35.ホームレス
健司と吉田はバッズの通常業務(お酒とタバコの自動販売機の補充、金銭の回収、釣銭の両替)を行っていた。
「これでいいんすか、兄貴」吉田が聞いた。
「大丈夫だ。お前は呑み込みが早いな」健司が答えた。
吉田は行くところが無かったので健司が引き取ることになった。
岩本さんは「健司に任せるよ」の一言だった。健司は昔、札幌スラム街に住んで居たことがある。盗みやスリで生活をしていた。だから吉田にまともな生活を与えたかった。自分と同じように。
「吉田、休憩だ」そう言いながら健司は飲み物を買ってきた。
「はいっす、兄貴」吉田は飲み物を受け取った。
飲み物を飲んだ健司は女の子の姿に変身した。
「貴方は誰っすか」吉田は驚いていた。「あぁ、気にするな。俺だ。健司だ」健司はもう一口、飲み物を飲み始めた。
「兄貴、何なんすか。今の」
「俺の特殊能力なんだよ」
「この前の綺麗なお姉さんは兄貴だったんすね。それで後を付けられたか」
「正体がバレたか、まぁ、黒幕の学生はボコボコにして軍警察に渡したし、今更だよな」健司が笑った。
「もう二度とドラッグは売りません。兄貴」
「そうだな」
そう言いながら健司と吉田は作業に戻った。
一方、知樹と火草は札幌の郊外にあるゴルフ場でとある状況を見ていた。
一昨日の晩にオーダーの話があったからだ。
「今回はギャラが一人、十万円だ」「何せ、予算が三百万円しか無いそうだ」「やるかやらないかは微妙だね」「みんなはどう」岩本さんが聞いた。
「どんなオーダー何ですか」知樹が聞いた。
「ホームレスが誘拐されているんだそうだ」
「依頼主は(ホームレスを守る会)の会長だ。まぁ、ボランティア団体だね」
「それを何とか解決して欲しいそうだ」
「俺、やりますよ」知樹が話した。
「俺はパスだ。吉田に通常業務を教えないと」健司が言った。
「やってもいい。退屈だったから」火草が答えた。
「じゃ、この件は知樹君と火草に任せたよ」
そう言いながら岩本さんは奥の部屋に入って行った。健司も事務所を後にした。知樹と火草は打ち合わせを始めた。
「何から始めようか」知樹が切り出した。
「ホームレスを追跡する」火草が案を出した。
「誰が誘拐されるか分からないよ」
「囮を使う」
「誰が囮になるの」
「会長に準備をさせる」
「なるほどね」知樹は納得した。
翌日、(ホームレスを守る会)の会長に会いに行った。
「では、目立つ場所にホームレスを配置しよう。宜しく頼んだよ」
会長は場所を知樹たちに伝えた。
「あれが囮だ」知樹はダンボールハウスで横たわる老人を見ていた。
「了解」火草は老人をスコープで捉えた。
誘拐犯は中々、姿を見せなかった。待つこと十ニ時間、深夜三時頃にエアカーがホームレスの前で止まった。ホームレスを無理矢理、車内に押し込んだ。誘拐の現場だった。
「動いたね」
「もう、マークしてある」
「追いかけようか」
ホームレスを乗せたエアカーは猛スピードで現場から去っていった。知樹と火草はそれぞれのエアーバイクに跨った。アクセルを回した。
火草は札幌の郊外に出るとエアーバイクを止めた。
「何かあったの」知樹が聞いた。
「対象が地下の部屋に軟禁されている」火草が答えた。
「場所はゴルフ場、デバイスに送る」
「少し寝てから現場に向かう」そう言いながら火草はエアーバイクの上で眠り込んだ。
知樹も少し休むことにした。
火草が起きたのは昼頃だった。二人は急いでゴルフ場に向かった。
あれはなんだろう。知樹は遠くから望遠鏡を覗いていた。
檻に入れられたホームレスが三人いた。他には十名くらいの男たちが並んで立っている。
一人のホームレスが檻から出された。そのホームレスは走り出した。
並んでいた男たちがホームレスをレーザーライフルで撃ち殺した。楽しそうに会話をしている。
火草が「最低な連中だ」と言いながらエアーバイクから黒い包みを取り出した。ファーマスインダストリー【ロシア】の超ロングレーザーライフルだった。「同じ目に合わせる」そう言いながらライフルを構えた。
「一人目」男が倒れた。火草は次の弾をライフルに込めた。
「二人目」また一人、男が倒れた。火草は黙って弾をライフルに込めた。
「三人目」男が倒れた。連中はパニックになっていた。
知樹は呆然とそれを眺めていた。射撃の腕前が一流だったからだ。
「火草は長距離射撃が得意なんだね」
「そうだ。私は偉いんだ」火草が笑っていた。
「八人目、九人目、十人目」火草は遠距離射撃で敵を壊滅させた。
知樹と火草はのんびりとホームレスの所に向かった。
ホームレスの二人は震えていた。
「どうか、命だけは」ホームレスの一人が話をした。
「大丈夫、助けに来たんだ」
「そうでしたか」
「こいつらは一体何なんだ」知樹がホームレスに尋ねた。
「分かりません、でも状況をネットで配信していたみたいですが」
「たぶん、賭け事だ」火草が死体のデバイスを調べていた。
「ホームレスが何秒で死ぬか、ここにオッズが書いてある」
「酷い話だ」知樹は拳を握りしめた。
「たまにいるんだよ、素人でやらかす連中が」火草は眠そうな顔をした。
「お前たちは運がよかったな」火草は笑った。
「助かりました。本当にありがとうございました」二人のホームレスはお辞儀をした。
「何でこんな酷いことが出来るんだ」知樹は納得が出来なかった。
「知樹、考えても答えは無いよ」火草が言った。
◆登場人物
◆木下知樹 十七歳、物語の主人公。
◆松田健司 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。
◆岩本信 二十二歳、ストリートギャング(バッズ)の幹部。
◆上野火草 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。
◆吉田茂 十三歳、ストリートギャング(バッズ)の見習い。
◇設定資料
◇超ロングレーザーライフル、ファーマスインダストリー【ロシア】のレーザーライフル。弾は一つしか込められないが、威力と距離は最高の一品。玄人向けの遠距離ライフル。




