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黄昏に還る双龍  作者: 三月 桃
第一章
5/10

魂魄の水鏡

 天を衝く塔の群れのあいだを、黄緑色の飛行車がすべるように進んでいく。

硝子の壁面に反射する陽光がきらめき、車体は風を切りながら都市の空路を縫っていた。

自動運転に任せた座席で、リオネルは肘を窓辺にかけ、どこか余裕のある笑みを浮かべている。

アウロルは隣に座り、流れていく高層街の眺めをただ黙って見つめていた。

 

「君の魂って、グラデーションなんだよね?」


リオネルが何気ない調子で口を開く。

魂にはさまざまな色彩が宿るが、なかでも“グラデーションカラー”と呼ばれるものは、一色が明暗や濃淡に分かれて現れる特殊なものだ。

アウロルの魂もまた、そのひとつ――黄色のグラデーションだった。


「ああ。彩度の高い明るい黄色と、黄土色に近い落ち着いた黄色……その二つだな」


「黄色か~どうりで堅実で、ぶれないわけだよ、君は」


「堅実かどうかなんて、色で決まるものじゃないだろう」


「いーや、僕にはわかっちゃうんだな」


リオネルは楽しげに笑った。


「全く……占い師でもないのに、そんなことがわかるのか?」


「ま、まあ……ただの占い好きだけど」

 

言いながらリオネルは視線を泳がせ、頬を人差し指でかいた。


 いかに技術が進歩しようとも、占いという営みは人の心から消えることなく、今もなお根強い人気を誇っていた。

占いとは、理屈ではなく心を照らす灯火のようなもの。

未来を知るというよりも、不安を抱えた心に道標を与えるための言葉。

時代がどれほど移ろおうとも、人はその灯を求め続けていた。


「占い好きだったのか。珍しいな」


「研究者だからって、科学的なことしか信じないと思ってるのか?!」

 

リオネルはむっとした顔をしてみせる。


確かに、占いを非科学的とみなす者は多い。

アウロル自身も、嗜む程度なら個人の自由だと考えているくらいだし、研究者同士の会話で「占い好き」と口にする者はほとんどいなかった。


「それがさ~、最近、紅茶占いが流行ってて」


「紅茶占い……?」

 

アウロルは小さく首をかしげる。

今はどんな方法でも占えるということか。

カードで未来を読むのを見かけることは多いが……紅茶でも、できなくはないのだろう。


「ちょうど、魂の鑑定をしている神官が紅茶占いもやってくれるらしくてさ~」


――そういうことか。

通りで急に魂魄鑑定所へ行こうなどと誘ってきたわけだ。

どうせリオネルのこと、一人で行くのはちょっと気恥ずかしい、そんな理由だろう。


「なんだよ、いいじゃないか。占いってさ、男一人じゃ行きにくいんだよ……」


リオネルの言葉どおり、占いはやはり女性人気が圧倒的に高い。

だが最近、鑑定所には新任の神官が着任し、大きな話題を呼んでいるという。

優しい面立ちの美丈夫で、色彩感覚に優れ、その鑑定はまるで芸術のよう。

さらに、時間があれば紅茶占いもしてくれるらしく、その的中率は驚くほど高いそうだ。


「占い目的で鑑定所に立ち入っていいものか、疑問だがな」


「そこはほら……魂の研究の一環ということで」

 

リオネルは軽く肩をすくめて笑う。

軽い職権乱用にも聞こえるが、アウロルもあまり深くは突っ込めなかった。

鑑定所になにか手がかりがあるのでは、という期待もあったからだ。


しばらく二人が他愛ない会話を続けていると、眼下に白亜の大建造物が姿を現した。

尖塔は天を突くようにそびえ、ステンドグラスの窓からは柔らかな光が漏れ、周囲の街並みとは一線を画す荘厳さを放っている。

あれこそが中央教会――ソル・アストラ中に名を轟かせる教会の総本部だ。

周囲の広場には噴水がきらめき、石畳を渡る風に聖歌のような音色がかすかに混ざっている。

空中庭園のように整えられた中庭や回廊の曲線が、建物全体に優雅なリズムを与えていた。


 リオネルは飛行車の操作パネルを軽く操作すると、車はゆるやかに旋回し、建物の一角に設けられた鑑定所専用の駐車場へ向かった。


「研究の一環ってことで、ここに停めさせてもらおう」


リオネルの声には茶目っ気が混じる。

周囲の人々の視線を少し気にしながらも、車体は静かに着地した。

アウロルは窓越しに駐車場の整然とした様子を眺め、少しだけ溜息をつく。


「なんだか、騒がれてないか?」


「まあまあまあ」

 

