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39.カワセミが飛ぶとき④【番外編】

「お前、忍さんのお金を横領しているだろう。覚えは無いか」


 高木は下を向いた。


「横領と殺人の件で既に軍警察がお前をマークしている」


「だからお前は金に執着していたのか、怪しいとは思っていたけど」


「わ、私は犯人じゃないんだ」


「事件当日、何であのバス停に降りたんだ」


「忍さんに呼び出されていたんだよ。横領の件で」


「忍さんは不動産収入があるから私が担当だった」


「私はギャンブルで闇金から借金をしていて、その、返済に忍さんのお金を使ってしまったんだ」


「あの日、家に入ると忍さんの部屋は鍵が掛かっていた。それで仕方なく帰ったんだよ」


「吉岡さん、建物は誰でも入れるんですか」


「はい」


「一応、呼び鈴はありますけど、大抵はお嬢様の部屋に直接伺いますね」


「なるほど」知樹はメモ帳に記した。


「では、次は山下だ」


「はぁ、こいつが犯人じゃないの」山下は答えた。


「議論は全員、調べてからだよ」知樹が言った。


「時間の無駄だと思うんだけど」


「いや、必要な事だ。そしてお前にも動機がある」知樹は話した。


「お前の口座に忍さんから一千万円が振り込まれていた。三年前だ」


「学費を援助して貰ったの、やましい事なんてないわ」


「本当は援助じゃなくて借りたんじゃないのか」


「私はやっていない」山下は大声を上げた。


「お金を返せない状況だから殺したんじゃないのか」知樹は山下を睨んだ。


 山下は大人しくなった。


「次は土田さん」


「私は具合の悪い忍を家まで送ったの、山下も一緒に。でも帰る方向が逆だったから家の前で山下と別れた。動機は無いわ。お金も借りてないし」


「なるほど」知樹はメモ帳に記した。


「次は高村さん」


「私も知樹さんと同じで動機は無いですね。先ほども言った通り家が近いのでバス亭を降りました」


「なるほど」知樹はメモ帳に記した。


「現段階では高木、山下、上杉、吉岡の順で疑わしいですね」


「さて、言い訳があるなら聞きますよ」


「私じゃないんだ」高木が話した。


「何度も言うが、忍さんの部屋に鍵が掛かっていた」


「私はそこで帰った。忍さんのお金を横領していたのは事実だが、殺しなんて私には無理だ」高木は泣き出した。


「本当はお金を借りていたの」山下が話をした。


「でも、殺してなんかいないわ。忍も返済を待ってくれていたし」


「殺人の動機で多いのは金銭の問題だよ。たまに恋愛絡みだ」知樹が話した。


「殺してない」山下も泣き出した。


「あんたら、ギャングよりも質が悪いよ」知樹はため息をついた。


「俺じゃないっすよ。知樹さん」上杉が言った。


「お前はやっていないだろう」知樹が笑った。


「吉岡さんは何か言い訳はありますか」


「私はお嬢様を大事にしてきたつもりです。殺す事なんて絶対にありません」


「うーん、迷ったな」知樹はボールペンをくるくると回した。


「こういう場合は誰かが嘘を言っているんだ。探偵小説ではよくある話だ」


 大型モニターに望月さんが映し出された。


「皆さん、一先ず、夕飯にしませんか、腕利きのシェフを雇っています」


「皆さんにはここで一晩過ごして貰いましょう。勿論、部屋をご用意しております。個室なので気兼ねなく過ごせるでしょう」


「大浴場はひとつなので時間制で男女別に入って貰います」


「それではごゆっくりとお過ごしください」望月さんはモニターから消えた。


 テーブルに様々な料理が運ばれて来た。食べ放題のビュッフェ形式だった。知樹はエビチリとステーキと寿司を皿に乗せた。


「美味しいよ、これ」


「みんな、食べないの」知樹はみんなに尋ねた。


 みんなが料理を食べ始めた。上杉は「美味いっすね、知樹さん」と言いながら料理を取りまくっていた。高村さんは寿司を食べていた。土田さんはデザートを食べている。


「よく、食べられるな。私は終わりだ」高木が暗い声で話した。


「私は終わりだ」高木が大声を出した。


「もう、部屋に行きなよ。みんなの邪魔だ」知樹が睨んだ。


 高木は自分の部屋に移動した。


「私も部屋に行くわ」山下も自分の部屋に移動した。


「知樹さん、密室の件はどうするんすか」上杉が尋ねた。


「考えはあるんだ」


「望月さんを呼んで貰えますか」知樹が家政婦に頼んだ。


「何か、用かね」


「忍さんが住んでいた建物の平面図を用意して貰えますか」


「成程、用意させる。他には」


「一先ず、それだけです」


「では、失礼するよ」望月さんはモニターから消えた。


「一晩、考えるよ」知樹は上杉にそう答えながら大浴場へと向かった。


 知樹は身体が疲れていた。シャワーで身体を洗い流すと大きい檜の湯船に浸かった。


「沁みるな」知樹は考えをまとめていた。


 先ずは高木、一番怪しいのはこいつだ。金を横領していた。忍さんを殺すには十分な理由がある。次は山下、一千万円の借金がある。これも忍さんを殺すには十分な動機だ。上杉は殺していないだろう。あれはただのナンパ野郎だ。吉岡さんは実の母親だ。忍さんを殺す理由がない。残るメンバーはそもそも動機が無い、後で健司に連絡を入れよう。


 知樹は部屋に入るとテーブルを見た。建物の平面図が置かれていた。


「どれどれ」知樹はベッドに横になった。


 平面図を広げると知樹は何かを閃いた。昔に読んだ探偵小説を思い出している。「もしかすると」そう言いながら眠りについた。


 翌朝、朝七時。知樹はベッドから起き上がった。大広間に向かうと朝食の準備がしてある。これもビュッフェ形式だった。パンとハムエッグをお皿に乗せた。みんなも朝食を食べている。


「朝から贅沢だな」知樹はホットコーヒーを口に運びながら話した。


「本当に贅沢っすね」上杉が食べ物を口に入れながら話した。


 すると、家政婦が慌てて大広間にやって来た。


「大変です。山下愛理様が部屋で死んでいます」家政婦は顔が真っ青だった

◆登場人物


木下知樹きのしたともき 十七歳、物語の主人公。


望月忍もちづきしのぶ 二十三歳、望月製菓の娘。被害者。


望月宗男もちづきむねお 五十歳、望月製菓の社長。被害者の父親。


吉岡幸子よしおかさちこ 四十八歳、望月家の家政婦。第一発見者。


山下愛理やましたあいり 二十三歳、被害者の友人。


土田友子つちだともこ 二十三歳、被害者の友人。


高木義久たかぎよしひさ 三十三歳、銀行員。


上杉健うえすぎけん 二十一歳、フリーター。


高村徹たかむらとおる 二十六歳、会社員。

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