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第3話 スライム狩り その6


 「んーっ……くぅっっ……ふぁぁ、よく寝た」


 欠伸をしながら立ち上がったレドは大きく背伸びをした。



「あーっ! レドが目を覚ましたよ!」


 辺りで魔石を集めていたミーファがシランに向かって叫んだ。同じく魔石を集めていたシランがその声を聞いてレドの元に駆け寄った。


「レド、大丈夫だったか?」


「おっ、シラン、ミーファ、おはよう。大丈夫って何が?」


「アホレド! 何がじゃないよ。いつまで経っても戻ってこないから探しに来たら、この有様じゃん。血溜まりの中でぶっ倒れてるアンタを見つけた時にはさすがに青ざめたわ」


 全然帰ってこないレドが心配になって探し始めたシランとミーファが森の中を駆けずり回ってたどり着いたのが、一面が血の海になっていたこの場所だった。


「もしかしたら襲撃されたのかと思って探してたら、血の海に沈んでてびっくりしたぞ――ヘックション!」


「ホントだよ。死んでるのかと思って確かめたらイビキかいて寝てるし。起こしても全然起きないし」


 そして待っている間に二人が周囲を調べた結果、襲撃されたのではなくスライム狙いで集まった魔物をレドが倒したのではないかという結論に達したと伝えるとレドがウンウンと頷いた。


「いやもう、凄いのなんのって! 地面からはドリモグが何百匹も出てくるわ、空にはオオカラスの大群が何百匹も飛んでるわで超焦ったのなんのって」


 身振り手振りでレドがその時の状況を一生懸命説明する。


「もうダメかもと思ったらこう、髪の毛がブワッてなって、それがクルクルーってなって、鞭になったり網になったりしたんだよ」


「いまいち要領を得ないんだが、たしかにこれだけの状況を見れば相当な数の魔物を倒したって事だけは分かる。ほら、クズ魔石だけどこんなに集まっ、あつ、あっ、アックション!」


 レドが寝ている間に二人が集めた魔石が袋の中に結構な量貯まっていた。


「おおー! てかちょっと頂戴。腹減って死にそう。無性に魔石を食べたいんだけど」と言うや否やレドが袋に手を突っ込んで魔石を鷲掴みした。それを口に頬張るとバリボリと噛み砕く。


「レドが必死こいて倒したやつだからいくら食べても構わないけど、急いで食べて喉に詰まらせないでよね」


「もっと食べてもいいの? じゃあ遠慮なく頂きます!」


 シランの手から袋を奪うと再び鷲掴みで魔石を口に放り込んだ。呆れたシランが空を見上げると、いつの間にか日が傾きかけていた。


「とりあえず暗くなる前に戻るか。ここはすぐ暗くなり――ヘックション!」


「これどーするん?」ミーファが真っ赤な惨劇エリアを指差して聞く。


「さすがに三人でどうこうできるもんじゃないから放置で。畑からも離れてるし。そのうち自然に還るだろ。あと、ここにいるとくしゃみが止まらないからさっさと離れたい」鼻をすすりながらシランが答えると、じゃあ戻ろうかと三人はそそくさとこの場を後にした。


 道中、ミーファから魔石を集めるのと一緒にドリモグの鼻も拾っておいたよと言われたレドは、それが原因で崩れかけたので当分見たくないと渋そうな顔をした。

 一体どんな原因なんだと聞かれたが、まぁ色々さ……と言葉を濁したレド。金に目が眩んだのは内緒である。

 

