表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

3.東京脱出②

 熱い日差しの中、ロングコートを着て新宿二丁目に向かっていた。通り過ぎる人々がこちらをちらほら見ている。まあ、こんなに暑いのにこの恰好じゃ無理もないな。あと三十分くらいだろうか。ポリロボ君(警察ロボット)を警戒しながらの移動だった。何せ、見つかった場合、全ての計画が台無しになる。なるべく裏道を通りながら目的地へと向かうのだった。


 新宿には大勢の人がいた。たしか東京の人口は三千万人だったな。人ごみを縫うように二丁目へと向かった。二丁目の公園通りにはオカマたちがいた。音楽がスピーカーから大音量で流れている。こちらをちらほら見ているのだが、どうも勝手が違う。品物を見定めるようにこちらを見ていたからだ。団扇うちわを持ったオカマが「あら、良い男ね」と言いながら近寄って来たのだが、無視して住所のビルに向かった。


 極楽堂と書かれた看板がビルの三階にあった。小物のアクセサリーや、洋服が店内に飾られていた。この場所がそうなのか、知樹は緊張しながら店員に声をかけた。


「あの、ここは極楽堂ですよね、大内さんからの紹介で来たんですけど」


 そう店員に尋ねると「オーナー」と言いながら店の奥に引っ込んでいった。店の奥からオーナーと呼ばれる人物が顔を出した。「こっちにいらっしゃい」と言うと、店の奥に案内された。


「知樹君ね、あたしはリンよ。話は聞いている、そこのベッドにうつ伏せになって」


 そう言われると知樹はベッドに寝ころんだ。そしてリンさんを珍しそうに見ていた。


「驚いたでしょ、全身義体ぜんしんぎたいの人はあまり見かけないものね」


 そう、驚いていたのだ。人間の体を全て機械サイバーウェアにしている人を見るのは初めてだった。知樹はサイバーウェアを体に入れていない。施設育ちの知樹にはそんな金など無かった。


「サイバーウェアを付けてる人は多いですけど、全身義体は凄いですね」


 そうなのよ、と言いながらリンさんは知樹の腰の辺りを手で探っていた。


「バイオメトリクス認証チップはここにあるのよ」


 左側の腰の部分に手を置いて麻酔を打った。メスを取り出して、切り込みを入れ、ピンセットで丁寧に認証チップを取り出した。リンさんが言うにはこのチップをネズミに移植するんだそうだ。それで警察の目をネズミに向けることが出来るんだとか。想像しただけで笑いそうになった。血相を変えながらネズミを追いかけるなんて大昔の漫画の世界だ。


「新しいチップは、病院に長期入院している子の偽造チップを使う」


 偽造チップを体内に入れると、止血パッドを腰に当てて止血をした。施術中、痛みは全然無かった。はい、これで偽装完了。スマートデバイスを貸しなさい。ルートを取るわ、スマートデバイスの端子に小型デバイスを取り付けると、ハッキングを開始した。


「じゃあ、諸々込みで十万円ね」


 封筒からお金を取り出してリンさんに渡した。リンさんは「ありがとう」と言うと話をした。


「知樹君は何処へ向かう予定なの」


「まだ決まっていないですけど、国外に行こうと思ってます」


「九州(中国領行政特区)辺りが良いかな」


「九州(中国領行政特区)は無理よ、あの法案で逃げ出す人が多すぎて足(密入国ルート)が足りてないって聞くわ」


「だと、北海(ロシア領行政特区)辺りになりますかね。それも無理だと困りますけど」


「北海(ロシア領行政特区)行きなら当てがあるわよ」


「本当ですか、是非、教えてください」


 リンさんは、紙切れに通信ナンバーを書いて渡してくれた。武田哲夫たけだてつおと名前が書いてある。


「あら、スマートデバイスのハッキングが終わったわ、早速、連絡してみたら」


 渡されたスマートデバイスを腕に取り付けて通信ナンバーを打ち込んだ。


「はい」


 声の低い男が電話に出た。


「武田さんですか、北海に行きたいんですが、大丈夫でしょうか」


「今は割り増し料金だけど、それで良いならあるよ」


「いくら位なんですか」


「通常は五万円だけど、今は十万円だ」


「なら、お願いしたいんですが」


「二日後に山形県の酒田港に来い。そこで連絡を入れろ」


 そう言われると一方的に電話を切られた。


「なんか、せっかちな人でしたね」


「ごめんね、愛想が悪いのよ、でも腕は確かだから」


「リンさんがそう言うなら間違いないですね」


 紙切れに二日後、山形県酒田港へと書き込みながらスマートデバイスの話をした。結局、スマートデバイスに何をしたのか理解していなかったからだ。


「もちろん、電話はかけ放題、そもそもスマートデバイスが誰の物か分からないようになっているわ、アップデートが出来ないから覚えておいて」


「分かりました」


 リンさんから渡されたお茶を飲みながら、少しの間、雑談をしていた。リンさんも店を辞めるんだと聞かされた。リンさんは何処へ行くのか聞いてみたら故郷、九州(中国領行政特区)に帰るんだそうだ。もぐりのサイバーウェア職人は違法だからだと話してくれた。あの法案でアンダーグランドの人間は皆、国外へ脱出するんだとか。


「リンさん。お茶、とても美味しかったです」


「知樹君、またどこかで会えるといいわね」


 そう言いながら極楽堂を後にした。

◆登場人物


木下知樹きのしたともき 十七歳、物語の主人公。


大内重之助おおうちじゅうのすけ 三十八歳、警視庁少年育成課の刑事。


◆リン 年齢不明、新宿二丁目にいる極楽堂のサイバーウェア職人。


武田哲夫たけだてつお 四十歳、密入国の案内人。


◇設定資料


◇バイオメトリクス認証チップ、このチップは生まれた時に身体に埋め込まれる。もちろん、個人の特定、交通機関、買い物など、あらゆる場所でこの認証チップの確認がいる。テックロック社製【ニュージャパン】


◇赤ちゃんボックス、諸事情のために育てることが出来ない赤ちゃん(新生児、子供)を親が託すための制度、知樹もこの赤ちゃんボックスで御徒町おかちまちの施設に入れられた。


◇スマートデバイス、様々な機能を搭載した携帯端末。大昔で例えるならスマートフォンに近い。腕時計程度の大きさで、画面は立体ホログラフで表示される。ヒューマンロジック社【アメリカ】のオペレーティングシステム搭載。


◇全身義体、人間の体を完全に機械サイバーウェアで置き換えたサイボーグのこと。


◇ニュージャパン(旧日本)は三百年前に(第六次世界大戦)領土を他国に占領された。北海(現ロシア領行政特区)九州(現中国領行政特区)上と下を切り取る形で残っている。人口約一億一千万人。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