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第2話 来臨祭 その1


 ラロール地方の南部は沿岸地域で魚介類を使った料理が多く、観光地としても人気があった。

 しぐれ亭はそんな南ラロール地方の料理とよく冷えたビールを出す人気の酒場だ。

 開店してすぐ満席になる盛況っぷりで、今日も店内には賑やかな声が飛び交っている。

 

 レド達三人と私服のアモーラは奥のテーブルで飲んでいた。

 アモーラの脇には赤い大きなリボンを付けた女の子が行儀よく座っている。


「ホント、ごめんごめん。ここ数年指名依頼しか受けてなかったから、クエスト板のレギュレーションがすっかり忘れてたわ」


「はーい、おまちどうさま」アモーラが平謝りしているところへ店員がビールがなみなみと注がれたジョッキを運んできた。


「今日はお詫びだから、好きなだけ飲んでって」


「あざーす! ゴチになります」


 レドはジョッキを掴むと一気に喉へ流し込んだ。


「ぷはーっ。この一杯の為に生きてるまで――あっ、かんぱーい!」


 先走ったレドが音頭を取るとみんなも飲み始めた。テーブルにはあっという間に乗せきれないほどの料理が運ばれてきたが、レドが片っ端から料理を片付けて皿を重ねていく。

 結局、先日の一件はアモーラがギルマスに掛け合って事なきを得た。ギルマスが聖女と書かれた依頼内容を覚えていたようで、すんなりと報酬を貰うことができたのだ。


「マジでミーファのガチ切れは大変でしたよ。周りがみんな引いてましたから」


「やめて、言わないで」黒地の布でほっかむりをしているミーファがキョロキョロして周りを警戒している。


「それと今は名前ダメ絶対。とりあえずミソラって呼んで」


「自意識過剰だな。誰もミー――ソラの事なんて気にしてないって。顔が売れてるわけじゃないんだし」


「貧乏神なんて二つ名ありえないでしょ。しかも酔っ払いを引きずる時もミファるとか言われてんのよ。ないわー、マジでないわー」


 ミソラと名乗るミーファもグビグビとビールをあおった。


「おかわり! 飲まなきゃやってらんないわ」


「ホント悪かったって……ププッ」


「ねーさん、笑いごとじゃないですからね。外出る時はこうやって顔隠してるんですから」


「かえって目立つんじゃねーの? あー、なんかあれだ。ほら、ゴミを漁ってる人みたいだな」


「テメー、アホレドぶっころ――っと失礼。お姉ちゃん全然怖くないからねぇ。お嬢ちゃんお名前は?」


 ミーファはアモーラの横で目をパチクリさせている女の子ににっこり微笑んだ。


「……リタ」


「リタちゃんはいくつ?」


「七歳」


 両手を前に突き出して指を折ってアピールをした。


「じゃあ今度の来臨祭に参加するんだ」


「うん!」リタは満面の笑みで答える。


「そうなんだよ。そこでちょっと頼みがあるんだけど」と、アモーラがジョッキをテーブルに置いて話を切り出した。


「実はこの前の話に出ていた指名依頼ってのが、お貴族様の孫の護衛なんだよ。来臨祭の。だからリタに付き添ってやれないんだ」


「なぜ近場の教会へ行くのに護衛がいるんだ? 貴族が住んでるような街ならギルス教会くらいあるでしょ?」


「いや、地元の教会じゃなくて、旧グランシアにあるギルス教の聖地まで行くんだよ」不思議がるレドにアモーラが小声で答えた。


「うわ、さすが貴族。わざわざ聖地の方まで行くんだ。気合入っグフッ」


 声が大きいのよとミーファの肘鉄がレドの脇腹に刺さる。


「そんなわけでリタの来臨祭の付き添いをよろしくな」


「えーっ。すぐそこの教会でしょ? 付き添いの必要なんて――」


「もちろん駄賃ははずむよ」


「何なりとお申し付けください」レドが恭しく頭を下げた。


「リタちゃん。これがロクでもない大人の見本だからね」


「えー、でも、レドおじちゃん大きい人だよ?」