 野営に戻ってくると、レドを探していたせいで昼間の予定が全くできていないことを思い出した。取りこぼしの確認はどうしようとミーファが心配していると、


「こっちは勘弁してくれってわけにはいかないから、晩飯の後にぐるっと一周してこようぜ。レドはどうする? 動けるか?」とシランがレドの身体を慮る。


「俺はぐっすり寝たから全然余裕よ。徹夜でもいけるぜ」


「じゃあ元気いっぱいのレドが一人で見回るってことでいいのでは?」


「いやいや、そこはほら、みんなで一緒に回りましょうよ。ミーファさん」


「えー、仕方ないなぁ。じゃあ、さっさと鳥の丸焼き食べて済ませちゃおう」



 結局その夜は襲撃の可能性も考慮して、三人で明け方まで夜通し畑の中を移動していた。




 ◇◇◇◇




 四日目。



 襲撃もなく平穏無事にこの日を迎えたということでハッキリした事がある。そうシランが切り出した。

 それは《オーラ》が選ばれた理由だった。


「俺達が指名された理由だが、恨みの線は消えたと思っていいだろう。そうなると理由はひとつしかない――そう、貧乏神のミーファだ」


「はいはい、ただいまご紹介に預かりました貧乏神のミーファです――とでも言うと思ったか! てか仮にそうだとしても、こんなおいしい仕事にありつけたのなら貧乏神様様じゃない? 感謝し崇めたまえよ」


「ははーっ! 貧乏神さまさま~」 膝をついてレドとシランが拝む。


「うむ、良き良き。さて、そろそろ村の広場にでも向かうとするかのぉ」


 水分を抜いたとはいえ、大量にスライムを積んでずっしりと重くなった荷車を引き、三人は村の広場へと向かった。

 

 広場には既に《マウンテン》、商会組、村長やチャールズとみんな集まっていて、《オーラ》が最後の到着だった。シランがアマカに手をあげると、アマカも手をあげて返事をする。

 《マウンテン》の荷車を見ると、荷台には溢れ出しそうな程にスライムが山積みになっていた。それに比べ商会組と《オーラ》の荷台は半分くらいの高さしかない。


「ねぇ、シラン。《マウンテン》の獣の片方がドヤ顔してるけど……」


「放っとけ。こっちは商会組の荷車を見て、砂糖の使い方が正しかったと確信できたよ」商会組の荷車を見ていたシランに気付いたゴンザが親指を立てて頷いた。


「では皆さん、注目してくださーい」チャールズの声にみんなが一斉に振り向くと、村長がニコニコ顔で立っていた。


「みんな、三日間ご苦労じゃったのぉ。これだけスライムが集まれば十分な量の灰が作れそうじゃ。村を代表して感謝、感謝じゃ」


 村長は深々と頭を垂れて感謝の意を表すと、チャールズが「いやいや村長。お互い様ですから頭をあげて下さい。灰作りはこれからが大変なんですから。我々はちょっとお手伝いをしただけですからお気になさらずに」と口を挟んだ。


「ほら、じゃあ、皆さん。灰作りの邪魔になりますから、そろそろ帰り支度に取り掛かってください。ささっ」チャールズが急かすように手を振ると商会組がヘイヘイと動き出した。《マウンテン》と《オーラ》の六人はいいのかな? と顔を見合わせながら商会組の後を追う。


 帰りの馬車までやって来ると、ゴンザが話しかけてきた。


「あのじーさん、話始めると長いんだよ。だからチャーさん、さっさと切り上げたんだろ」


「と言う事は今回が初めてってわけじゃないんですね」アマカの問いにゴンザが答える。


「ああ。俺はこの村、三回目かな。ところで《オーラ》は砂糖の件、よく知ってたな。滅多に使わない手だけど軽くなるし、次の乾燥工程も早められるしな」


「いやいや、全然大したことないですよ」と、レドが謙遜した。瞬きよりも早く「お前の手柄じゃねーだろ」とミーファの貫手がレドの急所に刺さる。


 足元で悶絶するレドを無視して《マウンテン》のチックが震える声で聞く。


「さ、砂糖の件って何ですか?」


「他の食材と比べて極端に砂糖の量が多かったろ? あれはスライムの脱水用の砂糖だったんだよ。うちらと《オーラ》の荷車見たろ? 嵩も重さもずっと減るんだよ」


「そ、そうだったんですね。うちの駆除した数が多かったわけじゃなかったんですね……」ショックを受けたチックの声が消え入るように小さくなっていった。まるで試験に落ちたかのような真っ青な顔色になっている。


