閑話休題 ギルド職員の日常
ギルド職員だって公務員。
でも、でも――。
「あぁん? 何、面倒くせーこと言ってんだよ。さっさと報酬寄越せって言ってんだろうがよ!」
「ですから符牒が違っているので、ギルドの方から依頼人に確認を取ります。確認が取れるまでお待ちください」
怖いよぉ。冒険者怖いよぉ。何がどうなったらそんな、顔をグルっと二周する傷ができるの?
「だぁからぁ! そんなの知らねーよ。こっちは渡された紙をそのまま渡してるんだから、間違ってんなら向こうだろ? なんでこっちが割り食うんだよ。殺すぞ」
「申し訳ございません。決まりなので確認が取れるまでお待ちください」
ここでゴネたって無駄だから。いい加減、諦めてよ。
悪い輩がクエストをやらずに依頼人を脅して符牒を聞き出す。なんて事が起きないように、こちらで依頼人に確認を取るまで待ってもらう。
依頼者を目的地まで送り届けるタイプとか、仕事の完了を示す証拠の無いクエストもある。そんな場合、依頼人が再度ギルドへ報告にくるのも大変なので符牒が使われるのだけど、ぶっちゃけ間違った符牒を持ってきた時点で九割は怪しい。絶対とは言い切れないけど。
渋々引き下がった冒険者にお辞儀をして見送ると私は小さくため息を吐いた。
つくづく配属先、失敗したなと思う。
と言っても自分で望んだわけじゃないから、私が選択を失敗したわけじゃない。ただただ運が無かっただけ。
そりゃ公務員なんだから不平不満を抱えた人達の相手もしなくてはいけないと思うけど、何か冒険者って違くない?
違うルールで生きてるというか、違う生き物というか。顔面凶器の冒険者や血生臭い冒険者、目の輝きが全くない冒険者。
そんな人達から日々脅され、文句を浴びせられて生きた心地がしない仕事が、私の想い描いていた公務員だと言えるか。
――否。断固として否!
と心の中で叫んでもどうしようもないので、しがない公僕である私は今日も仕事を淡々とこなす。
ギルドは年中無休。
朝だったり昼だったり夜だったりと勤務はしっちゃかめっちゃかだ。配属先にもよるが、一般的な公務員は夕方までのお仕事。私もそれが良かった。
職員は大抵は所属部署のメイン業務をこなす他、個々に担当も振り分けられる。
私は特殊な筆記魔道具の担当。
全てのギルドはギルド庁と特殊な筆記魔道具で繋がっていて、その魔道具で情報のやり取りを行っている。
「リリ、おつかれ。変なのに当たっちゃったね」
先輩のシフレが声を掛けてきた。エルフのめっちゃ美人さんである。
窓口業務をやっているとエルフはつくづく得だなと思ってしまう。
だって私と違って、窓口で暴言吐かれているところを見た事がない。
「ツイてないです……いつもならこの時間帯はムギ先輩がクエストカウンターの受け付けなのに」
「ムギは職専免だっけ」
「職専免ですね。ギルド庁に呼ばれてるらしいですよ。研修ですかね?」
公務員には職務に専念する義務があるのだが、公務で研修や外部のイベント等に参加する場合、それが免除されることがある。
それを職務専念義務免除と呼び、略して職専免と言うのだが、職専免という単語がいかにも専門用語ってぽくて無駄に言いたくなるのは内緒だ。
「リリ、変わるからちょっと休憩行っておいでよ」
「わー、ありがとうございます。ではお言葉に甘えてお茶でも飲んできますね。あ、でもその前に……」
魔道具のインクをチェックしなければ。
インクが切れていたら、いくら自動書記ペンが動いても文字が書けない。ギルド庁からの通達や連絡が途切れてしまう。割とマジで大目玉案件である。
「インクチェック、よし」
それにしてもペン同士がリンクしていて同時に動くなんて不思議だよね。この魔道具のお陰で離れている場所でも情報の伝達がスムーズに行えるんだからありがたい。
さすがこの世界に魔道具をもたらした賢者イズが直接開発しただけの事はある。うん。
インクのチェックが済むとすぐに、カタカタとペンが揺れ出した。
「あ、なんか連絡きた」
自動書記ペン、通称自ペンと呼ばれているが、ペンが勝手に起立して文字を書くわけではなく、よく動く鉄製のアームがペンを支えている。そちらの仕組みもよく出来てると思う。
ペンが紙に文字を書き始めたので横から眺めていたら、どうやら河岸変えの連絡っぽい。
河岸とは早い話、冒険者の拠点である。
冒険者は必ずどこかのギルドに拠点を置かなければならない。なぜならそこが冒険者の諸々の情報を管理するからだ。ギルド庁にも冒険者の情報はあるが、名前やランク、賞罰など大まかな情報だけで、細かいクエストの履歴や本人の手形等は拠点のギルドで管理されている。
拠点ギルドと呼んでもいいのだが、やはりここは専門用語っぽくて河岸と言いたい。
今、受け取っている連絡は十中八九、旧ギルドでの直近のクエスト状況の確認だろう。
受けっ放し、やりっ放しのクエがあると、それを片付けてからでないと河岸変えが受け付けてもらえないからね。
特に問題なければその旨を連絡後、新ギルドへ冒険者の書類を送ってやる事は終わる。後は新ギルドの方で送られてきた手形を使い、本人確認が済めば河岸変えが完了する。
河岸変えって主に遺跡や洞窟なんかを長期的に攻略する人や、地元に帰る人がやったりするんだけど、さっきの用紙に書かれた名前に見覚えが無いので多分地元に帰ったんだろうな。
遺跡とかにアタックする人は名の知れてる冒険者だったりするからね。
――おっと休憩、休憩。
書きあがった用紙を担当に届けてから休憩に入る事にした。
「あっ、イアンさん、河岸変えの連絡来てまし――」
用紙を届けようとしたらイアンが部屋に入って来たので声を掛けたら、有無も言わずに手に持つ用紙をイアンにぶんどられ、思いきり睨まれてしまった。
「えっ?」思わずびっくりしてしまう。
「担当外の人間が余計な事をするな」
「えっ、あ、すみません……」
用紙をギュッと握ったままイアンは出て行ってしまった。
思わず謝ってしまったけど、よくよく考えたらなんで私怒られたの? そりゃ河岸変えの担当ではないけど、自ペンの担当だからここに居たっておかしくないし、ちょうど居る時に連絡が来れば気を利かせるよね、普通。
私が悶々としているとシフレが通りかかった。
「リリ、まだ休憩行ってなかったの?」
「それが先輩、聞いてくださいよぉ」
もうこうなったら愚痴るしかない。
話を聞きながらシフレがうんうん頷く。
「イアンさんってちょっと変わってるよね。近寄りがたいという何というか。冒険者風の人と連んでいるって噂あるし」
冒険者風とは何だろうか。冒険者ではない? まぁお役所というところは噂好きが多いから、きっと又聞き、又聞きでぼやけちゃったのかなと思う。
「火のない所に何とやらだから、適当にやり過ごして関わらない方がいいよ」
結局、イアンさんには関わらない方向で話は終わってしまった。特に何も解決していない。
でもこの程度の吐き出しでも多少はスッキリするものだ。
仕方ないかと私は大きく背伸びをして、気持ちを切り替えた。
ギルドを作りたいというお話なので、ギルド側の話もかんがえてみました