リオネルに軽く促され、自動ドアが静かに開く。アウロルはゆっくりと外へ足を踏み出した。


その途端、少し離れた場所から声が飛んできた。

 

「一体どちら様です~!?」


声の主は女神官らしく、柔らかさのなかに鋭さを秘めた視線を二人に向けている。


「どうも~、オルディナ研究所の者なんですけど~!」

 

リオネルはにこやかに、しかしはきはきとした声で答えると、女神官の方へ軽やかに歩き出した。


アウロルはその後ろ姿を見つめつつ、静かに足を進める。


 駐車場のゲートを抜けると、そこには魂魄鑑定所の荘厳な入り口が広がっていた。

高くそびえるアーチ型の扉は淡い大理石でできており、精緻な彫刻が光を受けて淡く煌めく。両脇には小さな噴水があり、水面に反射する光が柔らかく入り口を照らしていた。

空気には清浄で静謐な気配が漂い、自然と背筋が伸びる。

 

 正面には、ピンクの長髪を揺らしながら立つ女神官がいた。

近づく二人の足音にすぐ気づき、柔らかな微笑みを浮かべて迎えている。

その少し奥には、眼鏡をかけて少し怪訝そうな表情の男神官と、短めの茶髪の女神官の姿が見えた。

後ろの二人からは、あまり歓迎されていない雰囲気が、はっきりと伝わってきた。


「えっと、はじめましてですね? 私はソル・アストラ中央教会、魂魄鑑定所のセリーヌ・ノヴァと申します。貴方がたは……?」


女神官セリーヌ・ノヴァは戸惑いを隠せない様子で、ぎこちなくも自己紹介をした。


「これはこれは……はじめまして。僕はリオネル・クレシウス。そして、こちらは――」

 

「アウロル・イルリアです。突然押しかけてしまってすみません」


「私たちはオルディナ研究所で、魂の剥離現象について研究している者です。もし可能であれば、少しお話を伺いたいのですが」


「そうでしたか……オルディナ研究所の方々でしたか」


セリーヌの背後に控えている二人の神官が、ひそひそと小声で言葉を交わしている。

断片的に耳へ届く内容から察するに、どうやら突然の来訪を快く思ってはいないようだ。


――だが、なぜだろう?

