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27.朝まで踊ろう

「すまん、知樹。俺が悪かった」健司が謝ってきた。


「もう、気にしてないよ」知樹はそう言いながら、お酒とタバコの自動販売機の商品を補充していた。バッズの通常業務だ。


「俺は調子に乗っていたんだ」「本当に悪かった」


「お互い様だよ」知樹は笑顔になった。健司は知樹に高坂の件を聞いた。


「高坂はどうなるんだ」


「心神喪失で無罪になる可能性がある。仮に有罪だとしても、サイバーサイコーシスの研究モデルになるから死刑は免れるだろうと権三郎さんが言っていたよ」


「そうか、一応はハッピーエンドなのか」


「奥さんと子供の敵は取ったんだ。ハッピーエンドだよ」


 知樹は自販機から回収したお金を現金カウンターで数えた。


「岩本さんの特殊能力ギフトは怖いね」知樹が言った。


「瞬間移動【ムーブ】だろ」


「突然、後ろに立たれたらお終いだよ」


「確かに、あれは嵌ると抜け出せないよな。岩本さんは処刑人ってあだ名もあるし」


「どうして処刑人なんだ」


「組織の裏切り者を始末するのは岩本さんの仕事だからな」


「そうなんだ」


 健司は自販機の両替作業をしていた。作業をしながら何かを思い出している。


「そうだ。今日はバッズの集会があるんだ。一緒に行こうぜ」


「集会ってなに」


「みんなで集まって酒を飲むんだよ」


「いいね、それ。行くよ」


 二人で自販機の補充、回収を夕方まで行った。バッズのエアカー(トラック型)を事務所の駐車場に止めると歩いてアパートに向かった。


 知樹は汗だくになった体をシャワーで流した。とても気持ちが良かった。


 健司が部屋にやって来た。


「準備は済んだか」「まだ、髪を乾かしてないよ」知樹はヘアードライヤーで髪を乾かしていた。「何を着ていけば良いんだ」「普段通りで構わない」「岩本さんと火草は」「後で来るそうだ」知樹は着替えをした。今日は半袖のティーシャツと短パンだった。足には迷彩柄のサンダルを履いた。


「それじゃ行こうか」


 札幌駅前の近くにある繁華街で二人は歩いていた。


「場所はどこにあるの」知樹が健司に尋ねた。


「そこの高層ビルの最上階」


「大きい箱だから三千人収容出来る」


 ビルの最上階にあるクラブは大きかった。入口にガードマンが立っている。「タトゥーを確認します」知樹は左腕を見せた。「どうぞ」と中に入れられた。


「すごい人の数だ。全員、バッズなの」クラブ内は音楽が大音量で流れているので大声で話をした。「そうだぜ」と健司も大声で話した。知樹の隣に安達京子あだちきょうこさんが立っていた。「あら、二人とも。元気にしてた」と話しかけられると、知樹は「はい、元気でした。京子さん。お久しぶりです」と返した。


 テーブルに様々な料理が並んでいた。ビュッフェ形式で食べ放題だった。


 先ずは飲み物を頼みにバーカウンターに来ていた。「ビール二つ」と健司が頼んだ。入れたての冷えたビールを二人で乾杯した。


「お疲れさん」そう言いながら二人はビールを一気に飲み干した。健司は女の子の姿に変身した。ビールのお代わりを貰うと料理を取りに行った。


「健司、何を食べるの」


「ステーキと刺身だ」女の子の姿で健司が言った。


「知樹は何を選ぶんだ」


「あそこの岩牡蠣とか美味しそうじゃない」


「あれは美味そうだ。俺も食う」


 二人ではしゃいでいた。この会場とバッズの雰囲気がとても良かった。


 京子さんがマティーニを飲んでいた。


「権三郎さんは居ないんですか」と知樹が聞いた。


「あそこに居るわよ」と京子さんが指をさした。


 権三郎さんはすでに酔いつぶれていた。カウンターで寝ている。


「あの人、お酒は下戸なのよ」そういうと後ろに火草が立っていた。


「火草、お疲れさま」と知樹が声を掛けた。


「迷う、実に迷う。なにから食うか」火草は考え事をしていた。


「ま、また、後でね」知樹は逃げ出した。


「健司、ビールのお代わりを貰ってくるよ」「おう、助かる」そう言いながら健司は女の子の姿で大きいステーキを食べていた。知樹はバーカウンターでビールのお代わりを頼んだ。すると、会場が突然、大騒ぎになった。


