創世の書 第二章・世界の初め
創世神龍・燭が混沌の兄・劾を退けた時、
光は虚空の果てに帰り、秩序は再び流れ出した。
しかし、その光はもはや純にあらず――
燭の身は劾の黒炎に穿たれ、
その魂は消散の淵にあった。
最後の静寂の中、燭は自らが創った世界の脆弱さを見取り、
ついに自らを種として、三つの永遠なる息へと化した。
吐息、涙、そして血――
三つは天地の命脈を担う三柱の神龍となった。
万物の先祖・三原始神龍
虚空神龍・燼
――燭の吐息より生まれ、精の主となる。
燼は燭の息の間に誕生し、
祂が初めて呼吸した時、群星は連鎖して灯った。
燼は形体と質量エネルギーの根を表す。
祂の鱗は山岳と化し、
祂の息は風と火となり、
祂の鱗の塵は泥土と海の微粒となった。
燼は万象の父にして、世界の構成と伸展を司る。
祂の眼に情はなく、ただ「存在」への渇きがある。
祂は物質を創るが、生命を解さない。
祂が求めるのは、決して崩れぬ形であるからだ。
燼は三原始神龍の首座にして、すべての形体とエネルギーの源。
その誕生は、燭が自らの「息」を宇宙へ授けた徴。
その息は世界を構成する基本要素へと化し、
万物の形と質を凝らした。
燼は万物の精、また「男性原理」の象徴でもある。
祂は万物の形態と法則を定め、
世界の枠組みと力を支配する主宰者。
燼の胸には「万象核」と呼ばれる輝きが脈打つ。
それは宇宙初生の原初エネルギーの残光であり、
後にすべての生命が燃え立つ根でもある。
命運神龍・煌
――燭の涙より生まれ、神の母となる。
煌は燭の涙光の中に生まれた。
一滴の涙が虚空に落ち、無数の魂の源火へと化す。
彼女は慈悲と智慧の化身であり、
燼の世界に「心」と「夢」を与えた。
煌は草木の囁きを聴き、
星辰の嘆息にも触れる。
彼女は運命の糸を織り、無生のものにも方向を与え、
流転する気息を「意識の光」へと凝らす。
煌は衆生の母にして、運命の裁定者でもある。
彼女の胸には悲しみが潜む――
彼女は知っている。自らが命を授けた一切は、
終には彼女の懐へと帰ることを。
煌は三原始神龍において唯一の雌性。
彼女の出現によって、世界は冷ややかな秩序から、温度と感情を得た。
燭が自らの創造を見つめて流した涙は、
万物に生命の「魂」と「心」を授ける煌となった。
煌は万物の神、生命と輪廻を司る。
彼女は運命の糸を紡ぎ、すべての存在に生と帰処を与え、
有情・無情を問わず、その存在に意味を与える。
彼女は一切の生き物を愛し、世界に尽きせぬ慈悲を抱く。
また「女性原理」の象徴でもある。
至高神龍・輝
――燭の血液より生まれ、気の盾となる。
輝は燭の心脈から流れ出で、
力と秩序の流れを体現する。
祂は燼の造りし形を運行させ、
煌の授けし魂を延続させる。
輝は守護の化身にして、最も混沌に近い存在。
祂は光と闇の境を巡り、
創造と破滅の尺度を量る。
だが、輝の血には燭の「世界のための犠牲」の痛みも流れていた。
その記憶は祂の内で怨焔となり、
輝は問う――
何ゆえ秩序を延べねばならぬのか。
何ゆえ一切を静止へ還さぬのか。
かくて輝の心は徐々に暗に染まり、
祂の夢には劾の低い囁きが木霊し始める。
輝は力と守護の化身、三原始神龍の中で最強の存在。
燭の血が虚空に零れるや、光と熱は輝の身を結んだ。
祂は「維持と防御」の責務を負い、
万物の循環と均衡を司る。
輝は万物の気、世界の隅々にまで流れる。
祂は秩序を支え、生命に呼吸を許す。
輝は燼の形を守り、煌の魂を護り、
精・気・神の三者を繋ぎ、共鳴を絶やさない。
しかしその力は同時に「劾」の混沌にも最も近い。
長き歳月のうちに、祂は燼と煌への妬みと痛みから堕し、
ついに魔族の始祖――上古魔神・劫となる。
精・気・神――世界の三原
三原始神龍の存在は、宇宙の三大基石を成す。
燼は精、形を錬り;
輝は気、流れを保ち;
煌は神、心を啓く。
三者は休むことなく循環し、互いに支え合う。
精は気へ、気は神へ、神は再び精へ。
これこそ燭が万物に授けた「永動の法」である。
三者が合一すれば、これ万物の本。
三者が失衡すれば、世界は衰敗に陥る。
燭は「精・気・神」の循環の道を宇宙に刻み、
天地の一切の生命がこれを律動の核心とするよう定めた。
これを後の修行者は「三元帰一」と称し、
また「龍神体系」の根法ともなる――
精は形を生み、気は勢いを運び、神は命を定む。