教会は基本的に来る者を拒まないはず。

ここまであからさまに嫌悪感を示される覚えはない。

……まさか、魂魄鑑定所専用の駐車場に車を停めてしまったことが、そんなに不味かったのだろうか。


リオネルに強引に連れてこられたことを、少し後悔しかけたその時――セリーヌが穏やかに声をかけてきた。


「立ち話もなんですし、一度談話室の方へいらしてください」


彼女だけは、終始柔らかく落ち着いた口調で接してくれていた。


 アーチ型の扉をくぐり、談話室へと向かう。

廊下には神話を題材にしたステンドグラスが並び、色鮮やかな光を床へと落としていた。


しばらく歩いたところで、セリーヌが申し訳なさそうに口を開く。


「すみません……最近、新人の子に占いをお願いする方が増えてしまって。それで、周りの者たちもちょっと神経質になっているんです」


聞けば、リオネルが言っていた新人神官のもとへ鑑定を求めて人が押し寄せており、彼女も対応に追われているらしい。


「だから、また新人君にご用事なのかな~って、みんな少し気にしてしまったんです」


どうやら、先ほど後ろにいた茶髪の女神官と眼鏡の男神官のことを指しているのだろう。

だがアウロルは気にする様子もなく、それはリオネルも同じだった。


「いえいえ、お気になさらず。新人さんのお噂は伺っていますよ。なんでも鑑定が素晴らしいとか!」


「ええ……ルシアン君は本当に才能のある子なんです。ただ、ちょっと……」


セリーヌは曇った表情を浮かべ、言葉を濁す。


「どうしたんです? 困ったことでも?」


リオネルが促すと、セリーヌは慌ててこちらを振り向き、ぶんぶんと首を横に振った。


「違うんです! ルシアン君はとてもいい子なんですが……その、華がありすぎるというか……どうしても目立ってしまって。だから、可哀想で……」


言い終えると、彼女はしょんぼりと肩を落とした。


 見た目が美しいというだけで、正当に評価されない者をアウロルも目にしたことがないわけではなかった。

彼自身は容姿のせいで困った経験など皆無だったが、そういう境遇にある者は何人も見てきた。


華やかな外見ゆえに本人ばかりが注目され、肝心の研究には誰も目を向けない――そんな場面を何度も見てきたのである。

そのたびに、アウロルはただ「不憫だな」と思うより他になかった。


「まあ……きっと一時のことですぐに収まりますよ」

 

リオネルが、慰めるように言葉を添える。


「そうですよね。私も……そう思うようにしてるんです。あっ、その……こちらです」


気を取り直すように言って、セリーヌは歩みを進めた。

そしてすぐに、談話室の扉の前へとたどり着いた。


 扉を押し開けると、ふわりと落ち着いた香木の香りが漂った。

部屋の中央には丸い低いテーブルが置かれ、その周囲を取り囲むように深緑のソファが並んでいる。壁には季節ごとの花を描いたタペストリーが掛けられ、窓から射し込む柔らかな光が木の床に淡い模様を描いていた。

厳かな神殿の中にありながら、ここは人々が心を休め、静かに語らい合うための空間として整えられている。


「上の者を呼んで参りますから、どうぞお掛けになってお待ちください」


そう言い残してセリーヌは談話室を出ていった。

リオネルはさっそくソファに腰を下ろし、アウロルも隣に腰を落ち着ける。


「セリーヌさんはナルシュ族のようだね」


「……みたいだな」


ナルシュ族とは、体に薄い鱗を持つヒューマン型の種族である。

外見は人間とほとんど変わらず、鱗も祖先が龍であった名残としてわずかに残っているだけで、意識して見なければ気づかないほどだった。


「教会って、やっぱり人間以外の種族に出会うことが多いよね~」


高度な宇宙文明が到来して発展したソル・アストラでは、むしろ人間だけしかいない場所の方が珍しい。

オルディナ研究所でも、星を越えて集まった研究者たちが肩を並べ、共同で研究に取り組んでいる。

研究の規模が大きくなればなるほど、学会や各星系から協力を得られ、多様な種族が関わってくるのだ。


だがアウロルたちが取り組む「魂の剥離」に関する研究は、まだ未知の領域にある。

学会から正式に認められるには程遠く、今も複数の企業や団体がそれぞれに独自の研究を進めている段階だった。


アウロルの研究は、地球に本社を置く企業が主導しており、レアナもリオネルも純粋な人間だった。


かつてより大規模な研究に参加していた頃には、多種多様な種族が集まり、その会話から数えきれないほどの知識を得られたものだ。

だが今は、そうした活気や広がりに欠け、どこか単調さを感じる。


もっとも――種族が増えれば増えるほど、衝突やいざこざも避けられない。

そう考えると、今の穏やかな環境の方が自分には合っているのかもしれなかった。


「やはり神事ともなれば、他の種族の力を借りずに済ませるわけにはいかないだろう。」


 かつて教会は、地球において権力と結びつきやすい存在だった。

本来は人々に信仰と癒しを与える場であるはずが、金銭をめぐる争いや、信仰にのめり込みすぎた者が精神を病むといった「闇の側面」が目立つようになっていたのである。


その状況に目をつけたのが、地球外の星系文明だった。彼らは地球と協定を結び、過剰な信仰を抑えるよう介入したのだ。

以後、教会に巣食っていた闇は少しずつ取り払われていき、人々は教会を「神々にすがりつくための場」ではなく、「互いに手を取り合い、共に歩むためのコミュニティ」として利用するようになった。


