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26.サイバーサイコーシス②

 知樹は事務所で岩本さんと話をしていた。


 一つは今井里奈の件、現在、岩本さんのチームではメンバー募集をしていないそうだ。ただ、他のチームに当てがあると岩本さんは言った。「そっちに確認を取るよ」と持っているタバコを灰皿に捨てた。


「さて、本題に入ろうか」


「このブレスレットだが、中にメモリーチップが入っている。中を調べたら暗号資産だった」


「今のレートだと、六千万円になるね」


「それで高坂の願いは叶えられますか」知樹が真剣な目で岩本さんを見た。


「一般人の殺しはバッズではやっていないけど。これは殺人犯をターゲットにしているから問題無いよ」


「五千万円でバッズにオーダーを入れよう。残りの一千万円はあることに使う。知樹君は奥さんと子供が殺された場所と時間を調べるんだ」今回のオーダーは岩本さんが参加することになった。残りのメンバーは火草と知樹だった。健司はオーダーから外された。


 知樹はすぐに動いた。軍警察に連絡を取ると担当者に繋いで貰った。被害者は二六五二年、五月一日、札幌市にある自宅の部屋で殺されていた。犯行時間は夜中の三時頃、死亡解剖によると無数の刺し傷から怨恨が疑われた。だが軍警察は犯人を特定出来なかった。知樹はデバイスにそれを記憶して担当者にお礼を言うと通話を切った。


 岩本さんに連絡をした。「そうか、なら一緒に行こう」岩本さんと再び合流した。


 向かったのはストリートギャング【スケルター】の事務所だった。


「久しぶりだな」と強面の男が出迎えた。知樹は緊張しながら頭を下げた。


「マリアを頼みたいんだが」と岩本さんが話をした。


「マリアか、金は用意しているんだな」男がそう言うとアタッシュケースから一千万円を取り出して男に渡した。


「そっちの坊主は、初めて見る顔だな」


「知樹と言います。よろしくお願いします」


「俺はキール、スケルターの幹部だ。よろしくな、小僧」男は豪快に笑った。


 三人でロシア政府特別病院に向かった。病院から少し離れた場所にある特別隔離病棟に入った。中は厳重な警備だった。監視カメラと警備ロボットが辺りを監視している。


 地下の階段をさらに降りた。「ここだ、小僧」とキールさんが部屋を指さした。


 中に入ると女性がベッドに座っていた。


「マリア、仕事だ」とキールさんが女性に話しかけた。


「何、今、忙しいんだけど」女性が気だるそうに言った。


「忙しいも何も無いだろう。一日中、寝ているつもりか」


「はぁ、見れば分かるだろう。忙しいんだよ」女性がイラついていた。


「そっちの男の子は誰、可愛いじゃない」マリアさんは知樹を指さした。


「知樹と言います。よろしくお願いします」知樹はマリアさんに挨拶をした。


「ふーん、分かっているじゃない。礼儀は必要よ」


「それで、時間と場所は」マリアさんは知樹に尋ねた。


「ええと、犯行時間と場所は二六五二年、五月一日、札幌市の自宅の部屋。犯行時間は夜中の三時頃です」それから知樹は住所を座標でマリアに伝えた。


 マリアはそれを紙に書き出した。


「あたしの特殊能力ギフトはどんな過去でも見ることが出来るの」


 そう言いながらマリアは虚空を見つめた。


「成程ね、居たわ。女性を刺している。赤ちゃんはすでに死んでいるみたい」


「男の顔に大きな火傷の痣があるわ、洋服はどこかの制服ね。胸のポケットに林電気工業と書いてある刺繍がある。帽子を被っているから髪型は分からないわね」


「そんなところかしら」


「相変わらず、凄い能力だな」とキールさんがマリアさんを褒めた。


「やめてよ」マリアさんは地面を見つめていた。


 知樹が「ありがとうございました」と言うとマリアさんは「どういたしまして」とベッドに横になった。


 帰り道、知樹がキールさんに尋ねた。


「マリアさんはどうして隔離されているんですか」


「あいつは多重人格者でな、別の人格になると自殺するんだよ。だから監視付きの病院に閉じ込めているんだ」それから少し話をしてキールさんと別れた。


 林電気工業の工場で火草と合流した。岩本さんが「俺が話をしてこよう」と工場の中に入っていった。その間に火草と話をした。大まかな流れを説明すると岩本さんが戻ってきた。


「分かったぞ、三船って奴だ」「工場で働きながら殺しをやったんだろう」「軍警察も分からない訳だよ。完全なアリバイがあるからね」と二人に説明をした。三船の住所は工場から近いアパートだった。


「知樹君、最後は君に任せるが、それまで待機してくれ、こいつはただ始末するだけじゃ駄目だ。落とし前を付けないとね」


「火草はスコープで常に追跡を頼む」


「さぁ、行こうか」三人で三船の住所に向かった。かなり古い建物の一階に三船の部屋があった。チャイムを鳴らすと三船が出てきた。


「どちらさまですか」


「二六五二年、五月一日の件だ。覚えているか」岩本さんが話をした。


「さぁ、知りませんね」


「女性と子供をめった刺しにした件だよ」


「何を言っているんだ。帰れ」と言いながら玄関を閉めた。数秒後、窓が割れる音がした。三船はアパートから逃げ出した。


「さて、狩りでもしようじゃないか」


「火草、三船はどこにいる」デバイスに三船の位置が表示された。


 三船は公園の中に隠れていた。三人で近寄ると「何なんだ、お前ら、警察じゃないのか」と震えていた。手には包丁を持っている。


 突然、岩本さんが三船の後ろに現れた。ナイフで背中を軽く刺した。


「五秒やる。逃げろよ」


 三船は走り出した。が、三船の前に岩本さんが現れた。今度は前から腹部をナイフで軽く刺した。


「ほら、五秒だ、逃げろよ」三船は血相を変えながら逃げ出した。背後に岩本さんが現れた。ナイフで三船を軽く刺した。


 四十回目、三船が動くのを止めた。「痛いよ、助けてくれ」と泣き出していた。「お前は殺しを止めたか。止めなかっただろう。赤ん坊まで殺しているんだ」そう言いながら岩本さんは三船を見下ろしていた。「知樹君、後は任せるよ」


 知樹はコンセントレーションを発動させて時間を待った。


「助けてください、助けてください、助けてください」三船が泣きながら知樹の足元に擦り寄ってきた。それを知樹はこの世で一番汚い物を見るように眺めた。


「脳みそぶちまけろよ」


 拳を三船に降り下ろした。三船の頭が爆発した。凄い轟音と衝撃が地面を揺らした。


「高坂さん、奥さんと子供の敵は取りましたよ」そう言いながら知樹は空をみていた。

◆登場人物


木下知樹きのしたともき 十七歳、物語の主人公。


岩本信いわもとしん 二十二歳、ストリートギャング(バッズ)の幹部。


上野火草うえのひぐさ 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


高坂隆こうさかたかし 三十六歳、元ロシアの傭兵。


◆キール 三十二歳、ストリートギャング(スケルター)の幹部。


◆マリア 三十歳、ストリートギャング(スケルター)のメンバー。


◇設定資料


◇北海(現ロシア領行政特区)には主に五つのギャング集団が存在する。ストリートギャング【スケルター】は構成員人数が五千人、主にロシア系のギャング集団と言われる。

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