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4.東京脱出③

 新宿駅の中は外に比べて冷房が効いていた。大勢の人ごみの中にいると何故だか安心した。先ほどまではポリロボ君(警察ロボット)を警戒して移動していたからだ。東京駅に向かうチケット(二百十円)を購入して東京駅へと向かった。


 山形県に向かうエアートレインは一万二千円だった。すでに手持ちは十三万円だったので何とか節約しようと思い、深夜発のエアーバスで移動することにした。バスなら四千円だった。山形駅から酒田駅まで二千八百円、そこから徒歩で一時間、目的地の酒田港だ。密入国の費用が十万円だから残りは二万三千円くらいだった。


 東京駅の地下も冷房が効いてかなり涼しかった。休憩所でスマートデバイスを見ながら時間を潰していた。何となく、あの法案のニュースを検索していると嵐山浩二あらしやまこうじがマスメディアのインタビューを受けていた。「この法案は、健全なる市民を守るために必要なんです。増加する犯罪を抑えるには、こうでもしないと駄目なんですよ」その映像を見ながら、この詐欺師野郎、お前とお前の息子に人格を移植をしろよ。そう思いながらスマートデバイスの電源をスリープにした。


 やはり嵐山浩二が今回の黒幕だと思って正解だろう。大内さんが調べた件と、このニュースの映像から考えてみても合点がてんがいった。大内さんは大丈夫なんだろうか、余り、この件に踏み込み過ぎるなよ、大内さん。知樹が大人を心から心配したのはこれが生まれて初めてだ。


 赤ちゃんボックスに入れられて、周りの大人たちは皆、無関心で、そういう世界で知樹は今まで生きてきた。上辺だけの挨拶、上辺だけの笑顔、上辺だけの関係。結局、なんだかんだ言っても本当の親には捨てられたんだ。何を信じればいい。誰が正解なんだ。そう思っていた。でも、今は大内さんが信頼できる唯一の大人だった。


 夜、十二時、東京駅のエアーバス待合所にバスが来た。中に入ってみると座席シートではなく縦型の三段ベッドが奥まで並んでいた。寝ながら移動するタイプの深夜バスだった。さっそく、指定券の番号が書かれたベッドに飛び込む、通路は狭かったがベッドの中は意外と広かった。知樹は東京を出たことがない。施設では外泊も禁止だったからだ。深夜に抜け出してコンビニに行くことはあっても、朝までには寮に戻るのだった。


 何故だか心がワクワクしていた。遊びじゃないんだぞ、と自分に言い聞かせても、初めての旅路たびじでかなり調子に乗っていた。小声で歌ったり、足をばたつかせながらリズムをとったりした。下の段のベッドから「うるせぇぞ」と言われたが気にもせずに歌っていた。


「おい、うるさい坊主、寝ないなら付き合えよ」


 下の段のベッドから男が顔を見せた。強面こわもての男は四十代だろうか、手にビールと柿ピーを持っていた。それを渡されると上の段に上がってきた。どうやら、喧嘩別れした娘さんが、山形で結婚して子供が生まれたんだそうだ。男は娘に会うのが十年ぶりだと言った。知樹はビールを飲みながら「めでたいっすね」と言うと男は満面の笑顔で「めでたいな」と言った。東京から山形までは八時間で到着する予定だった。酒が足りなくなると、男はバスの中で売っている自販機からつまみとビールを買って来た。


 バスが山形駅に到着すると「ビール、ご馳走様でした」と言い、握手をしながら二人は分かれた。知樹は完全に酔っぱらっていた。顔を見られるとまずいなと思い、バッグからマスクを取り出して顔を隠した。酒田駅行きのエアーバスが三十分後に到着すると、すぐに乗り込んだ。奥の座席に座るとあっという間に眠った。酒田駅までは二時間弱で到着する。


 酒田駅に到着しても知樹は眠っていたが、エアーバスの警告音が聞こえるとびっくりして起き上がった。奥の座席から走ってバスを降りた。どこかでゆっくり眠りたいと思った。後は徒歩で一時間歩けば目的地の酒田港だ。


 酒田港に向かう前に、約束の時間まで一日が残っていたので駅前のネットカフェで睡眠を取った。次の日、料金を精算すると(千八百円)歩いて酒田港へと向かった。


 日差しがとても暑かった。途中のコンビニでパンと飲み物を購入した。腹が減っていたのでむさぼるように食べた。酒田港へたどり着くと、ちょっとした違和感に気がついた。ポリロボ君(警察ロボット)が多数、警戒態勢に入っていたからだ。すぐさま木の陰に隠れて様子を見ていると何人かが警察に捕まっていた。このままだと港の中に入れない。


 すぐに武田さんに連絡を入れた。


「はい」


「武田さんですか、港に警察がいて動きが取れないんですが」


「おう、出発は夜の十時だ」


「十時になったら走ってこい、目印は赤い旗だ」


 そう言うと電話は切れた。夜の十時か、この騒ぎも夜になれば落ち着くかも知れない、コンテナの陰に隠れながら知樹は様子を伺っていた。夜の九時五十分、赤い旗を掲げたヨットが港に入港した。 ポリロボ君の警戒態勢は昼間と変わっていなかった。あと残り五分、バッグからロングコートを取り出して身にまとった。ポリロボ君に見つかればアウトだ。コートはバイオメトリクス認証チップを防ぐのだから、ポリロボ君のカメラに入らなければ、きっと大丈夫だ。


 知樹は走った。ポリロボ君のライトを意識しながらその間を走った。警告音が鳴ると精一杯にジグザグをしながら、対人用スタン弾を食らわないようにヨットへと飛び込んだ。


「出発するぞ、何か物に捕まれ」


「はい」


 ヨットは逆噴射で飛び出した。同時に武田さんは電波妨害用装置のスイッチを押した。ヨットの船体を回転させて猛スピードで日本海へ消えるのだった。

◆登場人物


木下知樹きのしたともき 十七歳、物語の主人公。


大内重之助おおうちじゅうのすけ 三十八歳、警視庁少年育成課の刑事。


嵐山浩二あらしやまこうじ 四十五歳、国会議員。


武田哲夫たけだてつお 四十歳、密入国の案内人。


◇設定資料


◇ポリロボ君(警察ロボット)テックロック社製【ニュージャパン】のロボット、対人用スタン弾搭載の最新モデル。スマイルマークが目印。


◇バイオメトリクス認証チップ、このチップは生まれた時に身体に埋め込まれる。もちろん、個人の特定、交通機関、買い物など、あらゆる場所でこの認証チップの確認がいる。テックロック社製【ニュージャパン】


◇スマートデバイス、様々な機能を搭載した携帯端末。大昔で例えるならスマートフォンに近い。腕時計程度の大きさで、画面は立体ホログラフで表示される。ヒューマンロジック社【アメリカ】のオペレーティングシステム搭載。


◇赤ちゃんボックス、諸事情のために育てることが出来ない赤ちゃん(新生児、子供)を親が託すための制度、知樹もこの赤ちゃんボックスで御徒町おかちまちの施設に入れられた。


◇電波妨害用装置、範囲内の電波を無効化する装置。

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