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38.カワセミが飛ぶとき③【番外編】

「私がそうです」扉から女性が現れた。


「お名前と年齢を尋ねても良いですか」知樹が質問をした。


吉岡幸子よしおかさちこ、四十八歳です」


「どういう、状況だったんですか」


「あの日、私はお嬢様の家で家事をしておりました。丁度、夕飯時ですね」


「夕飯が出来るとそれを部屋に運びました。ですが、部屋を何度かノックしてもお嬢様の反応はありませんでした。そういう時は部屋に入って良いと言われていたので合鍵を使用して部屋の中に入りました」


「部屋の奥でお嬢様が倒れていました。お嬢様が口から泡を吹いていたので救急車を呼びました」


「それから救急車が到着してお嬢様が運ばれました。救急隊員の方が軍警察に連絡を入れて、私はデバイスで宗男様に状況を伝えました。以上が当時の状況です」


 知樹は違和感を感じた。


「部屋に鍵があるんですか、それなら密室殺人事件になるんですが」知樹は言った。


「はい、そうです」


「だと、あなたも容疑者の一人になりますけど」


「そうなりますね」吉岡は答えた。


「彼女は違う、殺す動機が無いんだ」望月さんが言った。


「望月さん、それなら俺たちも今のところ動機は無いですよ」


「一番、犯人に近いのは彼女ということになりますけど」知樹が話した。


「彼女は忍の本当の母親なんだ」望月さんが言った。


「私の私情だが、妻との間に子供は出来なかった。当時、幸子と私は付き合っていたんだ。それで生まれたのが忍になる」


「なるほど」知樹はメモ帳に内容を記した。


「ですが、容疑者の中に彼女を入れないのは駄目ですよ」知樹が言った。


「分かった、それで良い。他に質問はあるか」


「忍さんはその事を知っていたんですか」


「忍はその事を知らない」望月さんが答えた。


「そうですか、野暮な話を聞いてすいませんでした」知樹が頭を下げた。


「いや、良いんだ。引き続き、犯人を捜してくれ」望月さんはモニター画面から消えた。


「吉岡さん、部屋の鍵はちゃんと掛かっていたんですか」知樹が尋ねた。


「はい、部屋の鍵は閉まっていました」


「鍵はお嬢様と貴方の二つだけですか」


「はい、鍵は二つのみです」


「参ったな、密室殺人事件だ。そんなの本の中の話だと思っていた」


「なら、あんたが犯人なんじゃないか」高木が話した。


「密室も何もあんたが犯人なら、辻褄が合う」


「私ではありません。大事な子供ですから」吉岡さんが話した。


「先ずは、全員、調べてからですね」知樹が言った。


「お前、五千万円を狙っているんだろう。さっきからお前だけが話をしている」高木は知樹に言った。


「なに、悪いの。お前だってそうだろう」知樹は高木を睨んだ。


「子供がしゃしゃり出るな」高木が大声を上げた。


「あんた、死なないと分からないタイプか」知樹も大声を上げた。


「私にはお金が必要なんだ。子供の小遣い稼ぎじゃないぞ」高木は息を切らしていた。


「あんた、何か怪しいな。そこまで必死に金に頓着するなんて、理由がある筈だ」知樹は高木を睨んだ。


「それは」高木は声の調子が落ちた。


「図星だな。あんた、何かやらかしているだろう」


「わ、私は犯人じゃない」高木は落ち着きが無くなった。


「おっさん、何かあるなら今のうちに話せよ。後で出てきたら、あんたが犯人だ」知樹は鎌をかけた。


「一先ず、皆さん。落ち着きませんか」高村が間に入った。


「俺は落ち着いているよ。このおっさんは何か隠している」知樹は高村に言った。


「先ずは、落ち着きましょう」高村が同じことを言った。


「日本語が分からないんじゃないの」山下が笑いながら言った。


「いや、知樹さんは確信を付いているんだ」上杉が話した。


「俺は知樹さんに進行をお願いしたい。この人はフェアだ」


「ストーカーの俺が言うのも何だけどね」上杉は笑った。


「では、知樹さんに進行をお願いするとして多数決だね。反対の人は手を挙げて下さい」高村が提案をした。


 高木と山下が手を挙げた。それ以外は手を挙げなかった。


「では、知樹さんに進行をお願いします」高村は知樹を見た。


「俺なんかで良ければ進行を務めさせて貰いますよ」知樹は言った。


「五千万円の件は事件が解決してから多数決で決めよう。揉め事の原因になる」


「そして、先ずは、全員、調べてからだ」


 そう言いながら知樹はメモ帳を取り出した。


「俺の知り合いに情報屋がいる。嘘を話しても無駄だからな」知樹は健司に連絡を取った。


「うん、本田さんに何時でも動けるように頼んでおいて」知樹は通話を終えた。


「動機の調査からする。密室の件は後にしよう。ややこしいから」


「先ずは俺だけど、動機が全く無い。面識も無い。お嬢様がバスに乗っていたのも知らない。以上だ」


「誰かに依頼されたのよ」山下が食い下がる。


「お前は素人だから知らないだけだ。一般人の殺しはバッズではご法度だ」


「お金でどうにでもなるんじゃない」


「俺はそんな理由で人を殺さない」知樹が山下を睨んだ。


「でも、そうだな。殺し屋を雇ったと言うのはあり得るかもな」知樹はメモ帳に記した。


「次は上杉だ。ストーカー行為は何時からやっていたんだ」


「ええと、一ヵ月前くらいかな、可愛い子が街に居たんだ。それが忍さんだった。名前は知らなかった。声を掛けるつもりで後を追ったんだけど、緊張して声は掛けられなかった。動機は無いよ。俺は殺していない、逆に犯人を殺したいくらいだ」上杉は真剣な表情で話した。


 デバイスに連絡が来た。健司からだった。


「おい、高木。お前、何か言う事は無いか」知樹は高木を鋭く睨んだ。

◆登場人物


木下知樹きのしたともき 十七歳、物語の主人公。


望月忍もちづきしのぶ 二十三歳、望月製菓の娘。被害者。


望月宗男もちづきむねお 五十歳、望月製菓の社長。被害者の父親。


吉岡幸子よしおかさちこ 四十八歳、望月家の家政婦。第一発見者。


山下愛理やましたあいり 二十三歳、被害者の友人。


土田友子つちだともこ 二十三歳、被害者の友人。


高木義久たかぎよしひさ 三十三歳、銀行員。


上杉健うえすぎけん 二十一歳、フリーター。


高村徹たかむらとおる 二十六歳、会社員。

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