し前にレドから聞いた話を思い出した。


 ――そう言えば不死系は旨味が無くて不人気なんだっけ……。


 マナは知らなかったが、先ほどのレドの説明は間違ってはいないものの極端であり、どちらかと言えば話のネタに近いものだった。実際に不死系が嫌われている最も大きな理由は、ダメージ源の少なさだった。

 魔物でも肉を切られれば痛いし出血もする。筋や腱を切れば動かなくなる。臓器へのダメージ蓄積も効果が大きい。しかし不死系にはそれがない。そもそも部位が無いからだ。潰す目すらない。痛がりもしないし、骸骨などはダメージ源が硬い骨しかない。骨を砕くような鈍器系の武器を持っているなら良いが、刃物だと刃こぼれが頻発してすぐ使い物にならなくなってしまう。だから嫌われているのだ。特に悪霊(レイス)は物理的な攻撃手段がなく、もっとも嫌われていた。

 

 ただそれをマナが知っていたところで現状が変わるわけではないし、取る手段が変わったわけでもない。いずれにしても戦いが始まらない限り逃げ出すチャンスがやってこないので、今はただひたすらに待つ以外の選択肢は無かった。

 

 そしてついに事態が動いた。

 先頭の男の合図で男達は素早く踵を返し、西側の入口へと走り出したのだ。戦闘ではなく逃走だった。それからツーテンポくらい遅れて反応した骸骨達が男達を追い掛ける。


「えっ、逃げた――ッ」思わず大きな声が出てしまい、しまったと慌てて口を塞ぎ顔を引っ込める。


 ――マズい、見つかった? あっ、でも耳が無いんだし聞えてないかも。


 そうに違いない、多分大丈夫と心の中で祈りながら、こっそりと柱の陰からマナは顔を覗かせる。

 

 

 そんな事はなかった。

 

 希望的観測は一瞬で砕ける。最後尾の一匹が男達の追跡を止め、マナの隠れている方をじっと見つめて立っていた。右手には刃こぼれの酷いブロードソードを持ち、時折りカクンと半開いてしまうアゴを左手でカチンと音を鳴らして閉じている。そしてその左手には見覚えのあるブレスレットが。骸骨はマナの兄だった。


「そう言えば、石の音に反応してたしね……」


 と己の馬鹿さ加減に呆れたが、今は反省をしている場合ではない。逃げ足には自信はあったが、如何せん相手は余分な物が一切付いていない超軽量級である。本気で追いかけられたらどうなるか分からない。

 しかしずっとこのままの状態ではいられない。一歩近づかれるごとに逃げられる可能性は低くなる。その場に留まってアゴをカクンカクンさせている今が一番可能性が高いはず。そう考えたマナは覚悟を決めて柱の陰から飛び出した。


 次の瞬間、銀色の物体がヒュンと視界の隅を通り抜け、マナは反射的に足を止める。


 飛び出したマナめがけて飛んできた銀色の物体が足元ギリギリに激しく叩きつけられ、低く跳ね返って床に転がる。骸骨の投げたブロードソードだった。小説なら飛んできた剣が綺麗に突き刺さるのだろうが、実際はそう簡単に突き刺さるなんてまずないだろう。しかしそれでも戦闘経験の無い少女を竦ませるには十分な演出だった。

 今の今までお留守にしていた危機感が急に戻ってきてマナの身体を硬直させる。怖くて動けない。逆に骸骨の方はまるで楽しんでいるかのように、カタカタとアゴを鳴らしてゆっくりと距離を詰めてきた。


「ムリ、ムリです、兄さん」恐怖で動けないマナは震える声でなけなしの抵抗を試みるが、骸骨は容赦なく近づいてくる。



「お願い、兄さんやめて……」




「兄さん、止まって」




「兄さん、助けて!」




「兄さ――あぁ、もうキモい!」




 突然の逆切れに骸骨がビクンとのけ反った。


「昔から兄さんはちょっとしつこいのよ! 嫌だって言ってもなかなかやめてくれないし」


 どこに効いているのか分からないが、骸骨が後退る。

 もしかしたら兄の心がどこかに残っているのかもと感じたマナは、生前の兄の意地悪を思い出し、どんどん腹立たしくなっていた。


「こ、この際だから言わせてもらいますけど、空気読めないし、言う事も全然聞いてくれないし、お父さんの形見も勝手に持って行っちゃうし、カッコつけて私が渡したポーションも人にあげちゃうし」


 今まで溜め込んでいた想いが一気に溢れた。

  

「挙句の果てに死んじゃって私は一人ぼっちになっちゃうし、どう思ってるんですか! ばかばかばかばか! 何の申し開きも無いんですか?」


 マナにキツめに詰められて先程までと立場が逆転してしまった骸骨は、親に叱られた子供のようにしょんぼりして見えた。若干頭が垂れてアゴも半開きのままだ。


「私が大変な思いをしてる間、兄さんはふらふらとうろついてのんびり日向ぼっこですか。てかどうして骨だけで動けてるんですか。気持ち悪いです。それによく見たら鼻の穴の中に蜘蛛の巣が張ってるし……気持ち悪いです!」


 表情を作る皮膚も筋肉も存在せず白くて硬いはずの頭蓋骨が一瞬紅潮し、眉間にシワを寄せて眉が吊り上がったように見えた。気持ち悪いと連呼されてぶち切れたのか、カタカタカタとアゴを震わせて両手を振り上げる。


「しまった。やり過ぎたか」常に冒険者の言ってみたい台詞ランキング上位であり、マナも大好きな小説の主人公の口癖が思わず飛び出す。

 

 なぜさっさと逃げなかったのかと再び己の馬鹿さ加減を呪ったマナは、とにかく兄に機嫌を直してもらうしかないと必死に謝った。



「ごごごごめんなさい! ちょっと言い過ぎました。どうか、どうか落ち着いて、に――」

 



 タタタッという足音と共に飛び込んできたシランの振り回すハンマーが甲高い風切り音を鳴らしながら、今にも襲い掛かろうとしている骸骨の第四頸椎から上をきれいに吹き飛ばす。

 骸骨の頭は勢い良く部屋から飛び出しバルコニーを超えて、美しい放物線を描きながら向こうの森の中に吸い込まれていった。



「――いさぁぁぁぁぁんっ!」マナの叫び声が飛んでいく兄の頭を追いかける。

 


「えっ?」


 首から上が吹っ飛んだ骸骨の胴体が、クルクルと回転しながら仰向けにひっくり返る。

 間一髪のところで骸骨からマナを助けた――はずのシランの顔が引きつった。



「えっ? お兄さん? えっ、待って……えっ?」


しまった。やり過ぎたか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