「錬さーん」「錬さん」「錬さーーん」と会場が盛り上がっている。


あれは「清宮錬せいみやれんだ」バッズのリーダー、パンクバンドバッズのボーカル。清宮錬せいみやれんが会場に現れた。


 そこに居るだけで感じる存在感。みんなの声、どれを取っても凄いの一言だった。清宮錬せいみやれんの後ろに岩本さんが居た。


 知樹のスマートデバイスが振動した。「知樹君、こっちに来てくれないか」と岩本さんから連絡が来た。「今、向かいます」と知樹は返事をした。


 特別席に入ると清宮錬せいみやれんが出迎えてくれた。


「よう、お前が知樹だな。ようこそ、バッズへ」そう言いながら固い握手をした。


「初めまして、木下知樹と言います」知樹は思いっきり緊張していた。


「俺は清宮錬せいみやれん、錬さんで良いよ」


「話は岩本から散々聞かされている。とんでもない特殊能力ギフトじゃないか」


「いえ、そんなことは」知樹は遠慮していた。


「そう、遠慮するなって、凄いことは凄いで良いんだよ」


「うちの看板になるかもな。なぁ、岩本」


「知樹君は必ず、大きくなりますよ」


「ほらな、この惚れっぷりだ」


「飲める口か」錬さんがテキーラのショットを入れてくれた。


「はい」


 錬さんと二人でデキーラの一気飲みをした。


「良い飲みっぷりだ。ブラザー」錬さんが知樹の肩を叩いた。


「これで盃交わしたな」錬さんが笑顔になった。


「俺はまだ、ワールドツアー中で忙しいんだよ。ここに来たのは知樹と会うためだ」知樹を見つめた。


「良い目をしている。それなら問題は無いな」


「じゃ、行くぜ。岩本、留守はお前に任せた」


 そう言いながら清宮錬せいみやれんは会場を出て行った。


 特別席に健司と火草が来た。


「知樹、ずるいだろう。お前だけ錬さんを独り占めとか」女の子の姿で健司がまくし立てる。


 火草は料理を食べるのに夢中だった。


 岩本さんが「まぁ、今日は仕方がないよ。突然、来るんだ。あの人は」とため息をついた。


「なんだか凄い人でしたね」知樹が言った。


 それから少し時間が経過した。夜の十二時だった。


 岩本さんと京子さんがカウンターで飲んでいた。岩本さんは「あの人は大変だよ」と京子さんに愚痴をこぼしていた。


 健司はテーブル席で寝ている。その隣で火草は「もう食べられないよ」とよだれを垂らしながら寝ていた。


 知樹は音楽ブースで知らない仲間たちと一緒に踊っていた。


 宴は朝まで続いた。

◆登場人物


木下知樹きのしたともき 十七歳、物語の主人公。


岩本信いわもとしん 二十二歳、ストリートギャング(バッズ)の幹部。


上野火草うえのひぐさ 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


松田健司まつだけんじ 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


時田権三郎ときたごんざぶろう 五十一歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


安達京子あだちきょうこ 二十二歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


清宮錬せいみやれん 二十八歳、ストリートギャング(バッズ)のリーダー。パンクバンド(バッズ)のボーカル。


◇設定資料


◇北海(現ロシア領行政特区)には主に五つのギャング集団が存在する。ストリートギャング【バッズ】は構成員人数が三千人、主にニュージャパン(旧日本)系のギャング集団と言われる。

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