第11話 気絶している人の体は無闇に揺らさないように。
前回のあらすじ!
特課の初仕事として『謎の大男』を追う任務を受けた特人とナノハの二人は、西暦2324年の東京へと初めて足を踏み出した。
しかし、真っ先に特人が足を運んだのは未来のパチンコ屋。どうしても特人のギャンブルを阻止したかったナノハは、店の出入り口に守備力カンストの『アイスウォール』を生成してしまう。
守備力カンストの防壁を前に流石の特人もギャンブルを諦めた、その時。
パチンコ屋の中から、摩訶不思議な雄たけびが聞こえてきて...?
西暦2324年 パチ屋前の路上にて...
「スルメイカッ!!」
俺の真横にある氷の壁の奥、そこで誰かが叫んだ。つまり、パチ屋の中でそんな奇天烈な雄たけびを上げている輩が居るということだ。
「す、スルメイカ...?」
俺はその意味不明な雄たけびに反応して、パチンコ屋の方を振り向く。
すると一瞬、ありえない光景が目の前に広がった。
守備力カンストのアイスウォールに、ヒビが走っているのだ。
そして次の瞬間、俺は更に信じられない光景を見ることになる。
最強の防御力を誇るナノハのアイスウォールがなんと、破壊されたのだ。
直後、俺の視界いっぱいに黒い塊が出現した。
その正体はアイスウォールを吹き飛ばし出てきた、身長2メートル以上はあろうかという大男。大男は上裸であり、黒光りする筋肉を纏って突撃する姿は、まるで戦車のようであった。
「特人!危ない!!」
俺の耳にナノハの声が届いた。
しかし、その時にはもうどうしようもなかった。
突然壁の向こうから出現したその大男の突進を避けることなど到底できず、俺は全身でその突撃を喰らった。
それはもう強烈なんて言葉じゃ言い表せない程の、途轍もない衝撃であった。例えるなら、初めて下の毛が生え始めている事に気がついた、小6のあの夏にも負けない衝撃。
「ブフォッ!!」
俺は飛んだ。その大男に弾かれ、宙を舞ったのだ。
「ボフッ!」
そして直後に背中に伝わったのは、何かの柔らかい感触と空気の抜けるような音。きっと吹き飛ばされた先にあった何かに当たったのだろう。
けれど、今の俺にそれが何かを知る体力はない。俺は地面に転がり、薄れゆく意識の中空を眺めていた。
傍にはナノハが駆け寄り、心配そうな顔で俺の名前を呼び続けている。
「おい特人!しっかりしろ!今居た...がわし達の...だ!だ...ら、......か........り.......特.....」
ナノハが何を言っているのかよくわからない。
空を眺めていると、こんな未来でも青空は拝めるんだということに気が付いた。きっとそれ所ではない状況だが、それくらいしか考えられなかった。
徐々にナノハの声も遠くなり、俺はそこで、意識を失った。
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「___と_!特___!特人!起きろ特人!!」
ん?
女の人が俺の名前を呼んでいる...
また講義中に寝ちゃったか?
けど俺に女の知り合いなんて...
俺はうっすらと目を開けた。
「うお!!」
そこには、息遣いが伝わるほどに顔を近づけたナノハが居た。
「ようやく起きたか!この寝坊助!」
「な、ナノハか。そうだった、俺は未来に来てて、それで謎の大男を探してたんだ...」
「その通り!って、なに寝ぼけてるんじゃ!もうあの大男も消えてしまったぞ!」
俺は寝そべっていた道路から体を起こし、辺りを見渡す。
パチンコ屋の中には砂埃が舞い、店内の様子はよく分からない。
「ナノハ、今は一体どういう状況だ?俺が気絶してる間に何があった?」
「あ、あぁ。特人が吹き飛ばされた後、あの大男はまたパチンコ屋さんの中に戻ったんじゃ。それからずっと中で暴れている様子じゃったが、ついさっき、突然物音がしなくなった。」
(店内に戻った?ナノハのアイスウォールを破壊したのは外に出る為じゃなかったのか?となると、アイツの目的はパチンコ屋を荒らすこと...?)
俺は大男の不可解な行動に疑念を募らせた。そして同時に、もっと重要なことに気が付いた。
「というかナノハ、それってもう大男はここに居ないってことじゃないの?どこかに逃げるとこを見たりしてないのか?」
「いや、わしはずっとこの出入り口の前に居たが、あの男は店に戻った後、ここからは出ておらん。まぁわしのアイスウォールを壊せるくらいだから、どこかの壁をぶち破って逃走はできるかもしれんが。.....っていうか!わし守備力カンストじゃなかったの!?カンストってそれより上が居ないってことだよね!?なんでこんな早々に打ち破られちゃってんの!?」
ナノハは追跡中の大男を見つけたことよりも、最硬だと思っていた自分のアイスウォールが第11話にして打ち破られたことに打ちひしがれていた。
「どーどー、落ち着くんだロリっ娘。俺も昔合コンで、自称『ガードが堅い女』に会ったことがあるが、女たらしで有名な高橋君にかかれば一瞬で陥落だったからね。そんなもんすよ、女の守備力なんて。」
「いやそれとこれとは違うじゃろ!!っていうか誰だ高橋君って!」
ともかく、あの大男がまだ店内に居る可能性が高いことは分かった。となると、今の俺達の最優先事項は店内の捜索になるのか。
俺は上半身をひねり、背中についた汚れをはたいた。
まぁ未来の道路はアスファルトでもない謎の金属のようなものでできているので、そこまで汚れては無かったが。
......ここで俺は、自分の身に対する違和感に気がついた。
「あれ?全然体痛くない......」
そう、俺はあの男に突進されて吹き飛ばされた挙句、更に後ろの何かにぶつかったはずなのだが、ほぼ無傷。
強いて言うなら、あの大男とぶつかった右肩が少し痛むくらいか。
「ああ、特人は吹き飛ばされた後、後ろにあった車にぶつかりそうになったんじゃ。けど、未来の車は凄かったぞ!特人がぶつかる寸前で、空気袋のようなものが出てきて、お主を受け止めたんじゃ!」
なるほど、あの背中に感じた柔らかい感触の正体はそれだったのか。
俺が後ろを振り返ると、そこには俺を受け止めて萎んだであろう空気袋が地面に横たわっていた。
それは自動車のドア部分から出ているようだった。
(未来の車ってエアバッグが外についてるのか。流石だな未来...)
「本当に運がよかったの特人。これも運カンストの恩恵か?」
「こんなとこで運使うんだったら、より一層パチンコ屋行っておくべきだった...」
「お主!まだそんなことを抜かしておるのか!」
ナノハが失神明けである俺の頭をポカポカ叩いて来た。俺の貴重な脳みそに後遺症でも残ったらどうすんだこの中二病は。
......ともかく、俺は奇跡的にほぼ無傷だった体を起こし、立ち上がった。
そしてナノハと共に、未だ砂埃舞い続けるパチンコ屋へと足を運ぶことにしたのであった。
続くッ!!!
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