第28話 親の心、子興味なし。
前回のあらすじ!
絶体絶命だと思い絶望していた、特人とナノハ!
しかし、二人の耳にブルーの声が届く__
西暦2324年
和田組アジトにて...
「なぁボス。オレの親父は、どういう人デシタ?」
......絶望していた俺の耳に、聞き覚えのある声が届いた。俺には、その声が目の前に垂らされた一本の蜘蛛の糸のようにも思えた。
そう、その声の主は、ブルーだった。
唐突にブルーから質問をされた組長は、暫く黙ってから重々しく口を開けた。
「どうしたブルー?こんな時に。今はこのネズミ共を__」
「答えてくださいボス。ボスが殺したオレの親父は、どんな人間でしたカ?」
組長はブルーのその並々ならぬ態度を前に、一瞬、彼のことを警戒するような表情をした。しかし、それを悟られる前に、ブルーに対して向き直って笑顔で話し始める。
「......昔にも話したと思うが、お前が父親と呼ぶ男は、血の繋がりがないんだぞ?お前は純地球人だが、あの男は宇宙人との混血だった。しかもあの男ときたらウチの組から多額の借金をして、オカルトに没頭していた。本当にどうしよもない男だったよ。そんな男に拾われたお前が可哀想でなぁ、俺はお前をあの男から取り上げた。...まぁ、その時にあの男が抵抗したから、殺さざるを得なかったんだがな。...だからあんな男のことは忘れるんだ!俺がお前をここまで育ててやったんじゃないか!俺のことを本当の親父だと思っていいんだぞ?ん?」
組長は、慣れた口調で淡々とブルーの父親の話を言い聞かせた。そして付け加えるように、自分を父親だと思っていいなんて言葉も吐いていた。
...しかし、その話を聞いてもブルーは表情一つ変えず、少し俯いたまま口を開けた。
「確かに、オレと親父は血が繋がっていなかっタ。そして実際、親父はこの和田組から借金をしてイタ。...だが、あの人が没頭していたのはオカルトなんかじゃナイ。あの人は、『研究』をしてたんだ」
透明の壁越しの俺ですら感じ取れる緊張感が、この大部屋に沈殿している。
そして当然、その緊張感は組長が一番感じ取っているハズで、彼はブルーの言動に少しずつ焦りと苛立ちを蓄積させている様子だった。
一方のブルーは、そんな組長の様子もお構いなしに、綽々と話を進める。
「親父は根っからの研究者だっタ。だから闇金にまで手を出して研究を続けていたンダ。....バカな人だと思うが、それでもオレは親父の研究している姿が好きだっタ。アンタはさっき親父の事をどうしようもない男だと言ったが、それは間違いダ。あの人は研究に熱心で、優しくて、そして何より...オレを大切にしてくれてイタ」
ブルーの話は続いていたが、ここで組長が感情を抑えられないように、苛立ったような言葉を漏らした。組長の目はサングラス越しでも分かるほど威圧的に、ブルーの事を睨みつけている。
「...おいブルー。テメェ今、俺のことをアンタって言ったのか?組の親である、この俺に向かって...!」
ブルーは組長の怒りを一身に受けたが、今の彼を止めるにはやや力強さに欠けている。
ブルーは俯いていた顔を上げ、少し口角を上げて話始める。
その眼はまるで、捕食する獲物を見定めている肉食獣かのようであった。
「アンタはこの組の親だ。そしてオレにも、「自分の事を親父だと思え」なんてことを言っタ。...自然界では、子が親を喰う事もあるとも知らずにナ」
組長は、自分の身に迫っている脅威を感じ取ったらしく、動揺を隠さないままみっともなく喚いた。
「お、おいブルー!!お前、今になって組を、...俺を裏切る気か!?この、親同然の俺を!!」
「親なら、当然子の為にその身を捧げる覚悟が有るんダロウ...?そうだな、...それはまるで___」
この空間に居る皆が、ブルーの一挙手一投足に釘付けになっている。
辺りを囲むように配置されていた下っ端達に動揺が広がり、組長は徐々に恐怖を蓄積させ、俺とナノハは透明な檻の中からブルーの雄姿を息を飲んで見守っている。
彼はそんな空間で、深く息を吸い込んだ。彼の顔には、何か覚悟を決めたような、今まで見た中で一番真剣な表情が浮かんでいた。
「それはまるで、『ムレイワガネグモ』のようニッ!!!」
(来た....!!)
そう、ブルーが動物の名前を叫んだという事は、今から俺達の作戦が始まる合図!
ブルーは俺達を裏切ることなく、自分の役割を全うしたのだ!!
