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34.吉田茂

 俺の名前は吉田茂よしだしげる、みんなからは吉田と呼ばれている。今年で十三歳になる。俺は電脳ドラッグの売人だ。それを売って生活をしている。親は小さい頃に家を出て行った。だから、天涯孤独の人生だ。札幌スラム街は俺にとって大事な場所だ。外の世界は身分証だの、年齢制限だのと煩いから嫌いだった。


「吉田、ミストある」同い年くらいの少年が吉田に話しかけた。


「勿論あるよ。一個、五千円だ」


「じゃ、二個くれよ」


「使いすぎるなよ。最近、多いからな」


「大丈夫だよ。そんなヘマはしないよ」


 そう言いながら、吉田はハンバーガーショップの紙袋からミストを取り出した。少年に渡すとお金を貰った。


「そういえば、知ってる」


「何を」


「バッズの木下知樹って奴。一人でギークと夜桜の奴らを大勢、倒したって」


「冗談だろ」吉田は笑った。


「いや、ここだけの話。マジでヤバイ奴なんだって」


「本当かよ」


 吉田は噂話を信じなかった。一人でギークと夜桜を倒す事なんて無理な話だ。


「じゃ、吉田。またな」


「毎度、ありー」吉田は札幌スラム街の中心地にある小屋に向かった。


「武夫さん、こんちー」


「吉田か、今日の売上げはどうだ」


「今日は八万円っすね。武夫さん」


「まぁ、ぼちぼちだな。これ、今日の給料だ」武夫さんは封筒を渡した。


 吉田が中を確認すると一万五千円が入っていた。


「ありがとうございます。武夫さん」


「明日も頼んだよ」


「お疲れさまっす」吉田は深々とお辞儀をすると札幌スラム街の外れに移動した。


 札幌スラム街の外れには吉田のボロ小屋があった。中に入ると吉田は横になった。「今日は悪くない日だ」そう言いながら少し眠った。夜になると吉田は札幌駅前の繁華街にあるバーガーショップで食事をした。ここのハンバーガーは吉田の好物だ。


 吉田は違法なデバイスでニュースを読んでいた。今日のニュース、事件など様々な情報を頭にインプットしている。吉田の日課だった。


「あ、早くしないと銭湯が終わっちまう」


 吉田は急いで銭湯に向かった。一日の疲れを取るのに銭湯は最高の場所だった。熱い湯船に浸かると吉田は「幸せだ」と呟いた。


 次の日、吉田は札幌スラム街で仕事を始めた。


「電脳ドラッグはあるか」年配の男が話しかけた。


「はいっす、何個かありますよ」吉田は笑顔で答えた。


「ミストは何個ある」


「手持ちだと二十個ですかね」


「全部、欲しいんだが。いくらだ」


「ひとつ、五千円なんで十万円になりますよ」


「ほら、数えろ」年配の男がお金を渡した。


「はい、丁度、十万円ですね」


「では、これを」吉田は紙袋を年配の男に渡した。


「毎度、あり」吉田は頭を深く下げた。


 年配の男が居なくなった後で、綺麗な女性が吉田に話しかけてきた。


「ミストはあるかしら」笑顔で女性が話をした。


「いま、在庫が無いんですよね」吉田は緊張していた。


「時間はありますか、在庫を補充してくるんで」吉田は丁寧に対応した。


「お願い出来るかしら」


「はいっす。少し、お待ちください。持って来ますから」吉田は武夫さんの所に急いで向かった。


「今日は何故か、ガンガン売れますね」吉田が有頂天になっていた。


「吉田が商売上手なんだよ」武夫さんも笑顔だった。


「在庫は後、三十個くらいかな」武夫さんが吉田にミストを渡した。


 扉を蹴る音がした。三人の男女が小屋に乗り込んできた。


「お前ら、誰に断って商売してるんだ」


「ケツ持ちはどこの組織だ」


「北海のギャングはドラッグ禁止だろうが」


 武夫さんと吉田は硬直した。三人が一気に話すので何をどう答えていいのか分からなかった。


「おい、ガキ」「お前だよ」吉田は震えていた。


「何か勘違いしていませんか、ドラッグなんて知りませんよ」吉田はとぼけていた。


「ふざけんなよ。ガキ」男は吉田の襟首を掴んだ。「お前らのせいで何人死んだと思っているんだ」男は吉田を宙づりにした。


「答えろよ」女性が武夫さんの股間を蹴った。武夫さんは悶絶した。


「誰がミストを卸しているんだ」男は武夫さんに質問をした。


「答えられない」武夫さんがそう答えると女性がもう一度、股間を蹴った。


「何なんだよ。お前ら、俺たちが食っていくにはそうでもしないと無理なんだよ」吉田は心から叫んだ。


「人を殺すのはいいのか。ガキ」吉田は顔面を殴られた。気を失いそうになったが、激しい痛みがそれを押し留めた。


「健司、まだ子供じゃないか」


「知樹。こいつは生きる理由と人殺しを正当化しているから教えないと駄目だ」男がもう一度、吉田の顔を殴った。


「痛いな、この野郎。お前たちに腹が減った気分が分かるのかよ。いつも暴力で解決しているお前たちに、俺たちをどうのこうの言う資格があるのかよ」吉田は泣いていた。


「なら、死んだ人のことをお前は考えたことがあるのか。なら、死んでみるか」男が吉田をきつく睨んだ。


「あんたが木下知樹か、かなりやばい奴なんだってな。殺すなら殺せよ」吉田は噂話を思い出した。どうせこいつらに殺されるだろう。


 武夫さんが土下座をしていた。「こいつだけは許して貰えませんか」「まだ、子供なんですよ」「俺が死にますから」武夫さんは震えて泣いていた。


「誰がミストを卸しているのか言えよ」


「五分待つ、答えなければ二人とも木っ端微塵だ」木下知樹が言った。


 武夫さんは諦めて答えた。「札幌大学の学生がミストを作っています」


 女性が再び武夫さんの股間を蹴った。「最初から言えよ、このボケナス」


 そう言いながら女性がスマートデバイスで話をした。


「学生が黒幕です。はい、岩本さん」

◆登場人物


吉田茂よしだしげる 十三歳、子供の売人。


木下知樹きのしたともき 十七歳、物語の主人公。


松田健司まつだけんじ 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


岩本信いわもとしん 二十二歳、ストリートギャング(バッズ)の幹部。


上野火草うえのひぐさ 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。

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