 教会にはいくつかの取り決めがあり、そのひとつとして「一つの教会には五種族以上の異なる星系神官を勤務させること」が義務づけられている。


もちろん、文明によっては宗教を重んじない、あるいはほとんど無縁のものもあるため、主要な顔ぶれはたいてい決まっていた。

例えば、セリーヌの属するナルシュ族は少数民族でありながら、教会では必ずといっていいほど見かける存在である。

彼らは水との親和性が高く、水を操る魔法に長けている。

そして興味深いことに、その術は歌を媒介として発動されるのだ。


さらに、彼らは「自らの祖先は龍であり、人と龍が共に歩んだ神話の時代の末裔」であることを誇りとし、その伝承を語り継ぐ存在でもあった。


教会では毎日、決まった時刻になると各種族の神官たちが自分たちの星で信仰されている神話を語る習わしがある。

幼い頃のアウロルも、よくその物語を聞きに通ったものだった。


 今主流となっている信仰――黄金律と白銀律を根幹とする宗教は「ミルア教」と呼ばれている。

その教えは、ここから気の遠くなるほど離れた場所、リラポスという星で興った文明によって広められたものだった。


リラポスの人々は文明圏から遠く離れているため滅多に姿を見せないが、それでも最古の宗教として知られ、いまなお高い人気を誇っている。

アウロルもまた、地元の教会に一度だけ訪れたミルア教の神官の語りを忘れることができなかった。


その神官は、他の神官たちとは一線を画す存在だった。

繊細な布で仕立てられた衣をまとい、所作ひとつひとつが洗練され、目を奪うほどの美しさを湛えていたのだ。

幼いアウロルの心に、その姿は深く刻み込まれ、強く惹きつけてやまなかった。


「そうそう、これ覚えてる?」


いつの間にか立ち上がり、四季の花が描かれたタペストリーを眺めていたリオネルが言った。


「白銀の姫と番になるため、黄金の王はあらゆる植物を煎じて飲んだ――」


それは、黄金律と白銀律の神話――黄昏神話に登場する一場面だった。

白銀の姫は龍人であったが番がおらず、黄金の王は転生しても彼女と添い遂げたいと願い、龍と番になれる秘薬を錬成するというものである。


「私が聞いた話では、あらゆる草花に加えて、龍の心臓も必要だったって言うぞ」


「ええっ!? なにそれ、心臓って……罰当たりな……」


確かに、罰当たりな話だ。

実際、白銀の姫も黄金の王に番の秘薬について聞かれたとき、作り方を教えるのを何度も拒んでいる。


「僕が聞かされたのは、あらゆる草花を煎じて飲むなんて危険だからやめてね、っていうものだったよ」


どうやらリオネルの話は、幼い子どもが怖がらないように、少しマイルドにされたものらしい。


「このタペストリーを見てたら、思い出しちゃった。そうまでして番になりたいなんて、ロマンチックだよね~」


占い好きなリオネルは、少し女性的な趣味もあるのだろう。

番になるシーンに、彼なりに胸を踊らせているようだった。


そんなことを考えていると――


「なんでっ……わからないの!?」


その声と同時に、脳裏に一瞬の映像が浮かんだ。

それは、白銀律で見た女性――シルフィアの姿だった。

彼女は泣きながら、必死に何かを訴えていた。


「うっ…なんなんだ…?」


ひどい耳鳴りがして、アウロルは目を閉じ、頭を押さえた。


「ん?どうしたの?具合でも悪いの?」


リオネルが心配そうに駆け寄る。


「いや…違うんだ…シルフィアが…」


「え?シルフィア?何のこと?」


リオネルが困惑しながら問いかけたそのとき――


「お待たせいたしました」


そう言って、セリーヌが現れた。

続いて入ってきたのは、エングリ族の上級神官である。

上級神官の服装は作りがやや豪華で、ひと目で身分の高さがわかった。

深い藍色のローブに銀糸で星座が刺繍され、肩や胸元には黄金の装飾が輝いている。

袖口や裾の白銀の縁取りが光を反射し、歩くたびに威厳が漂った。


「いや、申し訳ない。お待たせしております。えーと、リオネル様とアウロル様でしたかな? 私はキルオラ・ドォーリオ。魂魄鑑定所をまとめさせていただいております」