「どうも、器の大きい男レドです」レドが恭しく頭を下げた。


「ふぅ、やれやれ。これだからアホは」ミーファが大袈裟な身振りで後頭部を掻きながら、最近流行りの小説の主人公のセリフを口にする。


「あー、俺は来臨祭はちょっと……。すまないがレドとミ――ソラで頼むよ」


 申し訳なさそうに謝るシランに、レドとミーファは気にするなとビールを一気に飲み干して店員におかわりを注文した。

 瞬く間になみなみのジョッキを抱えて店員が現れて、ジョッキと入れ違いに空いた皿を下げていった。


「ねーさん。シランは宗教上の理由でパスっつーことで。リタちゃんの件は俺とミファソラシでバッチリやらせていただきやす」


「分かった。じゃあよろしく頼むな。リタも当日はこのお姉ちゃんとおじちゃんの言う事をよく聞くんだよ」


「はーい」

 

 びしっと手を挙げて元気良く返事をするリタがかわいいとデレるミーファと、おじちゃん呼びに若干の不満があるレド。


「いいかいリタ。お兄ちゃんね、このお姉ちゃんと同い歳なのね。そこ非常に大事な所なんだけどオーケー?」


「おい、大きい器はどこ行った?」シランがツッコむと、


「さっき店員にゴミと一緒に片づけられた」と、ドヤ顔でレドが答える。どうやら上手い事を言ったつもりなのだろう。


「ゴミって言えば、さっきゴミ漁りで思い出したんだけど。ほら頑固じいさんっていたよな」シランが嬉しそうに口を開いた。


「あー、いたいた! そうそう、ゴミだったね」

 

 ミーファも何かを思い出したようで、うんうんと大きく頷いた。

 

「頑固じいさん? ゴミ?」アモーラがツマミを頬張りながら首を傾げる。


「俺らの村はど田舎だから教会もなくて、年に一回来てくれる司祭がスキルを見てくれるんだけどいい加減でさ。面倒臭がってシランとミー……ソラはハーフだから見なくていいだろって。んで、勇者の話も村の誰かにしてもらえって」


 そりゃひどいなとアモーラはビールでツマミを胃の中に流し込んだ。


「それから少しして裏の森の一角にゴミが散乱してるのが見つかって。それを見つけた頑固じいさんがアタシ達の仕業だと決めつけちゃって。完全に濡れ衣だったんだけど、強制的に掃除させられたんですよ」


「でもそのゴミの中に勇者伝説の絵本も埋もれてたんです。三人であーだこーだとしばらく楽しんで読んでしたよ。まぁ、当時字はロクに読めませんでしたけど。今思えばあのゴミ掃除が俺らの来臨祭でした」


「あの頃はもうおばぁちゃんもいなくて、俺ら三人で暮らしてたよな。村の人がちょいちょい面倒見てくれてたけど」


 そう言えばあの絵本どうしたっけ? と三人が酒場の天井を見上げて思い出していると、ふとアモーラのビールを飲む手を止まった。


「もしかしてその絵本ってわざと――」と言いかけたが、楽しそうに思い出に耽る三人の顔を見て言うのを止めた。


「ん? ねーさん、何か言った?」


「何でもないよ。お前たち仲良いな思っただけさ。なぁ、リタ」ジョッキを持っていない方の手でリタの身体を引き寄せてギュッと笑顔で抱きしめる。


「うん!」


「お前らまだ全然酔ってないだろ。どんどん飲め飲め」


「「「あざーす! いただきます」」」



 宴会はリタが眠気に耐え切れず寝てしまったところでお開きになった。

 リタを背中に背負って帰るアモーラを見送ってから、足元の覚束ない上機嫌の三人はフラフラと常宿へと帰るのだった。








「おいアホレド! そこで立ちションすんなって!」







「シラン! まだ部屋じゃないから脱いじゃダメ! 尻のハートマークの痣が見えてるよ!」







「このバカたれどもー!」


お読みいただきありがとうございます

第2話です

立ちションも脱衣も気をつけましょう

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