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第1話 聖女物語 その2


「おっ、どうした? 三人揃ってシケた顔して」



 聞き覚えのある声にレド、ミーファ、シランの三人は顔をあげた。


「あ、ねーさん」


 ミーファが笑顔で返事をした相手は、年齢不詳のベテラン女性冒険者アモーラだった。


 細かな傷が無数に付いた金属製の胸当てをカチャカチャと鳴らしながら近づいてきた彼女は、テーブルの上に散乱した用紙に一瞥をしてから近くの椅子を片手で引き寄せて豪快に腰掛けた。


「発注書ずい分と引っ剥がしてきたね。それで割りのいい仕事はあったかい? いや、その顔じゃ無さそうだね」


 シランが大きく溜息を吐き出してから答えた。


「ですね。どれも似たり寄ったりと言うか、問題は仕事の内容では無く経費の方なんで。どのクエストも途中で資金がショートしそうで」


「何でそんなギリギリになるまで……」


「ねーさん、聞いてくださいよ! このレドのアホが大事な魔石食べちゃったんですよ。そのせいで魔石の買取分が消えちゃって、そこへ下宿代やら諸々の支払いが重なってスッテンテンに」

 

「へっ?」予想しなかった原因にアモーラから変な声が出た。


「魔石を食べた?」


「うっす」


「間違って飲み込んじゃったとかじゃなくて?」


「うっす」


「比喩とか、隠語とかじゃなくて?」


「うっす、ペロリと頂きました」


「魔石って食べられたのか……知らなかった」


「いやいやいやいや、食べられないですよ。アホレドだけです。ガキの頃からクズ魔石見つけちゃあ食ってんですよ。もう異常です」


 褒められていないのに何故か自慢気な表情を浮かべるレドの顔を、反省しろよと鷲掴みするミーファを横目に、シランが話を続けた。


「前金のあるクエストは二種以上がほとんどなんで、三種の俺達には受けられないんですよ。かと言って無種のクエストに手を出すと評判に響くし。どうしたものかと」


「ふむ、なるほど……」アモーラは腕を組んで何か考えているようだった。



 冒険者のランクは大まかに上から第一種、準一種、第二種、第三種、無種と分かれていた。厳密にはもう少し細かく分類されるが、レド達は第三種冒険者、アモーラは準一種冒険者にあたる。

 無種は一番下のランクで、主に新人冒険者を指していた。街の手伝いや薬草採取、弱い魔物の討伐等、難易度の低いクエストしか受けられない。誰もが通る道ではあるが冒険者界隈では別名種無しと馬鹿にされており、新人は早く第三種に上がりたくて必死で仕事をこなしていた。

 ゆえに上位の冒険者が格下の仕事を奪うようなマネをするとすぐに悪い評判が広がるので、ランク下のクエストは受けたがらなかった。

 

 そして魔石とは魔物の体内から取れる特殊な石の事で、大きさや色彩によってグレード分けがされている。

 

 魔石は国の重要な資源として法律で厳しく取り扱いが定められており、全ての魔石はギルドが窓口となって買い取りが行われている。使い道がほぼ無いクズ魔石でも、冒険者の生活の安定を目的として買い取ってもらえていた。

 買い取られた魔石は一か所に集められ、国の工房で様々な魔道具や魔導具に作り変えられ、多くの人の役に立っている。



「ところでねーさんは今日はもう仕事上がり?」


 レドの頬をギュウっとつねっているミーファが考え込むアモーラに聞いた。


「ああ。さっきまでギルドマスターのところでちょっとね。指名依頼の件で調整に手間取ってるらしくて」


「うわー! 指名依頼とかマジですごいわ。やっぱり報酬って段違いなの?」


「まぁね。今回の依頼はちょっとした護衛だから段違いって程ではないけど。それでもまぁ水準よりは全然上かな。狩猟大会の護衛とかだと狩りのフォローまでするから大会結果が良ければ相当もらえるよ」


「俺らも貴族に贔屓されるくらいにならないと、目標なんて夢のまた夢だな……イテテ」 


 ミーファの指を引きはがしたレドがジンジンする頬を擦った。


「アンタ達って確かギルドマスターの資格取得が目的だっけ?」


「そうそう。故郷の村にギルドをおっ建てるのが俺らの目標だから、ギルマスの資格が必要なんだよね」


「ギルドを設立できれば、冒険者や業者の出入りが増えて村も活気づきますから」


「そしたら村のみんなも喜ぶよね!」


 レドとミーファとシランが育ったオーラ村は、行商人か道に迷った者しか訪れない寂れた村だった。その行商人も半年に一度しか来ない。

 そんな村を盛り上げるには冒険者ギルドを設立するしかないと思い立った三人は、全員が十八歳になった日に冒険者になるべく王都アクレイドを目指して村を出た。


 ギルドマスターになるには方法が二つあった。

 ひとつは公務員となって国に仕え、偉くなること。ギルドマスターは熾烈な出世争いを勝ち抜いた者だけがなれる、花形の役職のひとつである。

 もうひとつは冒険者として実績をあげ、条件をクリアして資格を得ること。

 どちらにしても難易度は非常に高いのだが、前者の場合はギルド庁が管理する『直轄ギルド』への就任になる為、ギルドの設立は出来ない。

 レド達が目指すのは『設立ギルド』が可能な後者の方である。

 

 設立ギルドであればどんな辺鄙な村にでもギルドを作ることができた。ギルドができれば依頼人、冒険者やその冒険者を相手に商売をする者も集まる。形態は半官半民になるので国からの補助金も出るし、雇用も生まれる。公共の馬車駅も設営されるので交通の便も格段に良くなる。

 実現すればこれほど村興しに適したものはなかった。



「……よし、分かった」


 そう言うとアモーラは懐から一枚の用紙を取り出した。


「これギルマスの机の上に置いてあったやつだ。こっそり持ってきたんだが、これをお前たちに譲るよ。これは貸しな。後でしっかり返してもらうからね」


「どんなクエストなんですか?」


 シランの問いにアモーラはニヤリと口角を上げた。




「聖女のお守りだよ」


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