第27話 覚悟してる時に死神は来ない。
前回のあらすじ
ヤクザ潰しの作戦を立てた、ブルー、ナノハ、特人の3人!!
そして、時間は少し進み、特人達は目的のヤクザ組織に侵入したのだが...?
西暦2324年 作戦会議《前話》から三十分後
『和田組』オフィス内にて...
今、俺とナノハは透明の檻のような立方体に閉じ込められ、まるで動物園でのベビーパンダの如く大勢の観衆に囲まれている。...ただ、動物園と決定的に違うのは、周りを囲っている人間が仲睦まじい家族連れなどではなく、戦々恐々としたヤクザの皆さんだという事だ。
およそ40人程と言ったところだろうか。俺達を囲むスーツ姿のヤーさん達は、恐らく遥か未来でも銃刀法違反であろう拳銃を当然の様に所持している。
そして俺達を囲むヤクザ達の中に、一際目立つ人物が二人。
一人は、如何にも悪そうな顔をしたハゲのサングラスをかけたジジイ、正体は『和田組』組長。
そしてもう一人は、この和田組の秘密兵器でもあり、実は裏で俺達と手を組んでいるスパイ、ブルーだ。
組長のジジイとその右腕であるブルーは、下っ端ヤクザ達を整列させたまま、檻の中の俺達を自由に観察している。相手が美女ならまだしも、こんなジジイにジロジロと観察されるのは心底気分が悪い。
一体何故、俺とナノハがこのような状態に置かれているのか?
そう。前話までを読んだ方なら分かるであろう、これが作戦だ。
作戦では、俺とナノハがブルーに捕まった体で、組長の元まで連行されるというのが最初の段階であった。つまり、俺達は順調に作戦を推し進めることができているという訳である。
その時だった。
「コンコンッ!」
真横の壁から聞えた、重さを感じない籠もった畳音が、俺の思考を遮った。
俺とナノハはその音に反応し、反射的に音のした方を振り返る。そこには、透明の壁越しにこちらを眺めるグラサンジジイが居た。
グラサンジジイ、...つまり組長は、俺とナノハを交互に見ると、二ィっと笑って口を開いた。
「お前ら、この状況で言葉も出せないか~?んまぁこの後は、いっぱいお話してもらうからなぁ~?ガッハッハ!!」
ジジイの悪趣味で下品な笑い声は、少し籠った響きで俺達の耳に届く。俺とナノハは固唾を飲み、透明の壁越しに質問を投げかけた。
「この後って、何だよ...?」
「んー?...そりゃあもちろん、『拷問』の事に決まってんだろ~?」
『拷問』
その単語に、俺とナノハは思わず背筋を伸ばす。
...いや、大丈夫だ。俺は今、作戦としてここに来ている。だから拷問される前にどうにかなるはずだ。
と、自分に言い聞かせているが、恐怖という色は一度心に付くと中々落ちない物である。
そして、そんな恐怖色を心に抱えた人間はどうやら俺一人ではなかったらしい。さっきまで後ろに座っていたナノハが俺に近づき、小声で俺に耳打ちをする。
「な、なぁ特人。やっぱりワシら、今この状況を冷静に考えると、相当にヤバいんじゃないか...?」
「や、ヤバいって、な、何が?別に作戦は順調ですけどッ!?」
俺はナノハに煽られた恐怖心を誤魔化すように、組長たちに聞こえない程度に大きな声を出す。しかし、彼女はそんな俺の真意を見抜く様に不安要素を羅列しだした。
「作戦が順調だからこそマズイんじゃ...!ブルーが提案した作戦は、ワシらを餌にする作戦...。つまりワシらは今、ワニの群れの中に放り出された生肉状態じゃ!」
「つまり俺らは、男子ラグビー部の部室に放り出されたエロ本状態ってことか!!」
「......話を戻すぞ。つまりワシらは、ワニ達がその気にさえなればいつでも簡単に食べられてしまう無抵抗な肉という事じゃ!」
「つまり俺らは、男子ラグビー部員がその気になればいつでも使用することができる無抵抗なエロ本ということか!!」
「オイいい加減その例えやめろ」
実際、俺達の命運はブルーに握られていると言っても過言ではない。
ブルーが俺に暴力団潰しの話を持ち掛けてきた時は彼が追い詰められている時だったし、口から出まかせを言った可能性だって十分ある。俺は彼の真っすぐな目と報酬の人妻系エロ本を信じてここまで来たが、今になってその信用が揺らぎ始めている。
(クソ!こんな事なら報酬のエロ本を先払いにしておくべきだった!!)などと内心叫びながら、俺は冷や汗を拭う。
今はただ、ブルーが約束通り作戦を始めてくれることを願う他ない。
ブルーと約束した攻撃作戦開始の合図は、ブルーが動物の名前を叫んで特能『狂犬』を発動した時。だから俺はブルーが動物の名前を叫ぶその時を待った。
焦りと緊張で速くなる鼓動を感じながらも、彼が約束を果たしてくれるその時をただただ祈る。
ナノハも俺の背中で、縋るように目を瞑っている。
(俺は、仇を取ると言っていたアイツの目を信じる!!)
そう心の中で覚悟を決めた、その時。
遂に言葉が聞こえた。
「よし、じゃあコイツ等は檻から出して奥の部屋に連れてけ」
それはブルーの攻撃開始の合図。
......ではなかった。
それは無慈悲に下された組長の命令。内容は、俺達を別室に移動させろというモノであった。
そして俺は理解してしまった。...いや、理解せざるを得なかった。きっと俺達は今から、別室で恐ろしい拷問の数々を受けることになるのだと。
俺は、立ち尽くした。
それと同時に、腹の底から沸き上がる後悔。
ブルーの事なんか信用した俺がバカだった。
きっと親の仇って話も嘘だし、この作戦も全部、俺とナノハを簡単に和田組に連れてくる為に作った偽物だったんだ。
背後のナノハも目を見開き、その大きな瞳は今にも泣きだしそうにウルウルと動いていた。
あぁ、俺はここで死ぬんだ。こんな何も知らない、途方もない未来で。
4Dのエロ本なんてくだらない物に釣られて、恐ろしいヤクザに騙され、苦しんで死んでいくんだ。
さっきの組長の指示を受けた下っ端のヤクザ達は、早速俺達を移動させるために、こちらに歩みを進めている。残された時間も多くない。
俺は眼鏡を取り、涙を堪えるために目頭を押さえた。
(俺は親不孝者だ。大学に行かせてもらったのにロクに単位も取らないで、パチンコ三昧。挙句の果てには300年先の未来で誰にも知られることなく死んでいく。...ごめん、お袋、親父____)
「...なぁボス。オレの親父は、どういう人デシタ?」
「...!!」
......絶望していた俺の耳に、聞き覚えのある声が届いた。その声が俺には、目の前に垂らされた一本の蜘蛛の糸のようにも思えた。
そう、その声の主は、ブルーであった。
続く!!
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