「いえ、こちらこそ突然お邪魔してすみません…あの、申し訳ないのですが、お水をいただけますか? 同僚が少し…調子が悪いようで」


「あら!大丈夫ですか?すぐお持ちしますね!」


そう言ってセリーヌは駆けていった。


「ふむ…教会に来ると、神の力にあてられて酔う人も多いですぞ。さあ、見せてみなさい」


キルオラはそう言うと、アウロルに近づき、目を閉じて祈るように言葉を唱えた。


エングリ族は爬虫類型の種族で、尖ったエラのような耳が特徴だ。

彼らは天候を神として信仰しており、雨乞いなどの祈りの儀式に長けている。


「ふーむ、これは…ツインレイですな」


「はい?」


リオネルがきょとんとして問いかける。

キルオラはふふふっと笑い、目を開けてアウロルから離れた。


「統合の徴候が出ておりますな。最近、前世の記憶が甦ったりはしませんか?」


「前世の記憶…?」


耳鳴りがやんだアウロルは、戸惑いながらキルオラに問いかける。


「おや?違うのですかな? てっきり、何か視えたのかと思いましたぞ」


キルオラは長い髭を撫でながら、ゆったりと口を開いた。


「いいですなあ…私も若い頃は戸惑いましたぞ~」


「いや、待ってください。魂の統合っていうのは、まだ解明されていない現象です」


魂の統合――それは、ツインレイと呼ばれる魂同士が出会ったときに起こる現象のことらしい。

ツインレイとは、前世で結ばれることを約束した、いわば番と呼べる存在だ。

だが、前世でさえ存在が疑わしいのに、さらに前世で結ばれると約束した相手が現世で出会うだなんて――

アウロルには少し信じがたく、理解が追いつかなかった。


「何をおっしゃいますかな! ツインレイと巡り会えるというのは、奇跡に近いのですよ」


「お水をお持ちしました!」


セリーヌが慌てた様子で戻ってきた。


「すみません。ルシアン君が少し大変そうなので、様子を見てきます」


セリーヌはテーブルに三人分の水を置き終えると、慌てて出ていってしまった。


「魂の統合って、ツインレイに出会えたら起こるんですか?」


話を聞いていたリオネルが、興味深そうに問いかける。


「いかにも…例えば、言葉を交わしただけで、以前会ったことがあるような感覚を覚えることもあります」


「じゃあ…シルフィアと会った話は本当ってこと?え、すごいじゃん、アウロル!」


リオネルは急に目を輝かせ、アウロルの肩をつかんでぶんぶん揺さぶった。


「ま、まってくれ…理解が追いつかない…」


アウロルは額に手を当て、考え込む。


「シルフィア…と、いいましたかな?」


 キルオラの顔色が変わり、真剣な面持ちでリオネルを見つめた。


「え…ええ。そうです……」


リオネルはその視線に一瞬息を飲み、答える。


「キルオラさん…私は白銀の姫に会ったのです。彼女はシルフィアと言い、兄のヴァルデミアスという男性にも会いました。二人は何者ですか?何かご存じありませんか?」


ヴァルデミアスの名を口にした瞬間、キルオラは目を見開き、リオネルを見つめた。


「ああ…なんということか…ヴァルデミアス様が生きて…」


キルオラの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。

アウロルとリオネルは思わず顔を見合わせ、驚きを隠せなかった。


「えっと…キルオラさん、大丈夫ですか?」


リオネルが恐る恐る問いかける。


「ええ……すみません、取り乱してしまいました」


キルオラは神官服の袖で涙をぬぐい、はあっと息を吐いてから二人の方へ向き直る。


「会っていただきたいお方がいます。リラポス人のサルファ・ビゴス神官です」


「リラポス人…!」


アウロルは目を見開いた。

あの優雅な民族の神官がいるというのか。

しかも、黄昏神話について何か聞けるかもしれない。


「ぜひお願いします!」


リオネルが前のめりになって答えた。

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