「ヴ......ヴヴォォォォォォッッ!!!!!」
「く、クソっ!ブルーめ!俺を裏切って組を潰す気かっ...!ぜ、全員、麻酔銃をブルーの方に向けるんだぁ!!」
狂犬モードを発動したブルーは、獣のような雄叫びを上げながら、完全にキマッた眼でドシンドシンと歩き始めている。組長はそんな彼に恐れ戦き、後ずさりしながらみっともなく部下に向かって喚きだす。
ブルーの体は標準時の二倍近い身長になり、ただでさえ分厚かった筋肉がさらに数倍分厚くなっている。その影響でシャツは弾け、胸筋、背筋、上腕二頭筋が照明に照らされて黒光りしていた。その姿はまるで、歩く暴力としか形容ができない。まさしく攻撃力カンスト超えに相応しい、恐ろしい肉体だ。
一応補足するが、彼のズボンは都合よく弾け飛ばないので、ブルーの"リトルブルー"が俺達の面前に晒されることは決して無い。
「お、おいナノハ!!アイツ、本当に動物の標準和名を叫ぶだけで特能発動しやがったぞ!!アレは変なキャラ付けじゃなかったんだな!!」
ブルーの特能を目の当たりにした俺は、興奮気味にナノハに語り掛ける。
だが、彼女は俺のように浮かれている様子ではなかった。ナノハは腰を曲げて床に両手を置き、やや顔を引き攣らせながら俺に応対する。
「逆に本当に特能発動しなかったら困るわ!!...っていうか、今はそんな呑気なことを話している場合ではないぞ!!ブルーが戦いの火蓋を切ってくれたんじゃ!ワシらも作戦通りに動く時じゃ!!」
「お、おう!今やろうとしてたとこよっ!」
俺(21)はナノハ(14)に叱責され、今自分がやるべき事を思い出した。
作戦では、ブルーが特能を発動して狂犬モードになった後、ナノハはブルーを麻酔銃から守り、俺は組長をこの檻の中に誘拐するという役割がある。
つまり、俺は組長の後ろに、特能『気づいたらそこに』を使ってワープし、組長をこの檻の中に連れてこなければならない。
俺は大混乱状態になった大部屋の中から、目を凝らして組長を探し出そうとする。
すると...
「は、早く撃てェェ!!お、お前ら全員、自分の持っている麻酔銃で、ブルーを眠らせるんだよォォ!!!」
混乱する大部屋の中に、ただ1人、老人の叫び声がこだましている。
それは紛れもなく、和田組長のものだ。
「よし!組長みっけ!」
奴は裏切ったブルーに向かって麻酔銃を撃つよう、部下たちに命令を下している。
しかし、上の焦りというのは下に伝わるもので、命令を受けた部下達の中には麻酔銃を構えることができなかったり、中にはブルーを恐れて逃げ惑う組員も居た。何人かの組員達は果敢にブルーに向かって麻酔弾を撃ち込もうとしているが、それも結局、
「アイスウォール!!」
「な、何だあの壁は...!!!」
そう。それも結局、ナノハの特能、『アイスウォール』により完全に弾かれてしまうのだ。
「へっへっへ~!ワシのアイスウォールは守備力カンスト!そんな麻酔銃なんぞ、屁でもないのう!!」
ナノハとブルーは完璧に自分の役割を全うしている。...次は俺の番だ。
俺は心の中で、(気づいたらそこに!)と念じ、目線の先の組長めがけて特能を発動する。
案の定、俺は一瞬でその組長の背後に回り込んだ。目の前に照明を反射させるハゲ頭がポコンと出現する。
後はこの組長を気絶でもさせて、元居た安全な檻の中に連れ去るだけ!!
...と、ここで皆さんの頭にはある疑問が浮かぶだろう。
俺の特能、『気づいたらそこに』は、あくまで俺が任意の誰かの背後にワープするという能力。だから俺が組長と一緒に檻の中に戻ることができると思えない。
...だが、俺はここで一つの仮説を立てたのだ。
俺がワープする時、俺は素っ裸でワープをしていない。つまり、俺と接している物体は、俺と一緒にワープが可能だと!!
俺はその仮説を信じ、ここまで来た。
そして、仮説が間違いだった場合、俺は狂犬モードのブルーが暴れ狂うこの部屋の中で、組長を守り切らなくてはいけなくなる。その場合の生存率は、特人ブレインの計算結果によると僅か0.023%。つまり、色違いポケモンに出会うくらいの確率しかない。
という事で、俺はとりあえず目の前の組長が抵抗しないように、一旦気絶させることにする。組長もまさかさっきまで檻の中に居た俺が背後にいるとは思うまい。
俺は右手を振りかざすと、組長に向かってキメゼリフを言い放つ。
「さぁ、お休みの時間だ...。暫く眠っておくんだな、組長...!」
「!?...お、お前、一体どうやって檻から出た...!?」
そして俺は背後から一閃、よく漫画とかで見る首筋にトンッってやつ(手刀)をお見舞いする!
「トンッ」
見事、組長の年老いた首筋に俺のトンッは直撃した。
よし、後はこの気絶したジジイと一緒に檻の中にもどるだけ____
「いって。...え?何?」
「え?...いや、気絶...」
「............」
「............」
(___気絶しないんですけど_____)
続く!!
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