48.復讐の歌⑦
一番最初は地面に群がる蟻の大群だった。蟻を踏みつけると阿久津の心は何故か落ち着いた。次は小型の動物だった。二十歳の頃にホームレスの男を殺した。無論、足がつかない様に行動した。四年前の事件もそれは同じ事だった。それが何故、阿久津は心の底から恐怖を感じていた。
「なぁ、あんた。顔が真っ青だぜ」健司が地べたに這いつくばりながら話した。
「一体、お前たちは何者なんだ。どうして事件の事が分かった」阿久津は冷や汗を流しながら尋ねた。
「答えるつもりは無いよ」知樹が答えた。
それと同時にポリロボ君が知樹に向かって対人用スタン弾を放った。知樹はそれを軽々とよけた。
「この木偶人形、いい加減にしろよ」そう言いながら知樹はポリロボ君を殴った。ポリロボ君は吹き飛んだ。そのまま壁に当たるとポリロボ君は稼働を停止した。
阿久津は焦っていた。こいつらを始末するどころか、追いつめられているのは自分の方だった。阿久津は残ったポリロボ君を盾にしながら裏口に向かった。裏口に止めてあるエアーバイクで逃走する為だ。
「想定外だ。俺は逃げる事にするよ」「お前たちは危険だ」そう言いながら手元のスマートデバイスに手を掛けるとボタンを押した。
倉庫の天井が爆発した。無数の粉塵が倉庫の中に広がった。四人はせき込みながらお互いの無事を確認した。
「大丈夫か、知樹」大内さんが話した。
「俺は大丈夫です」知樹が答えた。
「俺も無事だ」健司が話した。
「私も大丈夫」火草が話した。
「阿久津は逃走したみたいだな」大内さんが話した。
「無駄ですよ」知樹が話した。
「都内に向かっている」火草が答えた。
健司がバッグから水筒を取り出した。一口、水を飲み込むと女の子の姿に入れ替わった。地べたから起き上がると健司が話した。
「男の姿でダメージを食らっても、女の姿になれば男の時に受けたダメージが反映されないんだ。意外と便利だろ」健司が話した。
「彼女は健司なのか」大内さんが目を丸くしていた。
「大内さん、俺っす」健司が答えた。
「それも特殊能力なのか」大内さんが話した。
「そうです」知樹が答えた。
「阿久津は都内に戻ってどうするんだろう」健司が話した。
「用意周到な奴だ。何かあるんだろう」大内さんが答えた。
「火草ちゃん。案内を頼むよ」大内さんが話した。
四人組は阿久津の後を追って横浜港から東京都内にエアータクシーで移動した。空模様は相変わらず大雨だった。
「中野区の商業ビルに居るみたいです」火草が話した。
「次は絶対に仕留める」健司が話した。
四人は商業ビルの十二階にたどり着いた。そこには空室のテナントと事務所が並んでいた。
林田工業と書かれた事務所に阿久津がいると火草が言った。
「こいつらはニュージャパンの極道組織だ」大内さんが話した。
「上等っすよ」健司が事務所のドアを蹴り飛ばした。
「おい、てめーら。ここをどこだと思っているんだ」椅子に座った強面の男が話した。
「林田組だぞ、こら」中には屈強な男たちが数人立っていた。
「阿久津はどこだ」大内さんが話した。
「知らねーな」椅子に座った強面の男が話した。
「お前ら、こんな事をして、ただで済むと思うなよ」他の男が話した。
「大人しく阿久津を引き渡せ」大内さんが話した。
「誰に向かって命令してんだよ」数人の男がハンドレーザーガンを構えた。
「お前たち以外に誰かいるか」健司もハンドレーザーガンを構えた。
知樹がアンダースローの構えになった。「脳みそぶちまけろよ」知樹はそう言いながら拳を上に突き上げた。爆発と共に凄まじい音が響き渡ると男たちは吹き飛んだ。
「隣の部屋か」知樹が話した。
「この野郎、一体何をしやがった」強面の男が頭を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。
火草が強面の男の太腿に向かってハンドレーザーガンを撃った。強面の男はその場で倒れた。
「阿久津、観念しろ」そう言いながら大内さんは隣の部屋のドアを開いた。
「一体、何なんだ。お前らは」阿久津は恐怖の顔を浮かべながらビルの窓から飛び降りた。素早くパラシュートを開くとそのまま地面に降り立った。
「本当に用意周到な奴だ」火草が話した。
「こいつらどうする」健司が話した。
「俺たちの目的は阿久津だ」知樹が話した。
「今度はどこに向かっているんだ」大内さんが話した。
「方向的に横浜港です」火草が答えた。
「また、戻るのか」健司が話した。
四人は再びエアータクシーを使って阿久津を追いかけた。阿久津は横浜港の倉庫街に戻っていた。四人は倉庫の外で阿久津を見つけた。
「もう、お手上げだよ。殺せ」激しい雨の中、阿久津が話した。
「何をやっても無駄なんだろう」阿久津は笑っていた。
「娘の敵を取らせてもらう」大内さんが阿久津を睨んだ。
大内さんはハンドレーザーガンを数発、阿久津の太腿に撃ち込んだ。
「楽には殺してくれないか、まぁ、自業自得だよな」阿久津が話した。
「お前だって娘を楽には殺さなかっただろう」大内さんが話した。
「どうでもいいよ。記憶すら曖昧だ」阿久津が話した。
阿久津が地面に膝まづくと大内さんはバッグの中からジッポオイルを取り出した。
「お前には苦しんで死んでもらう」阿久津の頭にジッポオイルを振りかけて火を付けた。
阿久津は悲鳴を上げながら地面に転がっていた。大雨で火が消えると大内さんはまたジッポオイルを阿久津の頭に振りかけた。
「やめろよ、なんでこんな酷いことをするんだ」阿久津が叫んだ。
「それはお前が洋子を殺したからだ。阿久津」大内さんは再び、頭に火を付けた。
数十回、それを繰り返した。阿久津はもう二度と動くことは無かった。大雨の音だけが、その場に響き渡っていた。
◆登場人物
◆木下知樹 十七歳、物語の主人公。
◆松田健司 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。
◆上野火草 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。
◆大内重之助 三十八歳、警視庁少年育成課の刑事。
◆阿久津義孝 三十歳、警視庁ロボット整備係の職員。
◇設定資料
◇ポリロボ君(警察ロボット)テックロック社製【ニュージャパン】のロボット、対人用スタン弾搭載の最新モデル。スマイルマークが目印。




