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龍神英雄譚 靈皇  作者: 八神 アキト
創世の書
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創世の書 第三章・古神の戦い

創始の傷


後に「創始の争い」と呼ばれる大戦において、

創世神龍・烛〈ショク〉と破滅神龍・劾〈ガイ〉は、果てしなき殺戮を繰り広げた。

光と闇が交わり、秩序と混沌が虚空を裂き、

時間そのものが砕け散った。


やがて劾は烛に敗れた。

三つの首を持つその身の一つを噛み千切られ、

深淵へと墜ち、宇宙の果てに封じられた。


しかし烛は、劾が遺した傷を消すことはできなかった。

それこそが――混沌の血であった。


戦いの中で流れたその血は大地を覆い、

山々と海に滲み、世界の根へと沈んだ。

その血は負の力と破壊の意志に満ち、

長き時の果てに、癒えることなき世界の傷となった。


血塊は地の底で蠢き、呼吸し、

大地の脈を吸い、世界の源を喰らった。

やがて、それらは自我を得た。


こうして世界は、新たなる呪いを迎えた。

劾の血から生まれし、歪んだ神々――


彼らは生命でも死でもない。

世界そのものが自らを腐らせた姿である。


その名は後に呼ばれる。


上古の神々(エルダー・ゴッズ)



腐蝕の起源


上古の神々は大地の深淵に生まれた。

彼らは劾の遺志――「破壊こそ救い」を受け継ぎ、

世界を喰らい、秩序を毒とした。


肉塊のような血肉は世界の底核に張り付き、

地の力を吸い尽くし、神州大陸を枯れさせた。

世界の霊脈が反転して喰われた時、

腐蝕は万象の隅々へと広がった。


彼らは負の力に凝り固まり、醜く巨大に増殖し、

ついに言葉と意思を持った――それが「古神の総意志」である。


腐蝕が極限に達した時、

古神たちは手を組み、地底に己らの軍勢――虫族ムシゾクを創り出した。


虫族は古神の細胞を基に造られ、

半ば人、半ば虫、心も理も持たぬ。

生命と秩序を糧とし、原始龍神の造物を滅ぼすために生まれた。


こうして、世界は再び混沌に沈んだ。


三体の最強古神

古神の主・无溯〈ウスウ〉――腐蝕の総意


无溯は劾の断たれた首に残る眼球から生まれた。

それは劾の最も原初的な意識を宿し、

地底深淵で全ての古神と虫族を支配した。


无溯は「腐蝕」そのものを象徴し、

あらゆる存在を混沌へ還すことを望んだ。


彼は無数の虫群を操り、世界の根脈を喰らい続けた。

やがて至高神龍・辉〈キ〉が神龍族〈シンリュウゾク〉を率いて深淵に降り、

永劫の戦いの果てに无溯を焼き尽くした。


だが滅びる直前、无溯は辉の魂を蝕み、

腐化の種を残した。

それは後に辉堕落の原因となる。


災厄の源・永嗔〈エイシン〉――侵蝕と疫の化身


永嗔は劾の喉から生まれた。

その身は絶えず悲鳴を上げ、魂を裂き、理性を狂わせた。


彼は世界の根にウイルスを注ぎ、

地上には毒と変異をもたらす虫群を放った。


命運神龍・煌〈コウ〉は生命を守るために戦い、

慈悲と愛の力で永嗔を浄化し、

聖霊・瑟陀〈セトラ〉へと転じさせた。


瑟陀は争いを嫌い、西方に極楽界を築き、

後に人々は彼を主神として天池国を建てた。


深淵の影・辱浊〈ジュクジョ〉――混沌と惰性の象徴


辱浊は古神の中でも最も異質な存在である。

それは劾の血肉から生まれたものではなく、

宇宙の負エネルギーが凝結して生まれた「闇の源」。


顔もなく、意識もなく、

深淵の最底で永遠の眠りについている。


彼は攻めず、思考せず、

ただ繁殖のみを続ける。


辱浊は巨大な繁殖器官を持ち、

無限に虫卵を産み続け、

古神の軍勢へ終わりなき兵を供給した。


无溯と永嗔が滅びた後も、

辱浊だけが生き残った。

その存在は混沌の根を保ち、

のちに四邪神、そして上古七魔の一柱と数えられる。



古神の僕・虫族


虫族は古神の細胞から造られた。

人に似て獣のように動き、心も感情も持たぬ。


无溯が総意を司り、

永嗔が毒と変異を与え、

辱浊が終わりなき繁殖を担った。


彼らは深淵から溢れ出し、神州大陸を死の影で覆った。

だが无溯滅亡とともに意識は崩壊し、ほぼ全滅した。

僅かに生き残った者たちは辱浊に従い、

やがて魔族の奴隷となり、

堕ちた神・劫〈ゴウ〉に仕えるようになった。



最初の人間・神龍族


古神と虫族の侵蝕に抗うため、

原始龍神たちは新たな生命――神龍族を創造した。


彼らは後の人間と似た姿をしていたが、

その血には龍の力が宿っていた。

戦いの時には半龍の姿へと変じ、

原初の龍息を吐き、すべての穢れを焼き尽くす。


神龍族は人類の祖にして、寿命は七百年を超えた。

黒髪は龍の血脈が最も濃い証とされ、尊崇の象徴となった。


彼らは龍神の子にして、世界の守護者であった。



古神の戦い


古神の戦い――それは神州大陸における最初の世界大戦であった。

上古の神々は虫族を放ち、万物を腐らせた。

龍神たちは神龍族を軍となし、災厄に立ち向かった。


戦火は地上から深淵へと広がり、

三万年にわたって燃え続けた。


辉は神龍族を率いて深淵に降り、

无溯の核心を焼き滅ぼし、

古神の総意を粉砕した。


原始龍神の側は、ついに勝利を手にした――

だが、辉の心はすでに静かに蝕まれていた。


長き戦いのあいだ、

无溯の囁きが魂の奥深くに染み込み、

彼の夢を、思考を、信念を少しずつ崩していった。


勝利の瞬間、

辉の魂は完全に闇に沈んだ。


祂の血脈には、

封印された破滅神龍・劾の残念が流れていた。

祂は力と秩序の化身、

同時に混沌と破滅に最も近い存在。


幾千の守護と犠牲の果てに、

彼の心にはひとつの問いが芽生える。


「秩序がいずれ朽ちるならば、守ることに何の意味がある?」

「もし万物が静止すれば、苦しみもまた消えるのではないか?」


その時、虚空の果てから低い声が響いた。


「辉よ、汝は光の奴隷にあらず。混沌こそが真の自由なり。」


それは古神の囁き、

毒霧のように梦の中へと浸みわたる声。


梦の中で祂は見た。

かつて守った世界が光に呑まれ、

兄・烬の姿が焔に溶け、

妹・煌の涙が灰に変わる光景を。


辉は、痛みと絶望の果てに名を捨てた。

血と怨を契り、新たな存在へと変じる。


上古魔神・劫〈ゴウ〉。


こうして、

三原の一柱であった辉は堕ち、

秩序の守護者は混沌の継承者となった。


劫は劾と古神の意志を受け継ぎ、

神龍族を裏切り、魔族へと変えた。

そして深淵の底に「地獄」を築いた。


それ以後、

世界は創世の光から墜ち、滅びの闇へと沈んでいった。


古神は滅び、魔神は生まれる。

世界の傷は癒えず、ただ形を変えて痛む。

熵〈ショウ〉の輪廻は再び廻り始め、

創造と破壊は、再びひとつに重なった。

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