8.入団試験
二人で歩いて三十分くらいで到着した。札幌駅の近くにその場所はあった。高層ビルの二十八階、事務所と書かれたプレートが貼られている。健司が先に入ってその後に知樹が続いた。健司は「おはようございます。連れてきました」と大声で話した。その後に「知樹も挨拶しなよ」というので「おはようございます」と知樹も大声で話した。
「こっちに来て座れよ」
応接間に案内されると知樹と健司は黒塗りの大きいソファーに座った。大柄の男も向かい側に座ると「火草、お茶を出して、アイスコーヒーが良いな。お前らもそれでいいか」二人とも「はい」と答えた。
「俺は岩本だ。そっちの子が知樹君か」
「はい、木下知樹と言います」
何だか礼儀正しい子だなと健司に向かって話すと「昨日、素人と揉めて助けてくれたのが知樹君でいいんだな」健司は「はい、助けてもらいました」と答えた。岩本さんは成程、と言いながら何かを考えている。そこへアイスコーヒーを持った、火草という女の子が「お持ちしました」とアイスコーヒーを並べてくれた。
「今、欲しいのは即戦力なんだよ」と岩本さんは言った。
「軍隊の奴とか組織の奴とかだな、知樹君はまだ素人だろ」
「そう言われるとそうですね」
そこで健司が言った。「岩本さん、こいつは間違いなく化けると思ってます」「少し黙っていろ」そう言いながら岩本さんは話を続けた。
「知樹君、テストを出すからそれで決めるというのはどうだろう」
「テストですか」
「そうテスト、入団試験とでも言っておこうか、それに合格すればバッズに入れる」
知樹はアイスコーヒーを飲みながら色々と考えていた。
「どんな試験なんですか」
「ここにアタッシュケースがある、これを二十四時間、守り切れば知樹君の勝ちだよ」
「勿論、追跡装置も入っているし、装置を妨害してもいけない。どうだ」
「分かりました、それでよければやらせて下さい」
「了解、では知樹君を追うのは火草だ。電子テーザー銃を持たせる。なに、撃たれても死にはしないよ」
火草と呼ばれている女の子の表情が少し険しくなった。
「火草、三十分後に知樹君を追いかけてアタッシュケースを取り返すこと。オーダーだよ」
健司が申し訳なさそうにこちらを見ていた。が、知樹はアタッシュケースを取るとすぐさま事務所を後にした。高層ビルを出て札幌駅まで息を切らしながら猛スピードで走り抜けた。明日の十三時まで何とかするんだ。と思った。函館駅行きのチケットを購入、九千七百円で財布の残りは三千円と少しだ。
知樹の作戦は逃げる事だった。時間が来るまで逃げる。三十分で出来るだけ距離を取れば有利になる。でも、この作戦には穴がある。エアートレインの運航時間が深夜の二時までだった事と、もう手持ちの金が無かった事だ。どこかで乗り物を調達しなければならない。函館行きの特急エアートレインが来ると知樹は急いで乗り込んだ。
函館駅に到着して、知樹は運送会社の住所を調べた。近くには三件の運送会社があった。すぐにその会社の場所へと移動した。エアーバイクが十台くらい並んでいた。鍵がついているエアーバイクを探し、一台だけ鍵の付いたエアーバイクを見つけだした。
知樹は誰も見ていないのを見計らって、エアーバイクに跨ると、静かにそこを離れた。ほんの数分の出来事だった。だが、後ろに赤いエアーバイクの姿を見つけた。 火草だった。
火草は函館までノーブレーキ、信号無視で知樹を追いかけていた。面倒だな、と思いながらカメラを起動させた。岩本さんに実況中継をするためだ。知樹は函館の運送会社にいた。腰に下げている電子テーザー銃を構えて打ち込む。合計、三発打ち込んだが、三発とも外した。知樹はエアーロードではなく、下にある歩道を走っていたのだ。
「通行人を巻き込むつもりなの」
そう言いながら知樹の後に続く、エアーロードと比べて歩道は障害物が多すぎた。でも逃がさない。電子テーザー銃を構えながら知樹を狙っていた。当たれば事故になる。怪我をしても知らないから。そう思っていると知樹はエアートレイン専用のトンネルに突っ込んで行った。「結構、無茶な奴ね」火草は追いかける。それが知樹の仕掛けた罠だとしても。
知樹は昔を思い出していた。陸夫とエアーバイクのトリックをして遊んでいたからだ。陸夫は同級生の数少ない友達だ。放課後に二人でよく練習をしていた。あの時のタイミングだ。そう思いながら前に迫るエアートレインを見定めていた。
「脳みそぶちまけろよ」そう知樹は叫んだ。
エアーバイクでバックフリック(後方宙返り)をすると火草の後ろに回った。そのまま、エアーバイクを前方のエアーバイクにぶつける。火草のエアーバイクがエアートレインと衝突した。数十メートルほど後方に飛んで火草のエアーバイクはぐしゃぐしゃになった。知樹はエアーバイクのアクセルを全開にした。
ここからは知樹の圧勝だった。旭川方面を目指してアクセルを全開にさせれば残りの時間を過ぎるからだ。
足が折れた。火草はそう思いながら唇を舐めた。何故なら左手がサイバーウェアじゃなかったら、衝突で顔面を潰していたかもしれないからだった。「あの野郎、ぶっ殺す」そう火草は叫んだ。
◆登場人物
◆木下知樹 十七歳、物語の主人公。
◆松田健司 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。
◆岩本信 二十二歳、ストリートギャング(バッズ)の幹部。
◆上野火草 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。
◆山田陸夫 十七歳、高校時代の友達。
◇設定資料
◇電子テーザー銃、メタルインダストリー社【アメリカ】の電子テーザー銃。近距離で相手を制圧【スタン】する時に使われる。




