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30.ギャングスター③

 権三郎さんが運転しているエアカー(ステルス機能搭載)は交通量が多い札幌市内を走っていた。


「ここはどこ」全身義体の子供が起き上がった。


「ここはエアカーの車内ですよ」火草が子供に向かって話しかけた。


「博士は」子供が不安そうにしていた。


「博士って誰の事かな」知樹が優しく尋ねた。


「博士はお父さんなの」そう子供が呟いた。


「権三郎さん、どこに向かっているんですか」健司が権三郎さんに聞いた。


「バッズの隠し倉庫だ。今日は一日、荷物を預かることになっている」


「声からすると君は女の子かな」知樹が子供に話しかけた。


「そうだよ」女の子は火草に強くしがみついていた。


「お父さんはどこにいるのかな」


「たぶん、研究所」


 この女の子の子供は一体、何なんだろう。知樹は疑問に思った。


「名前はなんて言うの」京子さんが女の子に聞いた。


「アネモネ」


「お花の名前なのね」京子さんが笑顔になった。


「よろしくね。アネモネちゃん」火草がアネモネの頭をゆっくりと撫でた。


 それから少し時間が経つと知樹と健司は疲労のせいか車内で寝ていた。


「お姉ちゃんたちは悪い人なの」アネモネが話した。


「どうしてそう思うの」


「博士がそう言ってた。外には悪い人が沢山いるから気を付けろって」


「たしかに悪い人なんだけど、アネモネちゃんの味方だよ」火草が言った。


「悪い人なのに味方なの、なんか変だね」アネモネが笑った。


 エアカーが隠し倉庫にたどり着いた。権三郎さんは急いでシャッターを閉めた。


「あっちにソファーがあるぞ」権三郎さんはアネモネを軽く抱き抱えた。空中でくるくるとアネモネを回転させる。「なにこれ、楽しい」アネモネが喜んでいた。「ちょっと、権三郎さん、気を付けてね」と京子さんが言った。


 食料と飲み物、その他必要な物を買う為に、火草と健司が買出しに出かけた。


 アネモネはソファーに座っていた。なぜか知樹を見つめていた。


「お兄ちゃんの名前は」


「知樹って言うんだよ」


「知樹お兄ちゃん。何かお話をして」


「そうだな、水族館の話でもしようか」


 知樹は水族館の話をした。大きなイルカがジャンプする話、無数のペンギンの話、光るクラゲの話、可愛いアシカが芸をする話、大きな水槽の話。アネモネは「行きたいな」と呟いた。


「研究所から出たことが無いの」アネモネは寂しそうにしていた。知樹は何も答えられなかった。


 権三郎さんが「なら、特別だぞ」とアネモネを外に連れ出した。倉庫の外は港だった。大きい海が目の前にあった。「すごいね」アネモネは生まれて初めて見る大きな海に感動していた。「これが外の世界だよ」と知樹がアネモネに伝えた。


 火草と健司の二人が倉庫に戻ってきた。


 お弁当とジュースをアネモネに渡すと「食べていいの」とアネモネが聞いた。


「食べていいんだよ」と火草が笑顔になった。みんなで食事を済ませると「もう一度、海を見たい」とアネモネが言った。


 また、港から海を眺めていた。海からの潮風がとても心地良かった。遠くから男たちが歩いてくる。二十人くらいだろうか。真っ直ぐにこちらへ向かってきた。


「火草、お嬢ちゃんを頼んだ」と言いながら、権三郎さんが男たちを睨んだ。


「よう、バッズ。調子はどうだ」大柄な男が話をした。


「調子はどうだと聞いているんだよ」


「なぁ、ボビー」


「アーノルドさんが聞いているんだ。答えろよ、バッズ」


「あぁ、ビビッて言葉も出ないか、腰抜けだな。バッズは」


「何が目当てだ」権三郎さんが言った。


「何が目当てだと、うちの商品を盗んでおいてそりゃないぜ。なぁ、ボビー」


「ええ、アーノルドさん。こいつら、ギークを舐めているんすよ」


「ギークを舐めているだと、俺たちがバッズに何かしたか、ボビー」


「アーノルドさん、俺たちはバッズに何もしていないです」


「なんだって、それじゃ、全部、バッズが悪いよな。ボビー」


「泥棒猫のバッズが悪いっすね」


「おい、聞いてんのか、このくそ野郎のバッズ」


 権三郎さんは無言だった。今から緊急信号を押しても間に合わない。こちらは五人、相手は二十人弱。そこら辺の雑兵ならともかく、相手はストリートギャング(ギーク)だ。


「どうしてここが分かった」権三郎さんはアーノルドに尋ねた。


「お前らが現場を逃げる時から衛星のカメラで追ってたんだ。ステルス機能なんざ、無駄だな、なぁ、ボビー」


「こいつら、本当にバカ野郎の集まりですよ。アーノルドさん」


「バッズ、商品を渡せ、それで今回は見逃してやる。なぁ、ボビー」


「幹部のアーノルドさんがこう言っているんだ。商品を返せよ」


 権三郎さんは返答に困っていた。


「何も考えることは無いだろう。死ぬぞ、お前ら。なぁ、ボビー」


「もう、ぶち殺してやりましょう。アーノルドさん」


「ちょっと、待つね」ギークの二人に向けて男が言った。


 四十人近くの男たちが辺りを囲んでいた。タトゥーが彫ってあった。夜桜だった。


「その商品は夜桜が頂くね、お前たちみんな、帰れ」


「なんだ、お前は、死にたいのか」アーノルドが言った。


「死ぬの、お前たちの方ね。さっさと消えろよ」


「はぁ、なんで夜桜が喧嘩を売っているんだ。ボビー」


「こいつらもバカ野郎なんじゃないですか。アーノルドさん」


「私、夜桜の幹部のシャンロンね。バカ野郎はお前たちね」


 バッズにギーク、夜桜。それぞれの思惑がぶつかり合っていた。その中で、一人だけ、目つきが鋭い男がいた。知樹だった。既にコンセントレーションを発動させていた。

◆登場人物


木下知樹きのしたともき 十七歳、物語の主人公。


上野火草うえのひぐさ 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


松田健司まつだけんじ 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


時田権三郎ときたごんざぶろう 五十一歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


安達京子あだちきょうこ 二十二歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


◆アネモネ 十歳、全身義体の少女。


◆ボビー 二十五歳、ストリートギャング(ギーク)のメンバー。


◆アーノルド 三十歳、ストリートギャング(ギーク)の幹部。


◆シャンロン 三十歳、ストリートギャング【夜桜】の幹部。


◇設定資料


◇全身義体、人間の体を完全に機械サイバーウェアで置き換えたサイボーグのこと。


◇北海(現ロシア領行政特区)には主に五つのギャング集団が存在する。ストリートギャング【バッズ】は構成員人数が三千人、主にニュージャパン(旧日本)系のギャング集団と言われる。


◇北海(現ロシア領行政特区)には主に五つのギャング集団が存在する。ストリートギャング【夜桜】は構成員人数が四千人、主に中華系のギャング集団と言われる。


◇北海(現ロシア領行政特区)には主に五つのギャング集団が存在する。ストリートギャング【ギーク】は構成員人数が三千人、主に黒人、アメリカ系のギャング集団と言われる。

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