舌をかりかりとしてみる話。
「本当なのかな…」
いつも通り、二人の部屋でお互いスマホだけを弄ってる時の事。
「んっ」
美羽がなんか変なものでも見たのか、自分の口の中に指を入れる。そのままもぐもぐと、口を動かしていた。
指でも噛んでるのか。
なんで?
いったいどんな経験をしたらスマホを弄る途中に指を咥えるって選択肢が出るのだろう。
そういう癖があるわけでもないのに。
「ついに頭が狂っちゃったの?」
ついつい気になり過ぎて声をかけてしまう。
声をかけられると指を咥えたまま答える。
「ちがうよ」
発音いいねぇ。
「じゃあなんで」
でも流石に指をしゃぶるところを見られたのは恥ずかしかったのか、指を抜いてそっと視線を逸らした。
「特別な感じがするのかなって気になって」
「なるわけなくない?」
何を考えてるのだこいつは。
「でも、舌をかりかりってされたら“特別”な感じがしたって書いてたもん」
「物語と現実は違うもんでしょう」
「やってみないとわからないじゃん!綾のそんな考え方のせいで人々はロマンを忘れてしまうの」
関係あるのかしら。
「はいはい。それで、“特別”な感じはしましたか」
「ぜんぜん」
ふざけてるのか。
「暇だったんだ。何して遊んで欲しいの?」
「え、じゃあ―じゃない!そういうのじゃないもんっ。わたしはロマンを追い求めてるの」
一瞬揺れたくせに。
「そうですか」
「冷たいなぁ!綾は気にならないの?自分の意思とは無関係に、舌をかりかりって掻き回される感覚。感触。その時の気持ちとか」
「なんか気持ち悪いからやだ」
「ロマンを汚いと言わないでっ!」
汚いってまでは言わなかったのに。
「とにかく、ともかく。どうせ綾も暇でしょう?暇過ぎてわたしのことじーっと見てたんでしょう?」
「全然」
「照れなくてもいいの。わたし、全部わかってるもん。綾がわたしをどう思うかも承知の上なの」
「どう思ってるの?」
「それはもちろん。お姉ちゃんかな」
「やっぱり暇なんだね、お姉ちゃん」
「いや、お姉ちゃん呼びはちょっと……」
騒がしいやつだなやっぱり。
「とにかく!やるの、かりかり。綾ももちろん一緒にやるの!どうせ気になって仕方がないでしょう?」
勢いよく私に近づいてきて、ぎゅっと手を握る。さっきまで口の中に入っていたせいでぬるぬるになった指で触れないで欲しい。
「綾はただわたしの口中を好きなだけ描き回せばいいのよ?どう?やってみたくない?わたしの舌、真っ赤だから可愛いでしょう?触りたいでしょう?かりかりしてみたいでしょう?」
「んなわけあるかい」
全く騒がしいやつだ。
「じゃあ綾の口の中をわたしが犯してもいい?」
「言い方やばっ」
「嫌なら綾が犯して」
「やっぱり狂ったんだ」
物騒だな。
「犯すか犯されるかの一択だよ」
「何もしないという選択肢は?」
「なにもしないとわたしに犯されるよ。口の中、めちゃくちゃに掻き回されて、唾が垂れて顎がぬるぬるになるくらいやるの」
「犯すわ」
「やったぁ」
あまりにも真剣な顔だったからやるって言ってしまったけど、これでよかったのか。
ここは無理矢理でも断り続けた方が…
「じゃあ歯磨きしてくるねー。綾もちゃんと手洗ってね?いくら綾でも汚い手で触れてくるのは許さないから。もし汚い手でわたしを犯したら、わたし我慢せず綾のこと犯しまくるから」
「さっきから言葉がやべぇけど」
「ちょっと興奮したからね。わたしってやらしい小説でも興奮できるみたい」
知りたくねーよそんなの。
◇
「手、ちゃんと洗ったよね?」
「洗った洗った」
「わたしも歯磨きちゃんとしたよ。指に傷があっても問題ないはずだよ。たぶん」
多分ってなんだ。
「まぁまぁ。とにかくやろう?」
私の疑問を遮るように、美羽が大袈裟にベッドに寝転んだ。舌を触るんじゃなかったの?
「跨って」
「嫌」
「即答は傷つくけどぉ?」
やっぱり頭が狂ったに違いない。
「小説の中では動けない状態でやられたの!ちゃんと真似しないと同じ気持ちになれな―」
つまり、犯されたいと。
「座れ」
「だから―」
「うるさい」
「いったぁ!?」
つまり、美羽は痛い目にあいたいという事なのだろう。なら友達として叶えてくれなきゃ。
「座って口開けろ」
「え、ちょっと怖っ…」
「違った?」
「うぅん、ぴったりだけど」
「ならさっさとやれ」
「はぅっ……」
なんか嬉しそうじゃない。
気持ち悪い。
気持ち悪いからさっさと終わらせよう。
「ひゃぁ…!??」
美羽が口を開けるよりも先に、ちょっとだけ開かれた口の中に指を突っ込む。
口の中に入るとすぐ、舌に触れた。
暖かくてぬるぬるしてちょっとだけ柔らかい、舌の感触が伝わってくる。
硬い粘土を触ってるみたい。
「んんっ!」
そのままかりかりと。ちょっと強引に舌を引っ掻きてあげた。
こういうの書いた人って、実際こういうのをやってみたのだろうか。それじゃなかったら人は何かに影響を受けた訳じゃなく自力でこの結論に至ったって事で…やった事もない事への気持ちを文字で綴ったって事になるか。
人間の想像力は怖いものだ。
「ぅぅ……ぁ…」
「唾でべたべたになったね」
「やめて…」
相変わらず発音いいな。
「もう終わり?」
「おわりーぃ……」
まだ一分も経ってないのにわ気づけば顎はべたべたに濡れて、顔は泣きそうになっている美羽が見えた。
「ぅー……舌が痛いよぉ…」
「指がぬるぬるになったわ。気持ち悪い」
「酷い!あんなに強くしたら痛くなるじゃん!わたしは痛くしてって一言も言ってないのに」
「はいはい。手洗ってくる」
「むぅー…」
◇
「…綾は、どうだった?」
掻き回された痛みが収まった頃、未だにどこか楽しそうな笑みを浮かべてる綾に恐る恐る聞いてみる。
「暖かった」
「それだけ…?」
「ちょっとは楽しかったかも。あなたの泣き顔とか」
「はぅぅ」
どうしよう。綾が変なのに目が覚めちゃったら。これからは毎日のように口の中を蹂躙されたりするのか……な?
それは、ちょっと…いやかなり嫌かも…
「美羽はどうだったの。“特別”な感じはした?」
「あ」
そういえばそういう理由でやってたっけ。綾のSっ気が強過ぎて忘れてた。
「ん……」
される当時は気持ち悪かったし、痛かったけど、今になって思い返してみると……
わたしって強引に扱われるのが好きなのかな。
「特別までは行かなかったけど…どきどきくらいはしたかな」
「……そ、そうなんだ」
「ちょっとなんで距離を置くの?」
「いやぁ、ちょっと暑くなったからね」
「綾も興奮して来た?」
「同じ扱いしないでちょうだい。してないから」
綾はまだ自覚してないのだろうか。
「ドSのくせに」
「やっぱり頭が狂ってるわ」
「わたしって被虐趣味とかあるのかな」
「もう帰っていい?」
「綾は絶対サディストだよ。わたしを弄る時のあの顔、めっちゃ気持ちよさそうだったもん」
「気持ち悪い事言わないで本当に」