「それより魔物はどうだった? 俺等のところは二日目だけオオカラスが飛び回ってたけど、一日目と三日目は全然いなくてさ。何か不思議だろ?」


 ゴンザの質問にミーファとシランが目配せをした。

 昨晩、畑を回っている時に、レドが魔物を倒した事は黙っておこうと決めたのだ。理由はレドの能力を伏せておく為である。


「それは――ぐぅおっふっ!」再びミーファの貫手がレドの急所を捕らえた。


「それはこっちも一緒でしたよ。たしかに不思議でしたね」シランが答える。


「さっきから彼は一体何を……大丈夫か?」


「これが通常営業ですからお気になさらずに……オホホホホ」レドの関節を極めながらミーファがほほ笑んだ。



 この後他愛も無い世間話をしつつ馬車に荷物を運び終え、出発まで各々好きなように時間を潰していると、果樹畑の方から村の青年が必死に走ってくるのが見えた。


「そんちょぉぉ!」


 青年は広場でチャールズと話していた村長の元に駆け寄ると、息も絶え絶えに何かを報告した。一緒に報告を聞いていたチャールズの表情がみるみる消えていく。

 青年の報告が終わると、無表情のままチャールズが馬車までやって来て「《オーラ》の皆さんはちょっと来てください」と別人のような低い声で三人を呼びつけた。


 村長の前まで連行されるとチャールズが口を開く。



「あなた達、モモモモの実食べましたか?」



「「「えっ」」」三人の声が裏返った。



「食べましたかと聞いているんです」無表情のチャールズが凄んだ。


「ちょっと待って。た、たしかに食べたけど――食べたけど、捨てられていたのを拾って食べただけだよ」とレドが答えた。


「食べちゃいましたかぁ……不味いですよ」チャールズが目頭を強く抑える。


「いや、美味しかったよ?」


「味じゃなくて、状況がですよ」


「でも納屋の裏に捨てられていたし……。それに腐りかけてたし……」どんどんレドの声が小さくなっていく。


 チャールズが大きなため息を吐いた。


「いいですか? あれは捨てられていたのではなく、発芽させる為に腐らせていたのです。モモモモの苗木はそうしないと育たないのです」


 マジかぁと天を仰ぎながらシランが呟く。


「ねぇ、シラン。アタシ、嫌な予感しかしないんだけど……」ミーファの身体が小刻みに震えている。


「村長からは穏便に済ませて欲しいと頼まれましたので、今回はこちらで損害額を立て替えておきますが、《オーラ》の皆さんには当商会に借金をして頂きますよ」


「しゃ、借金……?」


 どこから声を出しているのか分からない程、か細く震えた事でレドが聞き返した。チャールズが空で指をパチパチと弾いて計算をする。



「今回の報酬を差し引いて……借金は五万ネリーになります。分割でも構いませんよ」


「ぬおおおおぉぉぉっ!!」


 どこから声を出しているか分からない程の野太い声でミーファが咆哮した。

 


「ばぁぁあぁかぁあぁレェドォォオォ!! やってくれたなぁ! プラス五万がマイナス五万だと!? 意味分かんねーよ! 貧乏神はアタシじゃなくてお前だったか!」



 ミーファは被っていたお面を思い切り地面に叩きつけて爆発した。

 髪をワシャワシャと搔き乱すと、レドに向かって飛び蹴りを放った。レドが美しい放物線を描いで派手に吹っ飛ぶ。


「痛ってぇぇぇ! ミーファだって美味しい美味しいって食べてたじゃん!」


「知らんがな!! 今日からお前が貧乏神だからな! アホバカ貧乏神レドだ!」


「せめて、せめてアホかバカどっちかで」


「じゃあ、クソバカ貧乏神レドだ!」


「余計ヒドくなってなる!」


 逃げるレドを鬼の形相でミーファが追いかけまわす。




 二人の激しい追いかけっこをよそに、シランがチャールズに伝えた。


「……すいません。分割でお願いします」


「分かりました。あ、それとこれ、うちの商会主催の福引き券ですけど。あまりにもあれなんで、もし良ければプレゼントしますよ……」


「お心遣い痛み入ります。そうだ、レシピの買い取りってしてもらえますか?」


「ええ。美味しければ借金から引いておきますよ」


「助かります」






「なんでうちらは毎回こーなのよぉぉ! ちゃんとお祓い行っときゃ良かった! 貧乏なんてどぅわっいきらぁぁっいだあぁぁ!! ムキーーッ!」



 このプラマイ五万ネリー事件も、あっという間に巷に広がって笑いのネタにされたのは言うまでもない。





なかなかうまく行きませんね

続く時は続くものです……


これで第3話はおしまいです

次、閑話が1話あって、そこでストック切れです

がんばります

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